2012年03月01日掲載

人事評価(人事考課)の基礎知識 - 目標管理


(1)二つある目標管理の性格

 先ほども触れたように、人事評価は、目標設定からスタートします。この目標設定を全社的に組織して、その実施も含めて管理していく仕組みを、「目標管理制度」と言います。「成果主義の弊害」の問題は、どうもこの目標管理の運用の問題が非常に大きな原因になっているようです。
 目標管理は、MBO(Management By Objectives)と言われるもので、その言葉どおり、目標によるマネジメントであり、一定期間内にやるべきことを明示して約束し、取り組む方式のことです。その目標管理には、図表14にまとめたように、二つの性格があります。

①能力開発・活性化を目指す目標管理
 一つは、能力開発や活性化を目指したもので、部門メンバーは自らやりたいと思う目標を申告し、その申告した目標を尊重しつつ、目標管理

表に登録してもらい、チャレンジをしてもらうものです。これは、日本にMBOが入ってきたときのやり方(おそらく20年から30年前のやり方)で、どちらかというと人事評価を意識させないほうがよいと考えられたものです。したがって、このタイプの目標管理は人事評価のプロセスとは連動させていません。
 今から考えれば、人事評価に連動しないのは少し変な感じを受けますが、人事評価などを意識させると、せっかく自発的にチャレンジしようとしているよい雰囲気が壊れるのではないかということからきています。もともと年功主義的な時代であり、そうでなくても人事評価結果で処遇格差がそんなに付かない時代に、殊更に人事評価につなげる必要はなかったのでしょう。人事評価に連動しないことを訴え、能力開発や活性化の手法としてのみ活用しようとしたことは、ある意では当然だったろうと思います。

②経営革新の推進手段としての目標管理
 もう一つは、現在主流となっている、経営革新の推進手段としての目標管理です。立てた目標は、その達成活動に対してインセンティブを感じてもらう必要から、人事評価と直接結び付けることとしました。評価に結び付ける目標管理を前提に描いた図表12の人事評価プロセスも、職務目標の設定プロセスを最初に入れています。

(2)運営のあり方を間違うと成果主義の弊害につながる

 この二つの目標管理の違いは、目標管理シートなどの帳票上ではなく、運営上の差で現れてきます。上記①の目標管理は、あくまでも自発性を重視して取り組みますので、部下から示された目標が組織方針とそれほど違うものでなければ、「まあ、やらせよう」ということになるわけです。部下の提案してくる目標が、全社業績目標に連動したり、中長期の革新計画に連動したりすることは、(もちろん連動するに越したことはないでしょうが)それほど厳密に追求しようとは考えません。
 しかし、②の目標管理は、そのところの連動性をしっかり追求します。ですから、管理者の目標企画能力としては大変高いものが要求されますし、部下との調整能力も同様に要求されます。ある意味では、当然の帰結です。しかも、直接的に人事評価につなげるわけですから、チャレンジする目標が本人の等級の難易度に合っているかや、人事評価全体の中でどの程度のウエートでなければならないかなど、結構厳密に考えていかなければなりません。
 要するに、管理者は、全社の業績目標や中長期の革新計画と連動する目標を考え、部下からの提案をも受けて取捨選択し、最もふさわしい目標に仕立て直して部下のやる気を引き出し、かつ、人事評価で「しめし」を付けることをも宣言して、納得させることが求められているのです。
 ここで問題な点は、運営のやり方は人事評価と連動させない①の目標管理の仕組みをとり、実際は人事評価と連動させる②の仕組みになっているというように、目標管理の運営に対する問題意識の低い企業が少なくないことです。
 目標管理と人事評価の連動性の強さと目標管理の運営のあり方との間を突き詰めて考えないと、「成果主義の弊害」が生まれてしまうことに注意する必要があります。

この解説は『人事評価の教科書』より抜粋しました。高原 暢恭:著 A5 288頁 2,100円
(URL:https://www.rosei.jp/store/book/806



高原 暢恭(たかはら のぶやす)
株式会社日本能率協会コンサルティング
取締役 経営革新本部 本部長 シニア・コンサルタント
1955年生まれ。早稲田大学大学院(博士課程前期:労働法専修)修了。
HRM分野を専門とするコンサルタント。HRM分野にあっても、現地現物を自分の目で見て考えるという現場主義を貫くことを信条としている。
著作に、『人事評価の教科書』(労務行政)、『人事革新方法論序説』(JMAC)
『全社・部門別適正社員数決定マニュアル』(アーバンプロデュース)他。
また、「労政時報」にも賃金関係を中心に多数執筆。
http://www.jmac.co.jp/