2011年11月02日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第26回 企業業績を調べる(1) ~主な経営指標/労働分配率~:使える! 統計講座

使える!統計講座(26)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

近年、インターネットを通じて経営指標に関する統計データも簡単に入手することができるようになりました。今回は、「労働分配率」を例にとって、経営指標を統計データと比較するときの注意点について説明します。

1.主な経営指標

企業業績の良しあしは、「売上高はどれくらい増えているか」、「いくらぐらい利益が出ているか」等の数値(経営指標)で捉えられます。主な経営指標は[図表1]のとおりです。


[図表1]主な経営指標と算式(クリックして拡大)

経営指標を分析するときには、二つの方法があります。

一つは、「自社における時系列の動きを見る」方法、もう一つは、「業界の平均値と比較する」方法です。近年、企業の財務状況等を調べた統計調査の結果がインターネットで公表されるようになり、経営指標の業界平均値等のデータを入手することが容易になったことから、二つめの方法による経営指標の分析が積極的に行われるようになっています。

今回は、「労働分配率」という指標を例にとって、統計データを使って経営指標を分析するときの注意点について見ていきましょう。

2.労働分配率とは何か

「労働分配率」は、国や企業が新たに生み出した価値(付加価値)のうち、どれだけ労働力に配分したかを示す指標です。

国全体で(マクロ的な視点から)とらえた労働分配率は、「雇用者報酬÷国民所得×100(%)」で算出されます。これは、内閣府の「国民経済計算」等で示される指標で、国全体の経済の動きを把握するためのものです。

一方、企業レベルで(ミクロな視点から)捉えた労働分配率は「人件費÷付加価値×100(%)」で算出されます。これは、経済産業省の「企業活動基本調査」や財務省の「法人企業統計調査」からデータを入手することができます。

自社の労働分配率は、損益計算書を見れば算出できます。ただし、損益計算書には、付加価値や人件費という項目はありませんから、分析で使う統計調査の算出方法を確認し、それにあわせて、自社の労働分配率を算出します。

労働分配率が低いのであれば、付加価値のうち人件費に回されている割合が小さいことを示します。したがって、一般的には「労働分配率は低いほどよい(事業運営に余裕ができる)」とされています。

[図表2]人件費、付加価値に含まれる項目

3.労働分配率の業界平均値を見る

ここで、実際の統計データを基に、労働分配率を見てみましょう。

[図表3]では、経済産業省「企業活動基本調査(2009年度実績)」から、主な産業の労働分配率を抽出しました。

[図表3]主な産業の労働分配率

労働分配率は、鉱業や電気・ガス業のように大規模な設備を必要とする産業では低くなり、サービス業のように人手がかかる産業では高くなります。このように、労働分配率は、事業の特性に応じて数字が異なってくるものなのです。

したがって、労働分配率を業界平均値と比較するときには、自社と同じ(または似ている)産業や企業規模のデータを使うようにしなければなりません。

また、自社の事業の特性が「人材に多くのコストをかけて、高品質のサービスを提供する」ということであれば、労働分配率が業界平均値よりも高くなっても当然です。先ほど「労働分配率は低いほどよい」と述べましたが、それはあくまでも一般論にすぎません。労働分配率が業界平均値よりも高いことが問題になるかどうかは、その会社の事業特性を考えて判断することが必要です。

4.労働分配率の推移を見る

では、労働分配率について「時系列の動き」を追ってみましょう。

[図表4]は、経済産業省「企業活動基本調査」より、2001年度以降の労働分配率(全産業)の推移をグラフ化したものです

[図表4]労働分配率と付加価値額、給与総額の推移

労働分配率は2002年度をピークに下降し始め、2006年度と2007年度は、ともに45%未満にまで落ち込みました。その後、2008年度には50%台に戻しています。この間の人件費はほぼ横ばいで推移していることから、労働分配率の変動をもたらしているものは付加価値額の増減であることが分かります。

2008年度は労働分配率が上昇したことから、人件費が増えたように思えますが、実際には、逆に減っています。人件費の減少よりも付加価値の減少のほうが大きかったために、労働分配率が上昇したのです。

このように、「労働分配率の上昇」は、「付加価値の減少」によっても生じ得るもので、必ずしも「人件費の増加」を示しているわけではありません。自社の労働分配率を時系列で見るときには、その変動の要因が付加価値にあるのか、人件費にあるのか――という部分まで、しっかりと分析することが必要です。

5.労働分配率を分析するときの注意点

今回、労働分配率を分析するときの注意点として、次の3点を挙げておきます。

(1)統計データと比較するときには、自社と同じ(似ている)産業や企業規模のデータを使うこと

(2)数字の高低だけを見るのではなく、自社の事業特性を踏まえて、業界平均値との差異の意味することを考えて判断すること

(3)数字が変化しているときには、その要因をしっかりと分析すること

労働分配率以外の経営指標を分析するときにも、これらの点に注意することが必要です。

次回以降のコラムでも、[図表1]に挙げた主な経営指標のデータを入手することができる、公表されている統計調査の使い方について説明していきます。