Dr.カワシタの誌上健康診断・心得帳(8)
河下太志 かわしたふとし
リクルートグループ 統括産業医
健康診断の脂質検査の項目を見ると、なにやらいろんな種類があります。コレステロールが“脂質”のことだろうと予測はつくものの、実際のところ、よく分からないのではないでしょうか。今回は、この脂質検査について、お勉強しましょう。
まずは、コレステロールの種類について
健康診断結果は手元にありますか? 脂質と書かれている欄をみると…四つ種類が書いてあります。どうでしょうか?
(1)総コレステロール
(2)LDLコレステロール
(3)HDLコレステロール
(4)中性脂肪
――の四項目をよく目にします。
善玉コレステロールとか、悪玉コレステロールとか、聞いたことはあるものの、やっぱりよく分からないですね。
では、この四項目を中心に簡単に説明いたします。
まず、(1)~(3)のコレステロールグループと(4)の中性脂肪は、サラダ油と工業用の油が違うように、同じ脂は脂でも用途が異なります。コレステロールは、体内のホルモンを作る材料ですし、中性脂肪は、生きていくためのエネルギーになるという違いがあります。
コレステロールの中には、たくさんの種類のコレステロールがありますが、その中の2大派閥は、(2)LDLコレステロールと(3)HDLコレステロールです。この2大派閥を含むコレステロール全体数を(1)総コレステロールと言います。
さて、(2)LDLコレステロールと(3)HDLコレステロールの違いは、コレステロールの周囲を覆っているたんぱく質の種類が違うのですが、これが健康という側面からは大きな意味を持ちます。LDLコレステロールは、コレステロールを代謝する臓器である肝臓から全身に運搬されている途中の状態です。運搬され、100%使用されればいいのですが、途中でぽろぽろと脱落し、血管の壁にこびりついてしまうのです。こびりついたLDLコレステロールが身体に害を及ぼすことは言うまでもありません。
一方のHDLコレステロールは、この血管の壁にこびりついているLDLコレステロールをはがし取り、もう一度肝臓へ運び直す途中の姿なのです。前者を悪玉コレステロール、後者を善玉コレステロールとはよく言ったものです。
さて、中性脂肪ですが、またの名をトリグリセライドと言います。これは、また悪者なのです。この中性脂肪は、エネルギーとして使われるまでおとなしくしていればいいのですが、悪友LDLコレステロールと結託して、血管壁の脂汚れを増やしてしまうのです。
図1)脂質の種類
たとえが悪いのですが、血管を排水管に見立てると、LDLコレステロールは文字通り『油(脂)汚れ』、HDLコレステロールは排水管汚れを落とす『洗剤』、中性脂肪は油とともに排水管の汚れとなる『髪の毛や生ゴミのカス』といったところでしょうか…。
ですから、基本的には、LDLや中性脂肪は、低い方がいいし、HDLは高い方がいいのです。総コレステロールは、LDL+HDL+αですから、低い方がいいのです。
コレステロールがたまったら…
昔で言う高脂血症、今では脂質異常症と言われていますが、このような状態が続くとどうなるのでしょうか?
総コレステロールや中性脂肪、LDLコレステロールが高いままで、また、HDLコレステロールが低いままで生活していると、先ほどのたとえで言うところの「油汚れ」や「ゴミ」が「排水管」に段々とたまり、最後は詰まるでしょう。排水管なら、さしずめ、水道工事業者さんにお願いして、管のお掃除を頼み、圧をかけるかして、ゴミを取り除くことになるでしょうが、血管で圧をかけると、確かにゴミが吹き飛びはしますが、どこか別の血管に再びひっかかり、詰まらせてしまいます。心臓の血管に詰まれば、心筋梗塞になるし、脳の血管に詰まれば、脳梗塞になるわけです。
しかも、この油汚れは、血管の弾力性を損なわせ、硬くします。いわゆる動脈硬化の状態です。以前の高血圧の項目でご説明したように動脈硬化になると高血圧になります。つまり、ゴミが吹き飛びやすくなってしまうのです。困ったものです。
ですから、心筋梗塞の治療では、血圧を下げ、心臓カテーテルをして、心臓の血管の中の汚れをほじり出したり、血液の流れが良くなるように小さな風船を膨らませて、管の中から圧迫し、内部を広げたりするのです。
コレステロールの適正値
では、コレステロールは、低ければ低い方がいいのでしょうか(HDLコレステロールは、逆に高い方がいいのでしょうか)? 低すぎるのは、栄養不足やホルモンの異常などの別の病気がありますので、一応下限はあります。
では、その下限ぎりぎりの方が、よいのでしょうか?
いや、実はこれに関しては、大論争中なのです。実は、心筋梗塞や脳梗塞、高血圧は、コレステロールの高い方が起こりやすいのですが、死亡率とか、平均寿命という観点からみると、少し高めの方がいいというデータもあります。
ですので、高すぎず、低すぎずという値がいいようです。
参考までにそれぞれの正常値をご覧いただきますと、
と、このような具合です。
そこで結論。現時点は、正常範囲が良いけれども、どちらかというと正常範囲内でやや高めくらいがベストということにしておきましょう。
一年に一度、健康診断で脂質のところをチェックするときには、
(1)正常範囲内であること
(2)できれば正常範囲の中でもやや高めであること
――を注意してご覧ください。
さて、これらの値、正常範囲を超えた場合は、すぐに病院に行かないとまずいのでしょうか? いいえ、基本的には食生活や運動習慣を見直し、肥満があればダイエットを心がけることで、排水管の汚れは落ちていきます。ただ、この汚れが頑固な場合やすでに詰まりかけているような場合、今すでにかなり汚染された水が流れている場合などは病院に行く必要があります。
つまり、
●血縁関係のある人が脂質異常症を抱えている…遺伝的に脂質異常かもしれません
●例えば、中性脂肪が常時500mg/dL超など異常な脂質異常値を示す場合
●何年もダイエットや生活習慣改善に成功することができず、脂質異常が続いている場合
●すでに脳・心疾患を併発している場合
――などの場合は病院に行き、あとはひたすら健康的な生活を心がけるようにしましょう。ちなみに、やせ形の人はコレステロールが低いことが多いです。もう少し食べてほしいところです。また、まれにコレステロールが低い人で、「クローン病」という腸の病気がみつかることがあります。
健康診断の日は、さまざまな苦労をすると思いますが、自分でとらなければならないし、失敗が許されないし、という面では、最も大変な検査『尿検査』です。