2011年04月07日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第16回 給与制度、労働時間制度を調べる ~就労条件総合調査~

使える!統計講座(16)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

給与や労働時間について「どのような制度が、どれくらい導入されているか」という観点から調べるときがあります。このようなときには、厚生労働省の「就労条件総合調査」を使います。

1.就労条件総合調査とは

これまでのコラムでは、統計調査を使った給与水準等の調べ方を説明してきました。給与について調べるときには、「水準ではなく、そのベースとなっている諸制度のことについて知りたい」というニーズもあるでしょう。

このニーズにこたえるものが「就労条件総合調査」です。

これは、賃金制度、労働時間制度、労働費用、福祉施設・制度、退職給付制度、定年制等について総合的に調べるもので、厚生労働省が毎年実施しています。調査項目は年によって異なっていて、各年の調査項目は[図表1]のとおりです。

「就労条件総合調査」の調査項目
資料出所:厚生労働省「就労条件総合調査」

2.就労条件総合調査から分かること

それでは、就労条件総合調査の内容を具体的に見てみましょう。

(1)労働時間制度

次の調査項目について産業・企業規模別に集計されています。

①1企業または労働者1人平均1日、1週の所定労働時間
②週休2日制採用企業数割合
③1企業、労働者1人平均年間休日総数
④労働者1人平均年次有給休暇の付与日数、取得日数、取得率
⑤変形労働時間制、みなし労働時間制を採用している企業数割合

例えば、「労働者1人平均年次有給休暇の取得率」をみると[図表2]のようになります。これをみると、「大企業と中小企業との間で年休取得率の差が大きい」や「1995年以降、取得率が下がってきている」という2つの傾向を読み取ることができます(なお、年休取得率の低下は、労働基準法改正により、年休付与日数が増えたことも関係しています)。

年次有給休暇の取得率の推移

(2)賃金制度

賃金制度は、年によって調査内容が変わります。2010年は、次の項目について調査が行われました。

①賃金形態別採用企業数割合、適用労働者数割合
②過去3年間の賃金制度の改定の有無、改定項目別企業数割合
③業績評価制度の有無、評価側の課題の有無、課題の内訳別企業数割合
④業績評価制度の評価によって生じる問題点の有無、問題点の内訳、課題または問題点に対する対処法の内訳別企業数割合
⑤常用労働者1人平均所定内賃金額及び賃金額構成比
⑥手当の種類別支給企業数割合、支給した労働者1人平均支給額

実際に「業績評価制度の評価によって生じる問題点の有無、問題点の内訳」のデータを[図表3]で見てみましょう(注:「業績評価制度」とは、労働者の業績や成果をあらかじめ定めた一定の方式に基づいて評価する制度を指しています)。

評価によって生じる問題点の有無、問題点の内訳別企業数割合
資料出所:厚生労働省「就労条件総合調査」(2010年)

業績評価制度を導入している企業の約半数が何らかの問題を抱えていますが、「評価システムや評価結果に対する労働者の納得が得られないこと」は従業員規模が大きくなるほど強くなり、逆に「職場の雰囲気が悪化したり、チームワークに支障が出たりすること」は規模が小さくなるほど強くなるという傾向が読み取れます。

3.労働費用の見方

「就労条件総合調査」では、数年おきに「労働費用」に関する調査が行われます。

「労働費用」とは、「使用者が労働者を雇用することによって生じる一切の費用」のことで、「現金給与のほか法定福利費、法定外福利費、現物給与の費用、退職給付等の費用、教育訓練費、募集費、その他の労働費用(作業服の費用、転勤に関する費用等)」が含まれます。

直近では、2006年に労働費用の調査が行われています[図表4]。なお、ここでは、労働費用の内訳をみやすくするために現金給与額を100として各項目を指数化したものを追加しました。

常用労働者1人1カ月平均労働費用

資料出所:厚生労働省「就労条件総合調査」(2006年)

まず、「労働費用総額」は、「現金給与額」の約1.2倍になっており、給与以外にもかかる人件費も多いことが分かります。また、「労働費用総額」は、1000人以上の企業54万4071円に対し、30~99人の企業37万5777円と大きな差があり、とくに「法定外福利費」「退職給付等の費用」「教育訓練費」については、1000人以上の企業は30~99人の2倍以上のコストをかけていることも分かります。

なお、100~999人の企業の募集費が、1000人以上のそれを上回っていますが、これは、「同じような募集費がかかるのであれば、採用人数が少ない中小企業のほうが1人当たりの採用コストは高くなる」ということを示しています。

このように、就労条件総合調査は、人事制度の導入・運用状況をつかむことができます。人事制度のトレンドを把握するとき、人事に関する諸制度の運用について検討するときに、是非、活用してみてください。