Dr.カワシタの誌上健康診断・心得帳(10・最終回)
河下太志 かわしたふとし
リクルートグループ 統括産業医
心電図をご覧になったことはありますか? 一見、心電図は、不規則な折れ線グラフが、たくさん並んでいるように見えます。しかし、正常な心電図は、複雑な形をしていても、規則的なものなのです。この折れ線の規則性から逸脱した線を読み取り、病気を発見する検査が「心電図」なのです。
※定期健康診断で、心電図は、40歳未満(35歳は除く)の者は医師の判断で省略が可能な項目であるため、すべての方が受診しているわけではないことと、検査結果の表記がさまざまであることをあらかじめご了承ください。
心電図でわかること
心電図は、そもそも心筋の筋肉運動を電気信号として拾ったものです。筋肉の動きの異常を、電気信号から見つけ出します。検査の対象は、当然のことながら、不整脈、心不全、心筋梗塞・狭心症の心臓病など、心臓の筋肉に関連する病気です。
心電図には、なにやら難しそうな折れ線が描かれて、それを専門家が難しそうに判断しているから、さぞかしたくさんの情報があるに違いないと思っている方も多いかもしれません。ですが、通常の安静時心電図は、わずか一回の鼓動を電気信号として折れ線に表しているので、実は、情報が非常に少ないと言えます。他の検査と同じく、あくまでスクリーニング、つまり、ふるい分けしているにすぎません。
心電図は、われわれ医師の中でも、分析の難しい検査ですので、今回は、できる限り平易に疾患別に説明したいと思います。それでも、難しいので、基本的には、何か所見があれば、その指示に素直に従うということをお忘れなく!
不整脈
例えば、ピアノで、3連符の「ドレミ/ドレミ/ドレミ…」というメロディーが正しいメロディーだとしましょう。これを間違えて、「ドレミ/ド・レミ/ドレミ…」とリズムが乱れたり、「レミド/レミド/レミド…」と始まりの音がドではなく、レになってしまったり、「ドドドドドレミ/ドドドドレミ…」となかなか始めの音から次にいかなかったりしたとしましょう。この間違いが、心臓のドクン、ドクンと鼓動するその動きに起こったら、どうなるでしょう。これを不整脈といいます。
まず、「ドレミ/ド・レミ/ドレミ…」タイプの不整脈ですが、「○○期外収縮」とネーミングされています。○○には、「心室性期外収縮」などのように、変拍子の起こる場所の名前が入ります。
次に、「レミド/レミド/レミド…」タイプです。こちらは、「○○ブロック」とか、比較的有名な「WPW症候群」とネーミングされます。心臓の筋肉の収縮を伝える電気信号は、心筋の始まりから終わりまで、決まった経路で伝わるものなのですが、この不整脈では、電気信号が途中から始まったり、違う経路で伝わったりします。すると、心臓の収縮がうまくいかなくなるのです。
最後に、「ドドドドドレミ/ドドドドレミ…」タイプです。こちらは、「○○細動」とか、「○○粗動」とか、言われます。例によって、○○は、心筋の部分名が入ります。これは、心筋の収縮が一部分に限られ、心臓の動きとしては、一部分だけ震えているような状態になります。
これら不整脈は、その症状の重さはピンキリなので、似たような名称であっても、放置していいものから、すぐに病院に行かねばならないものまでさまざまです。もしも、上記のような病名がついていたならば、病名よりも、その結果判定(経過観察でよいのか、精密検査が必要なのか など)を注意していてもらえれば結構です。
それに重要なのは、心電図を計測しているときに、不整脈が発生していれば、検査異常として捉えることができるのですが、たとえ不整脈を持病として持っていても、たまたま検査時に発生していなければ、正常とされてしまいます。自覚症状(脈が飛ぶ感覚、息がつまる感じなど)があれば、医療機関でもっと詳しい検査を受けましょう。
心不全
心不全とは、心臓がその機能を消失している状態のことです。どうして、このような状態が起こるかというと、心臓の筋肉(心筋)が、疲労しやすくなっていたり、伸び切っていたりするためです。
心筋梗塞の後遺症のために、残った正常な心筋が頑張りすぎた結果ということもありますし、心筋症のために、筋肉そのものが弱ってきていることもあります。ただし、一番多いのは、長期間高血圧な状態に曝(さら)され、心臓がその負担を担ってきた結果です。
心電図の結果、「左室肥大」とか、「心不全」といった結果が返ってきた場合は、きちんと精密検査を行い、心臓の機能そのものの評価と、心不全となった原因の分析と対応を実施する必要があります。
心筋梗塞・狭心症
心筋梗塞や狭心症という病気は、心臓の冠動脈(心臓は、自身で繰り出した酸素を含んだきれいな血液の4%を自分のために使うのです。そのための心臓の周囲を囲んでいる血管を冠動脈といいます。)が、詰まってしまったり、細くなり、血流が悪くなったりする状態のことをいいます。あわせて、虚血性心疾患と言ったりもします。
さて、このような状態であれば、「胸が痛くなったり、下手をすると命に関わる状態であったりするのだから、健康診断の心電図で初めて見つかるようなものでもあるまい」と思われるかもしれませんが、そうでもありません。それは、一時的に血流が悪くなって、胸が痛くなっても、また、再開通すれば、さっきの胸の痛みは、「まあ、いいか…」ということになりがちだからです。血流が悪い状態が放置され、まぁいいかと忘れられ――ということを何度か繰り返していると、最後に大きな痛みがガツンとくることがあります。しかし、状況によっては、ちゃんと心電図には記録されていることがあるのです。
このような場合の心電図は、「異常Q波」とか、「ST低下」や「ST上昇」とか、「冠性T波」といったものになります。ネーミングからは、大変な病気かもしれないと連想させらないので、ご注意を。
健康診断に関するお話も、今回の10回目で最終回となりました。日本ほど法律できちんと規定して、一生定期的にメディカルチェックしている国は世界にはありません。ただ、残念なことに、その結果を有効に活用しているとは言い難い状況です。少なくとも数千円はかけて受診しているわけですから、正しく健康診断結果を活用し、より健康的な生活を続けていきたいものですね。