使える!統計講座(24)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
私たちは、「景気が良い(悪い)」という表現を日常会話でもよく使います。この景気の良し悪しや動きを客観的に測定する指標が「景気動向指数」です。景気の動きを把握しておくことは、ビジネスパーソンの基本。今回は、景気動向指数について説明します。
1.景気動向指数とは
景気動向指数とは、様々な経済活動に重要で、かつ景気に敏感に反応する生産、雇用などのデータの動きを統合することによって、景気の現状把握および将来予測に資するために作成される指標です。内閣府が、毎月作成し、公表しています。
・CIとDI
景気動向指数には、コンポジット・インデックス(CI)とディフュージョン・インデックス(DI)の2種類の指数があります。
CIは、構成する指標の動きを合成することで、景気変動の量感――つまり、変動の大きさやテンポなど――を表します。
DIは構成する指標のうち、改善している指標の割合を算出することで、景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測定することを主な目的としています。
従来、景気動向指数はDIを中心とした公表形態でしたが、近年、景気変動の大きさや量感を把握することがより重要になっていることから、2008年4月値以降、CIを中心の公表形態に移行しました。
・先行指数、一致指数、遅行指数
CIとDIには、それぞれ、景気に対し先行して動く先行指数、ほぼ一致して動く一致指数、遅れて動く遅行指数の3本の指数があります。先行指数は景気の動きを予測するとき、一致指数は景気の現状を把握するとき、遅行指数は景気の動きを事後的に確認するときに用いられます。
CIとDIは共通の指標を採用しており、現在は、先行指数12、一致指数11、遅行指数6の29系列の基礎指標からなります。雇用に関する指標では、「新規求人数(除学卒)」が先行指数に、「有効求人倍率(除学卒)」が一致指数に、「常用雇用指数(製造業)」と「完全失業率」が遅行指数に組み入れられています。
2.景気動向指数の見方
景気動向指数は、基準時(現在は2005年)を100とした指数で示されます。
内閣府が9月7日に発表した2011年7月分の景気動向指数(速報値)は、先行指数が106.0(前月比+2.7ポイント)、一致指数が109.0(同-0.3ポイント)、遅行指数が90.0(同-0.6ポイント)でした。先行指数はプラスを示していますが一致指数の前月比はマイナスであり、この結果をみる限り、景気が良くなっているのか、悪くなっているのか、判断ができません。
・CI一致指数の移動平均
ある月の指数や前月比は、一時的な要因に左右されてしまうこともあるため、それだけでは景気の動きを適切に判断することができません。そこで、CI一致指数の移動平均(直近の一定期間の指数の平均値)をとり、一時的な要因による変動をならすことによって景気の動向をつかみます([図表2]参照)。
景気の動向の判断(「基調判断」)には「改善、足踏み、局面変化、悪化、下げ止まり」という表現が使われますが、この判断の基準になっているものもCI一致指数の直近3カ月間と7カ月間の移動平均です。
2011年7月分の一致指数の直近3カ月の移動平均は、1.70ポイント上昇して2カ月連続の上昇、直近7か月の移動平均は0.64ポイント上昇して24か月連続の上昇となっています。3カ月、7カ月の移動平均がともに上昇傾向にあることから、景気は「改善を示している」ものととらえられます。
3.景気循環のとらえ方
[図表3]は、1985年以降の景気動向指数(CI一致指数)の推移を示したものです。これを見ると、経済活動が活発になる「拡張期」と、経済活動が停滞する「後退期」が交互に現れ、それが数年を周期として繰り返されています。これを「景気循環」といいます。
また、景気が拡張期から後退期に変化する転換点を「景気の山」と、景気が後退期から拡張期に変化する転換点を「景気の谷」といいます。
・現在は、2009年3月の「谷」から、徐々に「拡張」
直近の景気の動きを見ますと、2007年10月に景気の山を迎え、それ以降、後退期になりましたが、2009年3月が景気の谷となり、そこから現在(2011年7月)まで景気の拡張期が続いています。
景気がよくなれば(拡張期に入れば)、企業活動が活発になり、私たちの仕事も忙しくなります。逆に、景気が悪くなれば(後退期に入れば)、企業活動は低迷し、雇用は不安定になります。景気の動きは、私たちの仕事や生活に密接に関連しています。必要に応じて、内閣府のウェブサイトなどを見て、景気の動きをつかむようにしましょう。