2012年03月08日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第34回 入職や離職の実態を調べる ~雇用動向調査~:使える! 統計講座

使える!統計講座(34)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

雇用情勢は、「毎月勤労統計調査」(本連載第15回で紹介。記事下の「関連記事」参照)を見れば大まかに把握できますが、より細かく調べたいときには、「雇用動向調査」を見ます。ここには、一定期間における入職者や離職者の数、さらには離職の理由や転職前後の賃金変動などの調査結果も公表されています。

1.雇用動向調査とは

「雇用動向調査」は、入職や離職の状況などを調査し、労働移動(企業間等で労働力が移動すること。就職や転職、退職に伴って起こる)の実態などを明らかにすることを目的として、厚生労働省が実施する調査です。

調査は半年ごとに行われ、上半期(1月から6月まで)の状況がその年の12月頃、下期も含めた1年間の状況が翌年の8月頃に、それぞれ発表されます(ただし、2011年上半期の調査結果は、2012年2月に発表されました)。

入職や離職などの雇用の動きは、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」でも調べることができますが、「雇用動向調査」では、入職や離職の細かい実態、例えば「年齢階級別の入職と離職」状況や「離職理由別離職者の割合」などについても見ることができます。

賃金や労働時間の動きもあわせて雇用の動きをリアルタイムで把握するときには「毎月勤労統計調査」を、入職・離職の状況を細かく見たいときには「雇用動向調査」を使うとよいでしょう。

2.この調査で使われる用語の定義

雇用管理調査で使われる用語の定義は、次のとおりです。

(1)入職率:調査対象期間中に新たに採用した者をその年の1月1日現在の常用労働者数で除し、100倍した比率。なお、入職前1年間に就業経験のある者の入職率を「転職入職率」、入職前1年間に就業経験のない者の入職率を「未就業入職率」と言います。

(2)離職率:調査対象期間中に事業所を退職したり、解雇されたりした者をその年の1月1日現在の常用労働者数で除し、100倍した比率。

(3)延べ労働移動率:対象期間中の入職者数と離職者数との合計(延べ労働移動者数)を1月1日現在の常用労働者数で除し、100倍した比率。

(4)入職超過率:入職率から離職率を引いたもの。プラスであれば入職超過、マイナスであれば離職超過であることを示します。

(5)欠員率:仕事に従事する者がいない状態(欠員)を補充するために行っている求人を「未充足求人」と言い、それを常用労働者数で除し、100倍した比率。なお、この数値は、上半期の調査において発表されます。

3.年齢階級別の入職率、離職率を見る

2011年上半期の雇用動向調査から、年齢階級別の入職率、離職率を見てみましょう[図表1]

図表1 年齢階級別の入職率・離職率(クリックして拡大)

男性、女性ともに、「19歳以下」「20~24歳」は、新卒入社がカウントされるために入職率が高くなり、「60~64歳」「65歳以上」は定年退職などがカウントされるために離職率が高くなります。

「30~34歳」から「50~54歳」までの年齢階級では、入職率と離職率がほぼ同じ数値となっています。これらの年齢階級では、転職入職率が入職率に占める割合は男性で80~90%、女性で65~80%で、離職した労働者の大部分が1年以内に他の事業所に入職していることから、このような傾向が現れているのでしょう。

なお、2011年上半期の入職率と離職率は、2004年以降、最も低い数値となっています。これは、厳しい雇用情勢を背景として、労働者の自発的な意志による労働移動が沈静化していることが影響しているものと考えられます。

4.転職入職者が前職を辞めた理由を見る

雇用動向調査は、入職者や離職者の個別の状況(例えば、離職理由や転職後の賃金の変動など)までつかめることが大きな特徴です。

ここでは、男性の常用労働者について、「転職入職者が前職を辞めた理由」を年齢階級別に見てみましょう([図表2]参照。なお、ここでは、最も多い理由である「その他の理由(出向等を含む)」は除いて見ていきます)。

図表2 転職入職者が前職を辞めた理由〔男性〕(クリックして拡大)

「20~24歳」の転職理由は、「労働条件が悪い」と「収入が少ない」が多くなっています。「25~29歳」も、それらの理由は多いものの、それ以上に「会社の将来が不安」が多くなっています。そして「会社の将来が不安」という転職理由は、その後、「30~34歳」「35~39歳」まで最も多い転職理由となります。ところが「40~44歳」以降になると、「定年・契約期間の満了」と「会社都合」が多くなり、「45~49歳」以降は「会社都合」が最も多い転職理由になります。

40歳未満の転職理由は、主に「労働条件の悪さ」や「会社の将来に対する不安」にありますから、これらの年齢層の定着率を高めるためには、会社は「労働条件の改善」や「会社のビジョン等の明確化」などに取り組めばよいということになります。

一方、40歳以降の転職理由は、主に「会社都合」となっています。労働者は、40歳ぐらいまでに社外でも通用する専門性を磨いておくことが望ましいと言えそうです。

雇用動向調査は、この他にも「転職入職者の賃金変動状況」や「産業別未充足求人の状況」などを見ることもできます。労働市場の状況をつかむことができるさまざまなデータが掲載されていますので、ぜひ、一度、厚生労働省のウェブサイトを閲覧してみるとよいでしょう。