2012年02月09日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第32回 パートタイム労働者などの雇用動向を調べる ~雇用構造調査~:使える! 統計講座

使える!統計講座(32)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

パートタイム労働者、派遣労働者、高年齢者などには、関連する法令にのっとり、特別な雇用管理が必要になります。これらの法令が改正されると、企業としてはそれに対応するために、社内制度の見直しなど、対応していかなければなりません。こうした、(主に法改正に結び付いた)雇用管理の運用実態を調べたものが、厚生労働省の「雇用構造調査」です。

1.雇用構造調査とは

厚生労働省では、毎年、テーマを特定して雇用状況や就業実態などに関する調査を実施しています。これが「雇用構造調査」で、2006年以降は次のテーマで調査が行われています。

2006年 転職者実態調査
2006年 パートタイム労働者総合実態調査
2007年 企業における採用管理等に関する実態調査
2007年 就業形態の多様化に関する総合実態調査
2008年 高年齢者雇用実態調査
2008年 派遣労働者実態調査
2009年 若年者雇用実態調査
2010年 就業形態の多様化に関する総合実態調査
2011年 パートタイム労働者総合実態調査

雇用構造調査のテーマは、調査時点の労働行政の動きや雇用情勢と密接に関係しています。

例えば、2006年4月に、改正高年齢者雇用安定法によって「定年の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講じることが事業主に義務付けられましたが、その2年後の2008年には、「高年齢者雇用実態調査」が行われました。この調査は、高年齢者の雇用状況を調べることに加えて、改正高年齢者雇用安定法の運用実態を把握することも目的として実施されています。

また、2011年に行われた「パートタイム労働者総合実態調査」は、2008年4月に施行された改正パートタイム労働法の運用実態を把握することを目的として行われています。

労働関連法令が改正されれば、会社は、それに対応するため、社内の仕組みの見直しを行います。そして、法改正から数年後に行われる雇用構造調査によって、各社が行った仕組みの見直しと運用実態に関する調査結果が公表されます。この調査結果を見ることによって、私たちは、自社の仕組みの見直しや運用状況が世間の動きと照らし合わせて適正なものかどうかを判断することができます。

2.パートタイム労働者総合実態調査から

それでは、最新の「パートタイム労働者総合実態調査(2011年)」から、パートタイム労働者の雇用管理の実態について具体的に見ていきます。

(1)パートタイム労働者を雇用する理由について[図表1]

パートタイム労働者を雇用する理由について、2006年と2011年の結果を比較してみましょう。

【図表1】 パートを雇用する理由別事業所割合(複数回答/正社員とパートの両方を雇用している事業所=100) 資料出所:厚生労働省「パートタイム労働者総合調査」 ※クリックして拡大

2006年、2011年ともに「人件費が割安なため(労務コストの効率化)」がパートタイム労働者を雇用する理由の第1位となっていますが、回答事業所の割合は、71.7%(2006年)から48.6%(2011年)に大きく低下しています。同様に「仕事量が減ったときに雇用調整が容易なため」という理由も22.4%から16.0%と大きく低下しています。

この変化の背景には、2008年4月に施行された「改正パートタイム労働法」があります。「改正パートタイム労働法」によって、「パートタイム労働者だから」という理由だけで正社員と比べて賃金を低めに設定したり、また、(やむを得ない事由がある場合を除き)契約期間中に解雇したりすることができないものとされました。

そこで、人件費削減のため、あるいは雇用の調整弁とするためにパートタイム労働者を雇用しようとする事業所が2011年には少なくなったのです。

一方、2006年と比べると、「経験・知識・技能のある人を採用したいため」「定年退職者の再雇用のため」という理由を挙げる事業所割合が上昇しています。働き方を柔軟に設定できる「パートタイム労働者」の特性を生かして、専門知識・技能をもつ人や高齢者を効果的に雇用している事業所が増えていることがうかがえます。

(2)パートタイム労働者の正社員転換推進措置の実施方法について[図表2]

「改正パートタイム労働法」では、パートタイム労働者から通常の労働者へ転換するチャンスを整えることが事業主に義務付けられました。これに対して各社が実施した措置を調べてみましょう。

【図表2】 パートタイム労働者の正社員転換措置の実施状況 資料出所:厚生労働省「パートタイム労働者総合調査」 ※クリックして拡大

2011年の調査では、パートタイム労働者の正社員転換推進措置を実施している事業所割合は41.5%となっており、「正社員を募集する場合、その募集内容をパートに周知している」という措置が最も多くなっています。

一般的に「パートを正社員に転換する仕組み」というと「試験制度等、正社員転換制度を導入」する措置として捉えられますが、この措置を実施している事業所の割合は、転換措置を実施している事業所の37.1%にすぎません。

この結果を見れば、自社で実施しているパートの正社員転換措置が世間の動きに沿ったものかどうかが分かります。また、正社員転換推進措置を実施していない事業所は、この結果を参考にして、自社でどのような措置を実施するべきか検討することができます。

冒頭に紹介したとおり、雇用構造調査には、パートタイム労働者以外にも、高年齢者、派遣労働者、若年者の雇用実態などを調べたものがあります。これらの雇用管理についてチェックするときには、雇用構造調査を参考資料として活用するとよいでしょう。