2012年03月01日掲載

人事評価(人事考課)の基礎知識 - 絶対評価と相対評価


 こうして人事評価基準、さらには人事評価尺度基準に照らして評語・評価点を決定する方式を「絶対評価」と呼んでいます。今までの説明は、すべてこの方式にかかわるものです。
 それ以外には、「相対評価」と言われるものがあります。相対評価とは、評価される側の成績順位に対して上位5%の人を「S」(5点)評価とし、順に上位5~25%の人を「A」(4点)、25~75%の人を「B」(3点)、75~95%の人を「C」(2点)、95~100%の人を「D」(1点)といったように、評語・評価点ごとの分布率を示して、評価結果を決めるものです。

①相対評価から絶対評価に切り替える理由
 よく言われるように、相対評価では、相対評価をするグループ(被評価者の属する母集団)がみんな優秀な結果を出していれば、一般的に見て期待どおり(絶対評価の場合の「B」)の結果の人でも「C」「D」が付く可能性があります。逆に、全体としてレベルの低い結果であれば、「S」や「A」の高い評価が付くことになります。
 このように、なんとなく相対評価は曖昧な感じがしますので、最近は、人事評価は絶対評価にすべきであるという考え方が主流になってきています。
 特に目標管理が盛んになり、期首に立てた目標の達成度を評価の柱に据えるようになると、目標という基準に対して評価をすることが当然基本になりますから、絶対評価の方式をとるようになっていきます。

②絶対評価から相対評価に切り替える理由
 その一方で、絶対評価については、相対評価よりも評価格差を付けにくいという主張もあり、絶対評価を取り入れた企業が相対評価に切り替えるケースも出てきています。
 目標管理を例にとれば、目標設定の段階ではどう考えても達成できないような高い目標を立てないのが普通です。少し無理をすれば手の届くようなレベルの目標が適していると言われ、そうして立てた目標を何とか達成しようとみんな頑張るわけですから、必然的に実績は目標水準付近に固まってきます。最初から達成困難なレベルの目標を立てた場合には、みんな達成困難な目標が割り振られますので、先ほどの人事評価尺度基準でいけば、絶対評価の場合、C評価付近に固まってくる傾向が出てきます。そうなると、評価結果は妥当なものであったとしても、評価格差が付きにくくなり、インセンティブとして機能するのかという心配が出てきます。
 そこで、無理やりに評価格差を付けようという思いから、最近、絶対評価から相対評価に変える企業が出ているのです。絶対評価により7割の人がB評価だったとしたら、相対評価に変えることでその中の上位2割をA評価にし、下位2割をC評価にするといった具合です。
 時代の流れが絶対評価に向いているという認識だけでは、問題は解決しません。実際の運用レベルのアップを目指して、相対評価を利用できる可能性があるかどうかをよく考えてみる必要があります。
 加えて、運用ベースで考えれば、絶対評価を行うと、どうしても寛大化傾向を生み出してしまうと主張する人もいます。しかし、先ほどの話は、相対評価の利点を説明したことになるものの、この主張は、絶対評価がかえっていい加減な評価を生み出す恐れを大きくしているというものであり、必ずしも、絶対評価がよいか、相対評価がよいかを決める話ではありません。寛大化傾向が生じないように、評価者を指導して正さなければならない話です。

③絶対評価と相対評価は並存できないのか
 しかし、絶対評価があまりにも寛大化傾向を生み出すことから、評価者を指導するよりも、技術的対応によって人事評価制度の組み立て方に補正を加えようという発想になり、一次評価を絶対評価で行い、二次評価以降を相対評価により補正するやり方が出てきています。実は、多くの企業がこのような絶対評価と相対評価の組み合わせを、実際の評価において行っています。
 図表22に、絶対評価と相対評価の定義をまとめました。このように、絶対評価と相対評価は、基本的には相対する方式であることは間違いありません。しかし、実際上の運用の苦労から、両者を一次評価・二次評価という段階において、絶対評価と相対評価を分けて組み込むということも行われており、人事部門の人はこれを不思議なことだと考えてはいません。
 もちろん、理屈からすると不思議だと考えるべきですが、実際の運用の苦労を考え、少しでも妥当な評価に近づくことができる現実的な技術として、絶対評価と相対評価の並存は十分考えられるものなのです。

この解説は『人事評価の教科書』より抜粋しました。高原 暢恭:著 A5 288頁 2,100円
(URL:https://www.rosei.jp/store/book/806



高原 暢恭(たかはら のぶやす)
株式会社日本能率協会コンサルティング
取締役 経営革新本部 本部長 シニア・コンサルタント
1955年生まれ。早稲田大学大学院(博士課程前期:労働法専修)修了。
HRM分野を専門とするコンサルタント。HRM分野にあっても、現地現物を自分の目で見て考えるという現場主義を貫くことを信条としている。
著作に、『人事評価の教科書』(労務行政)、『人事革新方法論序説』(JMAC)
『全社・部門別適正社員数決定マニュアル』(アーバンプロデュース)他。
また、「労政時報」にも賃金関係を中心に多数執筆。
http://www.jmac.co.jp/