2012年03月01日掲載

人事評価(人事考課)の基礎知識 - 人事評価要素群


(1)人事評価要素群と人事評価要素

 ここからは、人事評価表の中にある「項目」の話に入ります。人事評価表に出てくる項目には、「人事評価要素群」と「人事評価要素」の2種類があり、人事評価におけるものの考え方をはっきりと示しています。
 人事評価要素群とは、人事評価の大きなくくりのことで、一般的には、図表15にまとめたように、「成果評価」「能力評価」「情意(態度)評価」といったものです。人事評価要素は、人事評価要素群の中の一つひとつの評価項目を指します。この区分は、人事評価実務を行ううえで重要な意味を持ちますので、記憶にとどめておいてください。

(2)職務行動→外的要因→成果

 図表15の左側の三角形を見てください。社員一人ひとりの「成果」は、社員一人ひとりの「職務行動」から生まれます。この原則を、まず押さえてください。ただ、その関係はストレートに現れる場合ばかりではなく、そこには「外的要因」というものが介在します。
 外的要因とは、本人の職務行動が直接に成果につながることを何らかの形でゆがめるものです。例えば、営業活動をする人が受注目標を達成した場合、非常に景気がよいために、あまり努力していないのに達成することもあれば、逆に景気が悪くて、一生懸命努力してやっと受注目標を達成できることもあります。あるいは、受注した商品を運送会社が運んでいる最中に交通事故でつぶされてしまった結果、売上があがらなかったとき、もし交通事故さえなければ目標は達成していたとしたら、どのような評価結果を導き出すことが基本になるのでしょうか。

 人事評価の実務では、このような場合の処理方法について、一つの共通の理論的な蓄積があり、「成果評価は、外的要因がどうであるかにかかわらず、本人が生み出した成果の高低をそのまま評価する」という原則が決められています。企業によってはこの原則をあえて外すこともありますが、まずは、景気の良い悪いや交通事故をどう評価に組み入れるかという議論をしっかりとするために人事評価要素群という概念が活用されていることは、理解しておいてください(図表16で、人事評価要素群の構造を示しています)。

(3)無視できない外的要因

①結果責任がそのまま問われる「成果評価」
 さて、この外的要因をどう扱うかですが、成果評価(成果評価要素群)

については、外的要因がどうあれ、本人が生み出した成果の高低をそのまま評価するのが原則です。結果だけ評価するといろいろな弊害が起こるということは先に述べたとおりですが、結果を評価しないというのも、いろいろな弊害を引き起こします。株式市場などの動き方を見れば納得していただけるでしょうが、景気が良かろうが悪かろうが、交通事故が起きようが起きまいが、あげた売上高や利益高によって評価され、株価が変動するという側面があります。
 企業経営では、結果というのは非常に大切なものです。このように結果責任が厳然としてある以上、すべての社員についても結果責任をそのまま問われる部分が必要です。もちろん、そのウエートは幹部と一般職とでは違うでしょうが、そういう部分がないと、信賞必罰の「しめし」がつかないことになります。

②正味の本人要因としての「能力評価」「情意(態度)評価」
 しかし、そのような外的要因が全く人事評価に入ってこないのも、またおかしなことになります。もし、外的要因を特に考えないで、結果としての成果のみを評価すればよいではないかと割り切れるのであれば、それは成果評価だけで人事評価を終わらせてしまえばよいことになります。ただ、そうすると、どうも納得性が低くなるのではないかという人がたくさんいたわけです。そこで出てくるのが、本人責任要因としての「能力評価(能力評価要素群)」と「情意(態度)評価(情意(態度)評価要素群)」です。
 この二つの人事評価要素群は、成果を生み出した正味の本人要因ということになります。本人の職務行動によって成果が生み出たわけですが、そこに外的要因(景気とか交通事故など)のフィルターがかかっているわけです。そのフィルターを取り除いたときに、能力と情意(態度)という要素群が出てくるのです。
 能力評価要素群や情意(態度)評価要素群というものを持ってくるもう一つの理由は、図表5の人事評価の人材マネジメント上の目的にかかわるからです。つまり、本人の能力開発あるいは情熱意欲の啓発に人事評価の結果をつなげるためです。
 こうした理由から、図表15の左の三角形のいちばん下にある「職務行動」から、「能力評価」と「情意(態度)評価」に矢印が出ているのです。そうして、これら三つの人事評価要素群の評価結果を組み合わせて、賞与額の決定、昇給額の決定、昇格・降格の決定などにつなげていくことになります。
 このような考え方を背景に、少なくとも、人事評価要素群といったときには、大きくは三つのグループ、多く見積もって五つのグループがあります(昔の人事評価の教科書では、この五つのグループのことを「島」という用語を与えて説明しているものもあります)。

この解説は『人事評価の教科書』より抜粋しました。高原 暢恭:著 A5 288頁 2,100円
(URL:https://www.rosei.jp/store/book/806



高原 暢恭(たかはら のぶやす)
株式会社日本能率協会コンサルティング
取締役 経営革新本部 本部長 シニア・コンサルタント
1955年生まれ。早稲田大学大学院(博士課程前期:労働法専修)修了。
HRM分野を専門とするコンサルタント。HRM分野にあっても、現地現物を自分の目で見て考えるという現場主義を貫くことを信条としている。
著作に、『人事評価の教科書』(労務行政)、『人事革新方法論序説』(JMAC)
『全社・部門別適正社員数決定マニュアル』(アーバンプロデュース)他。
また、「労政時報」にも賃金関係を中心に多数執筆。
http://www.jmac.co.jp/