2011年12月06日掲載

Dr.カワシタの誌上健康診断・心得帳【河下太志】 - 貧血はどこまで大丈夫?~もともと、貧血気味の方へ~―Dr.カワシタの誌上健康診断・心得帳(6)

Dr.カワシタの誌上健康診断・心得帳(6)
河下太志
かわしたふとし
リクルートグループ 統括産業医
~もともと、貧血気味の方へ~

女性の健康診断結果をみていると、かなり高い確率で貧血と遭遇します。「これはさすがにふらふらだろうな…」などと考えながら、健康診断上貧血といえる女性に話を聞くと、「私は前から貧血なのです。大丈夫ですよ」などと言ってくることがあります。

しかし、本当に大丈夫なのでしょうか。

『貧血とは』
~貧血という病気を正しく理解しましょう!~

血液には、主に白血球・赤血球・血小板という3種類の成分があります。

この3種類のうち、赤血球は、酸素を体中の組織に運ぶ役割を担っています。この赤血球が少なくなったり、小さくなったりすると、どうなるのでしょう? 体中の組織から酸素不足の症状がでてきます。例えば、脳に酸素が不足すれば、意識が遠くなり、倒れてしまうでしょうし、筋肉に酸素が不足すれば、思うように体が動かなくなり、息切れがしてしまいます。

貧血というのは、このように赤血球が少なくなったり、形が変形したり、大きさが小さくなったりする、血液の病気のことです。

ちなみに「貧血がおきました」と言って病院に来る人の「貧血(症状)」とは、脳に酸素が不足して、意識が遠のいた状態をいいます。

『貧血の原因』
~ひとえに貧血と言っても、いろいろ種類があるのです~

なぜ、貧血になるのか? 赤血球は、骨髄で鉄などを材料として作られ、およそ120日の寿命を経て、肝臓や脾臓(ひぞう)で捕らえられ、分解されます。この赤血球が少なくなる、もしくは変形しているのが、貧血ですから、

(1)材料不足(主には鉄不足)

(2)工場の異常(骨髄の問題や腎不全など)


(3)製品の流出(出血)

――のいずれか、あるいは複数が、その原因となります。

(1)材料不足で多いのは、鉄欠乏性貧血です。何らかの原因で鉄が不足しているので、治療としては鉄剤を内服したり、注射で鉄分を補ったりすることになります。ただ、なぜ、鉄不足なのかを検査しなければなりません。例えば、食事の問題なのか、鉄の吸収不足なのか、下記の(3)のような状況で補っても使われてしまうのか…などを検査し、必要な措置を取らなければなりません。

(2)工場の異常、つまり骨髄などの病気では、まれですが、再生不良性貧血や白血病があります。早期発見されることに越したことはありません。早期発見後、速やかに原因となる疾患の検査と治療に入ることが、何よりの貧血の治療となります。

(3)製品の流出(出血)で多いのは、婦人科系疾患、もしくは消化管出血です。婦人科系疾患では、子宮筋腫や子宮内膜症といった疾患により、月経過多が生じ、出血が多くなり、結果として貧血となることがあります。あるいは、胃十二指腸潰瘍、大腸ポリープ、痔(じ)、消化器系のがんなどにより、消化管出血が持続し、便と共に排出され、気がつけばかなりの出血をしていたというケースもあります。

『貧血患者のビフォー・アフター』
~もともと、貧血気味の方へ。一度、ご覧ください。~

貧血は、通常、大出血が突然起きない限りは、気付かないうちに徐々に進んでいきます。つまり、貧血は、ほとんど自覚症状がないままに進行していく病気であることを意味します。しかし、実は、息切れがひどい、なんとなくだるいといった、“気付きにくい”自覚症状は進んではいるのです…。

私の経験では、冒頭の「私は大丈夫です」とおっしゃる貧血の方は、よくよく話を聞いていくうちに、

「(ちょっと息切れしていたり、ふらついたり、そんなことはあるけど)私は大丈夫です」

――という状態だと分かってきました。つまり、“ちょっと息切れしていたり、ふらついたり、そんなことはあるけど”という状態には、自分自身でさえも気が付いていなかったのです。この方に限らず、貧血の方は“自覚症状を自覚しない”ことがほとんどと言っていいでしょう。

例えば、こんなことがよくあります。

ビフォー(健康診断直後):

社員「大丈夫ですよ。昔から貧血って言われてますから」

産業医「でも、絶対、病院に行って、治療してもらったら、楽になるので、行きましょう!」

社員「(ああ、仕方ないなあ…)分かりましたよ。行けばいいんでしょ」

アフター(病院受診後):

産業医「(受診して)どうですか?」

社員「(少し恥ずかしそうに)駅の階段で、息切れしなくなりました。」
「私、息切れするのって、年齢のせいか、運動不足だからかなあ…と思っていました。貧血が原因だったのですね。気が付きませんでした。」

産業医「(ガッツポーズ)そうでしょ? 病院行ってよかったでしょ?」

『貧血検査』
~要注意検査とは、ズバリ・・・~

貧血検査では、血液から三つの検査を行います。

一つ目は、ヘモグロビン。これは、血の赤さの元となるたんぱく質であるヘモグロビンが、1dl当たり何g含まれるかを測っています。おおよそ、女性が11~15くらい、男性が13~17くらいですが、女性は低め(生理があったりするので)、男性は高めが標準です。この値が低いと、貧血が強く疑われます。

二つ目は、赤血球数。1μ?当たりに含まれる赤血球がいくつあるかの検査です。おおよそ400万~500万ですが、こちらも女性は低め、男性は高めが標準です。これが少なければ、赤血球の数が少ないことによる貧血ということになります。例えば、再生不良性貧血がこれに当たります。

最後に、ヘマトクリット。これは、血液中にある血球の容積の割合です。これは少し分かりにくい検査です。この検査の意味は、貧血の種類によっては、赤血球の数が正常でも症状が出るケースを想定したものです。例えば、鉄欠乏性貧血は、赤血球の数は変わらず、赤血球の一つ一つの大きさが小さめという貧血ですので、単に赤血球が少ないという病気ではありません。そこで、「赤血球の母数に対して、容積は少ない」ということを調べなければなりません。

つまり、ヘモグロビンが少なければ、貧血の可能性が高く、赤血球数とヘマトクリットで、貧血の種類の見当をつけるという流れになります。

さてさて、お待たせいたしました。今回の本題です。

Q.われわれはどの検査に注意すればよいでしょうか?

A.ずばり、ヘモグロビンです。男性で10未満、女性で8未満は、精密検査必須です。

『次回予告』 ~今、もっとも気になる値 BMI~
次回は、健診項目で気にする人は、最も気になる値であるBMI(ボディマス指数)について紹介します。
■河下太志Profile 
リクルートグループ 統括産業医

平成13年産業医科大学 医学部医学科 卒業。現在、産業医科大学産業医実務研修センター非常勤助教、株式会社産業医大ソリューションズ チーフコンサルタントとしても活躍中。著書に、「メンタルヘルス対策の実務と法律【職場管理者編】」(SMBCコンサルティング 実務シリーズ)、「メンタルヘルス対策の実務と法律知識」(日本実業出版社 共著)がある。