2022年07月19日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [234]『多様な人材のマネジメント』

(佐藤 博樹/武石 恵美子/坂爪 洋美 著 中央経済社 2022年2月)

 

 ダイバーシティ経営の推進が必要とされる今日、日本企業が直面している課題を踏まえ、多様な人材の能力発揮を経営価値の向上につなげるための人事管理、求められる社員像やそれに関連する取り組みを紹介した本です。

 序章で、「理念共有経営」の実現推進、多様な「人材像」を想定した人事管理システムの構築など、ダイバーシティ経営を支える五つの柱を挙げています。第1章では、ダイバーシティ経営の推進における経営戦略との整合性の重要性を説き、経営戦略上どのような人材戦略をとるのかを明確にして進める必要があるとしています。

 第2章では、職場の人材の多様性が増すことは、生産性や創造性の向上など多くの成果が期待される一方、職場のコンフリクトや不公平感の増大につながるリスクもあると指摘。そうした効果やリスクを左右する、①企業を取り巻く環境、②施策を運用する管理職、③施策を受け止める社員などの要因を視野に入れて施策を推進する必要があると説いています。

 第3章では、「ワーク・ワーク社員」(無限定社員)が減り、「ワーク・ライフ社員」(限定社員)など多様な就業ニーズを持つ社員が増え、企業も勤務地限定制度などの導入を進めてきているが、真に多様な社員を前提とした人事管理システムに日本企業が転換するためには、従来の「無限定雇用」(いわゆる正社員制度)を改革すべきであり、それとは別に多様な正社員制度を導入しても、正社員制度を本流、多様な正社員制度を傍流とする階層化が生じるだけであると述べています。

 第4章では、多様な人材が活躍できる柔軟な「働き方」に転換するために、時間意識の高い働き方への転換、働く場所の柔軟化に加えて、仕事と仕事以外の生活の境界管理が重要であり、自由時間に「心理的資本」を回復する「リカバリー体験」を実現することで、社員が仕事にエンゲージメントを感じたり、仕事でのパフォーマンスが向上するという好循環が生まれるとしています。

 第5章では、ダイバーシティ経営の前提となる労働者モデルは「自律的なキャリア形成」を行う個人であるとし、ダイバーシティ経営で重要な役割を担う社員の意識や行動の在り方、それを支援する企業のキャリア支援について述べています。

 第6章では、欧州企業のダイバーシティ経営の現況について事例分析し、その特徴から日本企業への示唆を読み取っています。欧州企業も人材の多様性を重視する経営に円滑に移行できているわけではないが、現場の管理職に人事権を委ねており、日本に比べてダイバーシティを阻む壁は低いとのことです。

 個人的な読みどころは第3章で、「メンバーシップ型雇用」と特徴づけられる日本型の従来の人事管理システムの改革の鍵は、職務記述書などの導入による「ジョブ型雇用」(そもそもこの用語の理解に混乱があるとしている)への転換ではなく、日本企業がこれまで堅持してきた社員の異動・配置に関する包括的な人事権の見直し(「企業主導型キャリア管理」→「企業・社員調整型キャリア管理」)にあるとしている点でした。

 全体としてテキストというより論考集であり、ダイバーシティ経営の推進に向けて、どこからどのように実践すべきかという示唆や提言があるのが良いと思いました。欧州企業の事例を紹介しながらも、日本企業の置かれた環境や実情を分析し、それらを踏まえた適合を図っていく姿勢が見られ、一読の価値があると思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』で2022年3月にご紹介したものです。

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー