2011年09月08日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第23回 経済動向を調べる(1) ~GDPと国民経済計算~:使える! 統計講座

使える!統計講座(23)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

国の経済力を示す指標として最もよく使われるのが「GDP(国内総生産)」です。ところで、GDPは、どのように計算され、どの統計で公表されているのでしょうか。今回は、新聞などで頻繁に目にするGDPについて解説します。

1.GDPとは何か

GDP(国内総生産:Gross Domestic Product)とは、一国内で一定期間に産み出されたモノやサービスの付加価値の合計であり、その国の経済の規模を表す指標です。

企業や政府は、土地、資本、労働などの生産要素を使用し、さらに原材料(中間財)を投入して、モノやサービスを産出します。産出されたモノやサービスの金額(産出額)から中間財にかかった金額(中間投入額)を除いた金額が、その企業や政府が新たに産み出した価値(付加価値)となります。

例えば、ある製パン会社が、製粉会社から60円で小麦粉を仕入れ、それを加工して100円のパンとして販売するとします。この場合、生産に関わった会社の売上高を合計すると「160円」(製粉会社60円+製パン会社100円)となり、最終的に販売されたパンの金額(100円)よりも大きくなってしまいます。
この金額のズレを生じさせないようにするために、売上高ではなく付加価値を使って計算をします。製パン会社の付加価値は、パンの売上高100円(産出額)から原材料費60円(中間投入額)を引いた40円です。これと製粉会社の付加価値60円(厳密には、製粉会社も、原料の小麦を仕入れている場合がありますから、その場合は小麦粉の販売価格から小麦の仕入れ価格を引いた額が製粉会社の“付加価値”となります)とを合計した100円が、パンの生産によって産み出された価値とします。こうすれば、“生産活動によって産み出された価値”とパンの販売額とは一致します。

このように付加価値で考えれば、さまざまな企業や団体が関係している複雑な経済活動であっても、そこから産み出されている価値を的確にとらえることができます。そこで、GDPの算出においては、産出額から中間投入額を除いた付加価値を使うのです。

【図表1】GDPの概要

2.GDPを作成・公表する統計(国民経済計算)

日本では、内閣府が「国民経済計算」という統計においてGDPを作成、公表しています。国民経済計算とは、一国の経済の全体像をとらえることを目的として、国際的な基準に従って作成される統計のことで、「SNA(System of National Accountsの略)」とも呼ばれています。

四半期ごとに公表される「四半期別GDP速報」と、年1回公表される「国民経済計算確報」の二つから構成されていますが、特に「四半期別GDP速報」によって示されるGDP成長率(直前3カ月間におけるGDPの伸び率)は、現在の経済状況や景気変動をとらえる重要な指標となっています。

(一方、「国民経済計算確報」は、直近では2009年度の確報が2010年12月〔フロー編〕、2011年1月〔ストック編〕が公表されています。年1回の公表なので、「四半期別GDP速報」と比べ、“現在の”情勢を見る指標としては使いにくいかもしれません)

なお、GDPには、名目値(名目)と実績値(実質)の2種類があります。名目GDPは市場価格に基づいて計算された付加価値の合計額であり、そこから物価変動の影響を除去するように調整されたものが実質GDPとなります。時系列でGDPの動きを見る場合には、「実質」を使ったほうが適切な分析ができます。

3.GDPの推移

それでは、実際にGDPの推移を見てみましょう[図表2]。

30年前の1980年度は287兆円だった実質GDPは、2010年度には約1.9倍の539兆円に達しています。しかし、成長率を見ると、バブル経済が崩壊した1993年度以降、明らかに成長のペースは落ちています。1993年度、1998年度、2001年度は、GDPが前年度よりも減少するマイナス成長を記録し、リーマン・ショックが発生した2008年度とその翌年の2009年度は、-4.1%、-2.4%と2年続けてマイナス成長となりました。2010年度は2.3%のプラスに成長に転じましたが、実額ベースでは2005年度の水準に戻ったということにすぎません。

したがって、「GDPは、この30年前間で約1.9倍になった」とはいうものの、実は、その成長は1980年から2000年までの20年間で達成されたものであり、2000年代に入ってからは、ほとんど成長していないということになります。

【図表2】実質GDPの推移

4.GDPの国際比較

2011年初め、日本のGDPが中国に抜かれたことが世間の注目を集めました。

それまで日本のGDPはアメリカに次ぐ世界第2位の位置にありましたが、その座を中国に明け渡すことになりました。さらに今後は、成長著しい中国と日本のGDPの差は開いていくことになるでしょう。

[図表3]は、アメリカ、日本、ドイツ、中国の名目GDPの推移を示したものです。前述のとおり、日本のGDPは、2000年代に入ってから横ばいで推移しており、経済成長は他国と比べると低くなっていることがわかります。私たちは、中国経済の急成長に脅威を感じる前に、日本経済の成長力を取り戻すことを考えるべきだといえるでしょう。

【図表3】アメリカ、日本、ドイツ、中国の名目GDPの推移

GDPは、経済の動きをつかむうえで、最も基本的な指標といえます。新聞などで報道されたときに注意するだけではなく、必要に応じて内閣府の国民経済計算のサイトなどを閲覧して、常にその動向をつかんでおくことが必要です。