使える!統計講座(27)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
かつては手に入りにくかった、同業種の経営指標に関する水準データも、今では、インターネットを通じて簡単に入手することができます。今回は、業界別の経営指標のデータ等が掲載されている、財務省の「法人企業統計調査」を紹介します。
1.法人企業統計調査とは
「法人企業統計調査」とは、わが国における営利法人等の企業活動の実態を把握することを目的として、財務省が実施している調査です。損益計算書や貸借対照表を集計したデータが業種ごとに公表されており、自社の経営分析を行うときの重要な資料になります。
調査は、前年度の数値を集計した「年次別調査」と、四半期ごとの業績を集計した「四半期別調査」の2種類があり、決算資料を使って総合的な経営分析を行いたいときには前者を、企業業績の動向をタイムリーに捉えたいときには後者を使います。
[図表1]法人企業統計調査の調査事項と公表時期
2.労働生産性の比較分析
それでは、法人企業統計調査を使って、「労働生産性」の分析を行ってみましょう。
労働生産性とは、「付加価値額÷従業員数」で算出される経営指標で、この数値が高いほど、投入された労働力が効率的に利用されていることを示しています。
経営指標を統計データと比較するときには、まず、統計調査の「調査の概要」などを見て、その調査における用語の定義や指標の算出方法を確認します。法人企業統計調査では、付加価値額と従業員数を次のように算出しています。
(1)付加価値額
「営業純益(営業利益-支払利息等)、役員給与、役員賞与、従業員給与、従業員賞与、福利厚生費、支払利息等、動産・不動産賃借料、租税公課」を合計して算出します(ただし、役員賞与は、2006年度以前の調査では付加価値額に含まれません)。
福利厚生費は、法定福利費や退職給付にかかる費用も含みます。
なお、製造業の場合、工場部門の「従業員給与、従業員賞与、福利厚生費」は「売上原価」の中に(製造原価明細書の「労務費」として)計上されていますが、それも付加価値額に含みます。
(2)従業員数
常用の期中平均人員と、当期中の臨時従業員との合計です。
臨時従業員(パートタイム労働者等)をカウントする場合は、常用労働者の所定労働時間に合わせて人数調整を行います。例えば、常用労働者の所定労働時間が8時間の事業所で1日の労働時間が4時間のパートタイム労働者は、「0.5人」としてカウントされます(実際には、臨時従業員の総労働時間数を常用労働者の平均労働時間数で除したものを臨時従業員の人数とします)。
派遣社員は、派遣元の従業員数としてカウントされ、出向者は、給与を支給した会社の従業員数に含めます。
この用語の定義に沿って、自社の付加価値額と従業員数を集計した上で、自社の労働生産性を算出し、統計データとの比較を行います。
[図表2]は、法人企業統計調査から主な業種の労働生産性(2009年度)のデータをピックアップしたものです。このデータとの比較を行って、自社において労働力が効率的に利用されているかどうかをチェックしてみるとよいでしょう。
3.労働生産性の推移の分析
法人企業統計調査には、過去のデータも蓄積されていますから、時系列で経営指標を分析することもできます。[図表3]は、製造業と非製造業に分けて、2000年度以降の労働生産性の推移を示したものです。
製造業は、2000年度以降、労働生産性を向上させていましたが、2008年度に大きく低下させてしまいました。これは、世界同時不況の影響で付加価値額が大幅に減少したことによるものです。
一方、非製造業は、2002、2006、2009年度には前年度を上回ったものの、全体的に見れば、労働生産性が低下傾向にあります。これは、付加価値の増加を上回る以上に、従業員数が増加してきたことを示しています。なお、非製造業も、2008年度には労働生産性を低下させていますが、製造業のような大きな落ち込みはありませんでした。非製造業では、付加価値額の減少に合わせて非正規社員の採用抑制などの対応をスピーディーに行ったため、労働生産性の大幅な低下を食い止めることができたものと考えられます。
このように、法人企業統計調査のデータを時系列で分析すれば、各業種の経営に動きを大まかに捉えることもできます。
ここでは「労働生産性」を例に挙げましたが、他の経営指標でも同じような分析を行うことができます。自社の経営分析に、法人企業統計調査のデータを、ぜひ、積極的に活用してみてください。