使える!統計講座(17)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
「普通の暮らしには、どれくらいの費用がかかるのだろうか」と思ったことはありませんか。インターネット上では、月々の生計費に関わる統計データも公表されています。ここでは、その見方について説明します。
1.生計費とは
「生計費」とは、1世帯が生活のために支出する費用のことで、具体的には、食費、住居費、光熱費、被服費等の合計額を指します。生計費は、算出方法により「実態生計費」と「理論生計費」とに分けられます。
実態生計費とは各世帯が生活において実際に支出した金額を集計したものです。統計データは、特に説明がない限り、実態生計費が表示されています。
一方、理論生計費とは、生活に必要な物品の費用を合計していく等により算出したものです。理論生計費は、「首都圏で生活するときに最低限必要な費用」というように、特定の条件における生計費を表す場合に使われます。
2.総務省「家計調査」からみた生計費
総務省の「家計調査」では、1世帯当たり1カ月間の収入と支出が、都道府県別、世帯人員別、世帯主の年齢階級別等の区分で集計されています。この調査は、毎月実施されていますが、毎年6月ごろには前年の調査結果をまとめた年報も公表されます(なお、「家計調査」では、「生計費」という言葉は使われておらず、「消費支出」がそれに相当するものとなります。)
[図表1]は、「家計調査」の年齢階級別消費支出(月額)のデータをグラフ化したものです。年齢が上昇するのに伴って世帯人員と教育費が増加するので、消費支出も上昇していきますが、55歳を過ぎると減少していきます。これは、子供が学校を卒業し教育費が減少する、子供が生計を同じにしなくなり食費等が減少する等の理由によるものです。
なお、総務省は、「家計調査」以外にも5年ごとに「全国消費実態調査」を行い、家計の収支状況等を調べています。この調査は「家計調査」よりも調査対象世帯数が多く、分類区分が細かいため、詳しい分析をするときに使われます。
3.人事院が公表する「標準生計費」
人事院は、毎年8月に公務員給与の決定に関する勧告(人事院勧告)を行いますが、そこで、国民の標準的な生活の水準を求めるために「標準生計費」を算定し、その結果をインターネット等で公表しています(同様に、各都道府県の人事委員会も、その地域の「標準生計費」を公表します)。
2010年の人事院勧告で示された標準生計費は[図表2]のとおりです。
ところで、[図表1]と[図表2]を比べると、消費支出と標準生計費との間に金額差があることが分かります。この金額差は、どうして生じるのでしょうか。
家計調査の算出する消費支出は、実際に支払われた支出額の平均値が使われています。これに対して、標準生計費は、家計調査のデータを基にして、並数階層(最もデータ数が多い階層)の支出額となるような工夫を施しています。
[図表3]は、消費支出(世帯人員が4人の場合)の世帯分布図上に、消費支出と標準生計費(2009年)を示したものです。多額の支出をする世帯が存在するため、分布図は右側のすそが長い形になり、平均値である「消費支出」の位置は、山の頂点付近に位置する「標準生計費」よりも右側(高いほう)にずれます。両者の金額差は、ここから生じるのです。
総務省の「家計調査」や「全国消費実態調査」で示される消費支出は、一般的な感覚からすると「普通の生活で、これほど多額の支出をしているだろうか?」と思えるときがあります。これは、これらの集計対象に多額の支出をする世帯のデータも含まれているためです。多くの世帯が分布する「ありふれた生活にかかる生計費」を知りたいのであれば、人事院等の標準生計費を見るほうがよいでしょう。
4.生計費と給与を比較するときの注意点
生計費の統計データと自分の給与とを比較するときには、次の点に注意してください。
(1)消費支出や標準生計費は「生活するために最低限必要な生計費(最低生計費)」を示すものではありません。給与が統計データの金額を下回っていたとしても生活できない状態に陥っているわけではないので誤解しないようにしましょう。
(2)消費支出や標準生計費には、税金や社会保険料の支出は含まれていません。給与と比較するときには、税金や社会保険料を控除した後の「手取り額」と比較するようにしましょう。
なお、総務省の「家計調査」は、支出の項目が細かく分類されているので、教育費やこづかいの平均額まで分かります。眺めているだけでも面白いですから、この機会に、是非、閲覧してみてください。