2012年02月23日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第33回 雇用の現状や見通しなどを調べる ~労働経済動向調査~:使える! 統計講座

使える!統計講座(33)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

労働経済の動きをつかみたいときには、厚生労働省「労働経済動向調査」を見るとよいでしょう。この調査では「判断D.I.」が用いられており、生産・売上高や雇用などの状況および今後の見通しを簡単に把握することができます。

1.労働経済動向調査とは

「労働経済動向調査」は、労働経済の変化の方向、当面の問題点などを迅速に把握することを目的として、厚生労働省が2月、5月、8月、11月の四半期ごとに実施する調査です。調査事項は、次のとおりです。

(1)事業所の属性に関する事項
(2)生産・売上等の動向と増減(見込)理由に関する事項
(3)雇用、労働時間の動向に関する事項
(4)労働者の過不足感に関する事項
(5)雇用調整等の実施状況に関する事項
(6)上記に掲げる事項に加え、調査月ごとにテーマを変えて実施する事項

なお(6)は、2008年以降、次のテーマで調査が行われています。

2月調査:新規学卒者の採用内定状況、正社員以外の労働者から正社員への登用
5月調査:次年度新規学卒者の採用計画
8月調査:既卒者の募集採用、新規学卒者採用枠での募集時期
11月調査:事業の見通しと雇用面での対応状況

この調査の特徴として、「D.I.(Diffusion Index:ディフュージョン・インデックス)」が用いられていることが挙げられます。

D.Iとは、「前期と比べて増加」と回答した事業所の割合から「減少」と回答した事業所の割合を差し引いた値です。「生産・売上高等」「所定外労働時間」「雇用」の判断D.I.がプラスであれば、これらを前期よりも増加させた事業所が多いことを示します。

なお、「労働者過不足判断D.I.」は、労働者が不足していると回答した事業所割合から過剰と回答した事業所の割合を差し引いた値であり、この値が大きいほど、労働者が不足している事業所が多いことを示します(「プラス」が労働者不足の状態を示していることに注意してください)。

2.2011年の労働経済の動きを見る

2011年11月の労働経済動向調査の結果から、2011年の労働経済の動きについて、東日本大震災の影響を中心に見ていくことにしましょう([図表1]参照)。

[図表1]生産・売上額等、所定外労働時間、正社員等雇用の判断D.I.(季節調整値)

2011年3月に東日本大震災が発生しましたが、その影響は、2011年5月に実施される調査から表れてくることになります。したがって、「見込」では「2011年7~9月」から、「実績見込」では「2011年4~6月」から、「実績」では「2011年1~3月」からが、大震災発生後に回答を得た調査結果となります。

「生産・売上高等」と「所定外労働時間」の判断D.I.を見てみましょう。

これらの事項の2011年4~6月の「実績見込」を見ると、大幅なマイナスを示しており、さらに、同じ調査で集計された7~9月の「見込」もマイナスとなっています。震災が発生した当初、事業者が経営状況および見通しについて、かなり厳しい認識を持っていたことがうかがえます。

ところが、これらの事項の7~9月の「実績」はプラスとなっています。震災直後は厳しい見通しを持っていたものの、さまざまな工夫により何とか乗り切ったということでしょう。さらに2011年10~12月と2012年1~3月の「生産・売上高等」の見込は、ゼロまたはプラスとなっており、震災前の業況判断と比較すると、むしろ改善傾向を見せています。「正社員等雇用」の見込もプラスとなっており、雇用についても少しずつ回復してきていることがうかがえます。

3.雇用調整の実施事業所割合の推移を見る

労働経済動向調査では、雇用調整を実施した事業所割合と実施方法、および中途採用の実施状況などを見ることもできます。

ここでは、雇用調整の実施事業所割合の推移を見てみましょう([図表2]参照)。

[図表2]雇用調整の実施事業所割合の推移

2004年から2007年までは雇用調整を実施する事業所割合は10%台にとどまっていました。ところが2008年以降、リーマンショックに端を発する景気後退期に入ると雇用調整を実施する事業所が急増し、2009年には実施事業所数割合は40%台にまで上昇しました。2010年以降は景気後退期から脱したものの、雇用調整の実施割合は高止まり傾向を見せており、いまだに30%台となっています。

なお、ここでいう「雇用調整」は、「希望退職者の募集、解雇」以外の方法も含まれています。同調査の「雇用調整等の方法別実施事業所割合」を見ると、「希望退職者の募集、解雇」を実施した企業割合は全体の1%にすぎず、「残業規制」(16%)や「配置転換」(11%)を実施した事業所割合が高くなっています。

労働経済動向調査は、「D.I.」を使っているため、労働経済の動きや今後の見通しをつかみやすく、さらに雇用調整や中途採用の状況なども把握することができます。インターネットから簡単にデータを入手することができますので、ぜひ、仕事の中で活用してみてください。