2011年10月20日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第25回 経済動向を調べる(3)~「3カ月後」の先行きの見通しをつかめる日銀短観~:使える! 統計講座

使える!統計講座(25)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

新聞などで「日銀短観」という統計名を目にしたことはありませんか? 日銀短観は、景気の現状や先行きを見ることができる統計で、海外でも”TANKAN”の名称で知られています。今回は、日銀短観について説明しましょう。

1.日銀短観とは

「日銀短観」は、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的として、日本銀行が四半期ごとに実施する統計調査で、正式名称は「全国企業短期経済観測調査」といいます。

調査は、資本金2000万円以上の民間企業(金融機関を除く)の中から抽出された約1万社を対象として毎年3、6、9、12月に行われており、その結果は調査翌月にインターネット上等で公表されます。

調査項目は、業況の現状や先行きに対する見方を問う「判断項目」、および売上高や新卒採用者数などの計画値や実績値を問う「計数項目」から構成されており、さらに「計数項目」は「年度計画」「四半期項目」「新卒採用状況」に分かれています([図表1]参照)。生産、販売面から財務面に至るまで幅広い項目を調査していますから、これを見れば企業活動全般を把握することができます。

[図表1]日銀短観の調査項目

●特徴1:「DI」指標を採用

日銀短観の特徴の一つとして、判断項目において「DI(ディフュージョン・インデックス)」という指標を採用していることが挙げられます。

DIとは、ある調査項目について、各調査対象企業が三つの選択肢の中の一つを選び、その結果を「第1選択肢の回答社数構成比(%)-第3選択肢の回答社数構成比(%)」で表示するものです。

例えば、「業況」については、調査対象企業に「1.良い、2.さほど良くない、3.悪い」という三つの選択肢の中から一つを回答してもらい、それぞれの回答社数の構成比(%)を求めた上で、「1.良い」の社数構成比から「3.悪い」の社数構成比を引いた数値をDIとして示します。DIが「20」ならば、回答企業数において「良い」が「悪い」を20ポイント上回っているわけですから、業況が良い状態にあるものと考えられます。

DIは、企業の経営状況に対する認識を分かりやすい形で示した指標なので、景気の動きをとらえるときなど、さまざまな場面で活用されています。

●特徴2:「今後の見通し」についても調査

日銀短観のもう一つの特徴として、「現在の状況」に加えて「今後の見通し」についても調査していることが挙げられます。ほとんどの統計調査は、過去の実績値を集計したものですから、その結果を見ただけでは、今後の動きをつかむことはできません。日銀短観では、判断項目の各項目について「先行き(3カ月後まで)の状況」を、また計数項目では「年度計画」の計画値を調査しており、そこから企業の今後の動きを大まかに読み取ることもできます。

2.業況判断DIと景気動向指数

日銀短観のデータの中で世間から最も注目されているデータは、判断項目の「業況」でしょう。業況判断のDIが高ければ「業況が良い」ととらえている経営者が多い状態ですから、企業活動が活発に行われ、景気も良くなっているはずです。したがって、業況判断DIは、景気の実態・先行きを判断するときの重要な指標となっています。

「業況の良し悪しは人間が主観によって判断したものであるし、さらに『良い』の社数構成比から『悪い』と答えた社数構成比を引くという簡単な方法で、景気の動きをとらえられるのか?」――という疑問を持つ人はいないでしょうか。

この疑問にお答えするために、「業況判断DI」と前回取り上げた内閣府の「景気動向指数(一致指数・CI)」の動きを[図表2]で比較してみました。

[図表2]業況判断DIと景気動向指数(一致指数・CI)の推移(クリックして拡大)

景気動向指数(一致指数)は、「生産指数(鉱工業)」や「営業利益(全産業)」等13項目のデータを使って算出される指標ですが、これと業況判断DIの動きはほぼ一致しています。これを見れば、業況判断DIが景気の動きをとらえる上で有効な指標であることが分かるでしょう。

「良い・悪い」という定性的なデータを基にした業況判断DIと、定量的なデータを複雑に組み合わせて算出した景気動向指数(CI)とが見事なまでに一致することを見ると、人間の直感的な判断力というものはまんざら捨てたものでもないと思えてくるでしょう。

3.雇用人員DI(予測値)と新規求人数の関係

企業の様々な「業況判断」は、実際の経営行動に表れるはずです。例えば、日銀短観の判断項目で「雇用人員が過剰」と回答した企業は、採用抑制などの行動を起こすものと考えられます。このことを検証するために、雇用人員DI(予測値)と新規求人数の動きを比較してみましょう。

[図表3]を見ると、雇用人員DI(予測値)と新規求人数はまったく同じ動きをしています。このことから、「3カ月後には雇用人員が不足する」と判断した企業が、新規求人数の増加という具体的な行動を起こしていることがうかがえます。

[図表3]「雇用人員DI」と「新規求人数(季節調整値)」の推移(クリックして拡大)

日銀短観の判断項目の予測値は、企業側の今後の見通しを示している指標ですから、これを見れば、企業がこれからどのような行動をとるのか、大まかにつかむことができます。「企業の動きをリアルタイムでつかんでおきたい」と思う人は、短観が公表される都度、判断項目の予測値をチェックするように心掛けましょう。