使える!統計講座(29)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
近年、若年層の“組合離れ”や非正規従業員の増加などにより、労働組合の加入者数が減少しています。それに伴い、労働組合の活動や労働紛争の解決において、どのような変化が生じているのでしょうか。今回は、労使関係に関する統計調査を見ていきます。
1.労働組合の加入者数と推定組織率を見る
「労働組合基礎調査」とは、労働組合組織の実態を明らかにすることを目的に、わが国におけるすべての労働組合を対象として、厚生労働省が毎年実施する統計調査です。
この調査では、労働組合の数、および加入者数、そして推定組織率(この調査で得られた労働組合員数を総務省統計局が実施する「労働力調査」の雇用者数で除して得られた数値)などが公表されます。[図表1]は、1955年以降の労働組合員数、雇用者数および推定組織率の推移を示したグラフです。
雇用者数は、1955年の1764万人から年々増加して、1997年には5435万人に達しましたが、1998年以降は減少と増加を繰り返し、ここ数年は約5500万人で横ばいの状態となっています。
一方、労働組合員数は、1955年の629万人から年々増加していきましたが、1976年に初めてその数を減らし、それ以降は、増加と減少を繰り返しています。1994年には1270万人となりましたが、その後、急速に数を減少させて、2010年には1005万人となっています。
推定組織率も、1970年の35.4%をピークに減少を続け、2007~2008年には18.1%にまで落ち込んでいます(2010年は18.5%)。
このような組合員数の減少と組織率の低下により、2000年代以降、労働組合の活動は、それ以前と比べると小さくなってきたものと考えられます。
2.労働争議の状況を見る
実際に、労働組合の活動状況には、どのような変化が見られるでしょうか。
ここでは、それを労働争議の発生件数から、それを捉えていきます。労働争議の状況は、厚生労働省「労働争議統計調査」からデータを入手することができます。
この調査における労働争議とは、次のものをいいます。
(1)争議行為を伴わない争議:争議行為を伴わないが解決のため労働委員会など第三者が関与したもの
(2)怠業(サボタージュ):労働者の団体が自己の主張を貫徹するために作業を継続しながらも、作業を量的質的に低下させるもの
(3)同盟罷業(ストライキ):自己の主張を貫徹するために労働者の団体によってなされる一時的作業停止のこと
(4)作業所閉鎖(ロックアウト):使用者側が争議手段として生産活動の停止を宣言し、作業を停止するもの
(5)その他(業務管理等):上記以外の形態の争議行為を伴う争議(なお、「業務管理」とは、使用者の意志を排除して労働者によって事業所が占拠され、もっぱら労働者の方針によって生産や業務が遂行されるものをいいます)
[図表2]は、1955年以降の、労働争議の発生件数の推移を示したグラフです。
これを見ると、労働争議は1966年から1985年までの20年間に多く発生していたことが分かります。2000年以降は、争議行為を伴う労働争議の発生件数は激減し、2010年は「同盟罷業」が94件、「その他の争議行為」が1件発生しただけでした。
近年、労働組合は、争議行為に訴えるのではなく、使用者との徹底した協議を通じて労働問題の解決を図っていることがうかがえます。
3.個別労働紛争の状況を見る
この10年間、労働争議の発生件数は激減しましたが、一方で、個々の労働者と使用者との間で労働関係について争う「個別労働紛争」が増加しています。その状況は、厚生労働省「個別労働紛争解決制度施行状況」から捉えることができます。
[図表3]は、2001年10月からスタートした「個別労働紛争解決制度」に基づき、各都道府県労働局や各労働基準監督署などに設置された「総合労働相談コーナー」に寄せられた相談件数の推移を示したグラフです。
2002年度には62万5572件であった総合労働相談件数は2010年度には113万234件に達し、民事上の個別労働紛争相談件数も2010年度は24万6907件と、2002年度の倍以上の件数に達しています。
なお、2010年度における民事上の個別労働紛争相談の内訳を見ると、「解雇」に関するものが21.2%と最も多く、続いて「いじめ・嫌がらせ」が13.9%、「労働条件の引下げ」が13.1%となっています。
労使双方にとって労働争議や個別労働紛争は発生しないに越したことはありません。統計データからこれらの世間の動きを捉えながら、良好な労働関係を維持していくよう、労使双方がお互いに努力していくことが必要です。