2011年08月11日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第21回 雇用情勢を調べる(3) ~新規学卒者の就職内定状況など~

使える!統計講座(21)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士


新規学卒者(新卒)の採用において、世間動向を把握することは重要です。官公庁が公表する統計を調べれば、「12月1日時点での内定率」や「新卒入社後3年間の離職率」など、新卒採用に関わるさまざまな情報を入手することができます。

1.就職内定状況調査とは

学校卒業後に就職を希望する人のうち、企業から内定をもらった人の割合を「内定率」、実際に就職した人の割合を「就職率」といいます。新卒の内定率や就職率を調べた統計が「就職(内定)状況調査」です。大学等については、厚生労働省と文部科学省とが共同で「大学等卒業(予定)者の就職(内定)状況調査」を、高校、中学については、厚生労働省が「高校・中学新卒者の就職内定状況等」を、文部科学省が「高等学校卒業(予定)者の就職(内定)状況に関する調査」を、それぞれ行っています([図表1]参照)。

ある時点での内定率を調べるときには、11月以降に公表される「内定状況調査」を、ある年度の新卒の就職状況を調べるときには、7月初旬(大学卒など)、または5月下旬(中学卒・高校卒)に公表される「就職状況調査」を見ます。

2.就職率、内定率の推移をみる

それでは、実際に就職率・内定率の推移を見てみましょう。

2011年、大卒新卒の就職率は91.1%と過去最低の数値となりました。リーマン・ショック後の企業業績の長期低迷により、新卒の就職環境がこれまでになく厳しい状況になっていることがうかがえます。

内定率の過去8年間の平均値は、10月1日時点で64.3%、12月1日時点で76.1%、2月1日時点で83.8%です。これに対して、2011年新卒の内定率は、どの時点で見ても平均値よりも7ポイントほど低い数字となっています。この結果を見ると、2011年3月卒の就職率が91.1%であっても、「ここまでよく持ち直した」という印象を受けるでしょう。2011年に就職した大卒新卒の約15%が、入社前2カ月間のうちに内定をもらったということですから、学生側も、企業側も、最後まであきらめずに就職(採用)活動を続けたほうがよいといえそうです。

3.職業別就職者の比率をみる

新卒の就職状況について詳しく調べたいときには、文部科学省の「学校基本調査」に当たります。ここでは大卒の職業別就職者数を10年前と比較してみましょう([図表3]参照)。

「技術者」の就職者の比率が20.8%から13.3%に落ち込んでいますが、これは、技術者について大学院卒の採用が積極的に行われるようになったことが一因と考えられます。「事務従事者」や「販売従事者」の比率も10年前と比べると下がっており、逆に「保健医療従事者」やサービス業などに当たる「その他」の比率が上昇しています。

この調査結果を見れば、就職率などの量的側面だけではなく、入社後に就く職業などの質的側面の変化についてもとらえられます。

4.入社後3年間の離職率をみる

「大卒新卒の30%は入社後3年以内に辞める」とよくいわれます。それを実証するデータが、厚生労働省のウェブサイト「若年雇用関連データ」に掲載されています。ここでは、学歴別に入社後3年間の離職率が表示されています。

大卒の場合、入社後1年間に13~15%、2年後に11%前後、3年後に9%前後が退職しており、よく言われるように入社後3年間に30%以上が退職している実態をみることができます([図表4]参照)。

他の学歴の入社後3年間の離職率(2007年3月卒)を見ると、中学卒は65%、高校卒と短大等卒は40%となっています。なお、どの学歴で見ても、離職率は2004年以降、低下傾向にあります。これは、「雇用情勢の悪化に伴い、転職先を見つけられないまま、現勤務先に留まっている若年層が増えていること」を示すものとも考えられます。

5.就職率と離職率の関係性を分析する

「就職率が低い年に入社した社員は、世間の厳しさを知っているので、すぐに会社を辞めたりしない」と思い込んでいる人がいます。これは本当でしょうか。

これについて検証するために、1997年から2007年までの就職率と離職率の相関を調べてみました(「相関」については、「第10回 統計的手法を使う③ ~相関と回帰分析~」を参照)。
[図表5]を見ると、入社時の就職率が高くなるほど入社後の離職率は下がってくる(就職率と離職率は負の相関関係がある)との結果が出てきます。したがって、前述の思い込みとは逆で、「就職率が低い年に入社した社員ほど入社後3年間の離職率が高い」という実態が分かります。

これは、「厳しい雇用情勢の中で自分の志望と合わない会社にやむなく就職した者が、入社後短期間で退職するから」「新卒採用を減らした会社が、数年後に中途採用を積極的に行う(若年層の転職機会が増える)ことがあるから」などの理由によるものと考えられます。就職が厳しい時期に採用した社員に対しては、すぐに退職してしまうことがないように、入社後のフォローをしっかりと行わなければいけません。