使える!統計講座(7)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
新卒中心の採用や長期継続雇用が広く行われている日本では、「初任給」や「標準者賃金」(新卒入社後、同一企業で継続勤務している労働者の給与)の水準が大きな意味を持っています。それらの統計データも見てみましょう。
1.初任給の統計データ
初任給とは、新規学卒者に対して最初に支払われる給与のことです。その範囲は、一般的には、所定内給与(所定労働時間を勤務した場合に通常支払われる給与)から通勤手当を除いたものとされています。初任給の統計データには、次のものがあります。
(1)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
(2)中央労働委員会「賃金事情等総合調査」
(3)人事院「民間給与実態調査」
(4)日本経済団体連合会「新規学卒者決定初任給調査」
(5)連合「春季生活闘争 初任給」
(6)労務行政研究所「初任給調査」
このほかにも、各都道府県労働局が管轄地域における「新規学卒者初任給情報」を公表することもあります。
初任給の水準は、業種や地域によって異なります。[図表1]は厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の2009年4月の大卒新卒者(男女)の初任給のデータから抜粋したものです。業種別にみると、鉱業、採石業、砂利採取業や情報通信業等の初任給が高く、サービス業が低くなっています。また、都道府県別に見ると、東京、神奈川、大阪等の大都市圏の初任給が高くなっています。
2.初任給の推移
「賃金構造基本統計調査」のデータを使って1976年以降の初任給の推移をグラフ化してみました[図表2]。これを見ると、バブル経済が崩壊した1992年を境に初任給はほとんど上がっていないことが分かります。
2008年の初任給(201.3千円)は1976年(94.3千円)の2倍以上の金額となっていますが、物価の違いを調整すると、この30年間での初任給の実質的な増加は1.3倍程度と考えられます。給与の変化を時系列でとらえる場合、物価の違いを考慮することが必要になります(なお、物価の違いを調整した給与額を「実質賃金」といい、給与額をそのまま表示したものを「名目賃金」といいます)。
3.標準者賃金とは
「標準者賃金」とは、学校卒業後直ちに入社し、同一企業で引き続き勤務している労働者(標準労働者)の給与のことです。中途採用者の給与は、同一年齢の労働者と比べて極端に高くなったり、低くなったりすることがありますが、このような特別なデータを除いた給与水準を見たいときに、標準者賃金を用います。
「賃金構造基本統計調査」では、「標準労働者」という集計区分で標準者賃金が表示されています。
[図表3]では、製造業(従業員規模1000人以上)の男性・大卒労働者について、標準労働者と全労働者のデータを比較してみました。おおむね標準者賃金が中途採用者を含む全労働者を上回っており、45歳以上では所定内給与で2万~3万円、年間賞与では16万~41万円の差となっています。なお、産業や企業規模により、この給与の差が広がることも、狭まることもあります。
なお、標準労働者数を全労働者数で割って「標準者比率」を算出してみたところ、30~34歳の年齢階級の標準者比率が低いことが分かりました。この年齢階級は2000年前後の就職氷河期に新卒採用された世代です。その後、各社が中途採用により人材の補充を行った(その結果、標準労働者の比率が下がった)ことがうかがえます。
4.標準者賃金の使い方
標準者賃金は、中央労働委員会や日本経団連、東京都等からもデータが公表されています。標準者賃金は新卒から継続勤務している労働者の給与水準を示すものなので、新卒入社から定年までの給与の推移のイメージをつかむとき等に使うこともできます。また、人事部門では、標準者賃金のデータと自社の「モデル賃金(年齢や職務等の条件に基づき算出された賃金のこと)」とを比較して給与制度の適正性の検証等を行っています。