2012年01月27日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第31回 公的年金の動向を調べる ~厚生労働省のホームページより~:使える! 統計講座

使える!統計講座(31)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

「高齢者は、いくらぐらいの年金をもらっているのか?」「公的年金の財源は十分に確保されているのか?」――このような疑問を持ったことがある人もいるでしょう。今回は、厚生労働省のホームページから、公的年金の現状を見てみましょう。

1.老後にもらえる公的年金の平均支給額を見る

65歳に達した人が、一定の要件を満たすと、国から公的年金が支給されます。会社に勤めていた人の場合は、一定額の「老齢基礎年金」と、在職期間中の報酬に応じて支給額が決まる「老齢厚生年金」が支給されます。

・老齢年金の平均支給額は?

ところで、老齢年金の平均支給額は、いくらぐらいでしょうか。このようなデータもインターネットから入手することができます。

厚生労働省のホームページで公開されている「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(本記事下の「関連リンク」参照)を見てみましょう。2010年度末現在、厚生年金保険受給者の老齢年金の平均支給月額は15万3344円、国民年金受給者の老齢年金(基礎年金)の平均支給月額は5万4596円となっています。

これに基づけば、厚生年金保険を受給する夫と国民年金を受給する妻の2人世帯の場合、月額で約20万8000円の年金を受け取っていることになります。

[図表1]公的年金の受給権者と平均支給月額

・老後の生計はどうなっているのか?

この年金支給額で老後の生計は成り立つのでしょうか。

総務省「家計調査」(「関連リンク」参照)によると、世帯主が65~69歳の世帯における消費支出の平均額は26万6579円、70歳以上の世帯のそれは23万8009円となっています(2010年平均、全国・2人以上の世帯)。

65歳以上の消費支出が年金支給額を上回っていることから、公的年金だけではなく、会社から支給される退職年金を使ったり、貯蓄を取り崩したりしながら生活している高齢者世帯が多いことがうかがえます。

・「自分が実際に受け取る年金額」を知るには

なお、実際に各自が受け取る年金支給額は、保険料の納付期間や在職中の報酬額などによって算定されるため、ここで示した平均支給額とは異なる金額となります。日本年金機構は、インターネット上で各自の年金支給額の簡易計算を行うサービスも提供しています(「関連リンク」参照)。

このようなサービスを利用して自分の年金支給額を試算し、今後の生活設計について早い段階から考えてみるとよいでしょう。

2.年金財政の状況を見る

少子高齢化が進むと、年金保険料を支払う労働者が減少し、年金を受け取る高齢者が増加します。このような状況が続くと、年金財政は悪化していくものと考えられます。

年金財政は、現在、どのような状況にあるのでしょうか。

厚生労働省年金局のホームページには、公的年金の財政状況のデータが掲載されています(「関連リンク」参照)。これを見ると、2009年度は、厚生年金が38.0兆円の収入に対して38.8兆円の支出(約7700億円の支出超過)、公的年金制度全体では47.1兆円の収入に対して48.6兆円の支出(約1.5兆円の支出超過)となっています。

[図表2]公的年金の財政状況

厚生年金では119兆円、公的年金制度全体では178兆円を超える積立金がありますから、すぐに年金財源が逼迫(ひっぱく)するような状況ではありませんが、支出が収入を上回る「赤字」が発生している以上、将来に向けて何らかの対策を講じなければいけません。

現在、公的年金支給開始年齢のさらなる引き上げなどが議論されていますが、その背景には、このような年金財政状況の悪化見込みがあるのです。

3.年金制度の成熟度を見る

公的年金制度は、一般的に、年金受給要件を満たす者が少ない状態からスタートし、その後、時間の経過とともに年金受給者が増えてきます。一方、年金の保険料の負担者は、スタート当初は急激に増加しますが、その後は、ほぼ一定水準を維持することになります。このように年金制度は、時間の経過とともに給付と負担のバランスが変化する性質を持っており、この変化の程度を「成熟度」といいます。

公的年金制度の場合、成熟度を見る指標として「年金扶養比率」が用いられています。これは「年金の被保険者数÷老齢年金の受給権者数」から算出される数値で、一人の老齢・退職年金受給権者を支えている被保険者数を表すものです。これが低い(一人の年金受給権者を支える被保険者数が少ない)ほど、年金制度が成熟していることになります。

1990年から2009年までの年金扶養比率の推移は[図表3]のとおりです。これを見ると、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合の年金扶養率が低く、制度が成熟した状態になっていることが分かります。

一方、これら二つの年金制度と比較すると、厚生年金や私立学校教職員共済の年金扶養比率は高いものですが、年ごとの下降度は大きくなっており、現在も成熟が進んでいることがうかがえます。すなわち、厚生年金や私立学校教職員および国民年金は、今後も、保険料負担者よりも受給権者の方が増加する傾向が続き、財政的には厳しくなっていくものと考えられます。

[図表3]公的年金各制度の年金扶養比率の推移