使える!統計講座(30)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
職場環境の整備に伴い、労働災害の発生件数は少なくなりました。しかし、労働災害の死傷者数は、いまだに年間10万人を超えていますから、労使ともに災害防止の取り組みを怠ってはいけません。今回は、労働災害の発生状況について調べてみましょう。
1.労働災害発生状況のとらえ方
「労働災害」とは、労働者が業務遂行中に業務に起因して受けた業務上の災害のことで、業務上の負傷、業務上の疾病、および死亡をいいます(ただし、業務上の疾病であっても、遅発性のもの、食中毒および伝染病、また、通勤災害による負傷、疾病および死亡は除きます)。
労働災害の発生状況を明らかにすることを目的として行われる調査が、厚生労働省の「労働災害動向調査」です。これには、総合工事業を除く10人以上の常用労働者を雇用する事業所を対象として年1回実施される「事業所調査」と、総合工事業の工事現場を対象として半期ごとに実施される「総合工事業調査」の2種類があります。
この調査では、労働災害の発生状況を労働災害率(度数率および強度率)ならびに労働損失日数で示しています。
(1)度数率…100万延べ実労働時間当たりの労働災害による死傷者数で、災害発生の頻度を表します。なお、この調査の度数率は、休業1日以上および身体の一部または機能を失う労働災害による死傷者数に限定されており、不休災害(医師の手当てを受けたが、1日も休業しなかった〔休業が1日未満だった〕もの)による傷病者は含みません。
(2)強度率…1000延べ実労働時間当たりの労働損失日数で、災害の重さの程度を表します。
(3)労働損失日数…労働災害による死傷者の延べ労働損失日数で、次の基準により算出します。
・死亡:7500日
・永久全労働不能:7500日
・永久一部労働不能:身体障害等級に応じて50~5500日
・一時労働不能:暦日の休業日数に300/365を乗じた日数
2.労働災害発生状況の推移を見る
1970年以降の労働災害の発生率(事業所規模100人以上)の推移を[図表2]に示しました。
度数率、強度率ともに、1970年から1985年までの間に急激に減少しており、各事業所における労働災害防止に向けた取り組みが功(こう)を奏してきたことが分かります。ただし、強度率の場合、死亡者や重傷者を出す大きな労働災害が発生した年は数値が極端に高くなるため、総合工事業では、1985年以降、年によって上下に大きく変動しながら推移しています。
なお、厚生労働省の「労働災害発生状況」によれば、2010年の労働災害による死傷者数(死亡または休業4日以上の負傷)は10万7759人で、前年より2041人の増加となっています。
3.産業別に労働災害発生状況を見る
[図表3]は、2010年の産業別労働発生率を図示したものです。
これを見ると、度数率、強度率ともに、産業によって大きく異なっていることが分かります。
「運輸業、郵便業」は、他産業と比べて度数率、強度率ともに高くなっており、労働災害の発生頻度が高く、しかも災害が発生した場合に労働損失日数が多くなる(重篤な災害につながる)傾向があることが示されています。
一方、「生活関連サービス業、娯楽業」や「宿泊業、飲食サービス業」「卸売業、小売業」は、度数率は高く、強度率は低くなっています。これらは、労働災害の発生件数は多いものの、重篤(じゅうとく)な災害に至るものは少ないことが分かります。
逆に、「総合工事業」は度数率が低く、強度率は高くなっており、労働災害の発生件数は少ないものの、発生すると重篤な災害につながってしまうことが分かります。
このように労働災害の発生状況は産業によって異なりますので、自社の労働災害発生率を統計データと比較するときには、産業別のデータを使うようにしましょう。
労働災害発生率が産業別データを上回っているようであれば、労働環境の整備が遅れていることを示しています。会社は、労働災害が発生する原因を究明して、それが発生しないような対策を立てることが必要です。
なお、事業所の安全衛生管理、労働災害防止活動および安全衛生教育の実施状況等を調査した「労働安全衛生に関する調査」の結果も厚生労働省のウェブサイト上に掲載されていますから、労働災害防止対策を立てるときには、それを参考にするとよいでしょう。