2012年03月01日掲載

人事担当者のための「福利厚生」の基礎知識 - 2.近年の福利厚生制度の動向

 

一般社団法人 企業福祉・共済総合研究所
主任研究員 秋谷 貴洋

1 近年の福利厚生制度の潮流

 近年の福利厚生制度の流れを簡単にいくつかの言葉で表現すると、
①固定施設型から役務提供型へ
②社会保障の代替補完機能型から分担機能型へ
③任意実行型から法令配慮(遵守)型へ
④総花型から目的達成型へ
 ――などといった流れが生じています。
 まず、「①固定施設型から役務提供型へ」については、寮や社宅や保養施設、社員食堂などがその代表例となります。これらは社会基盤の普及や維持費の負担などから、必要最小限度の範囲で外部資源を活用した管理やサービスの紹介に代替される例が散見されます。
 また、「②社会保障の補完型から機能分担型へ」については、従来から法律で納付が義務づけられている厚生年金保険料からの基礎年金拠出金や児童手当拠出金、健康保険料の前期高齢者納付金や後期高齢者支援金(以下「高齢者医療等への負担金」)等といった財政調整機能はもとより、健康増進法や次世代育成支援対策推進法(以下「次世代法」)にみられるように、法律の目標を達成するため、企業に対して社会の一員として一定の義務や努力義務を定めている点は、福利厚生に社会保障制度の機能を求めている一面といえます。
 さらに、「③任意実行型から法令配慮(遵守)型へ」については、従来のように、労働関係の各法令や法人税法や所得税法などに基づいて福利厚生制度を整備することはもちろんのこと、個人情報保護に関する法律、保険業法や保険法、貸金業法、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律などといった、一般消費者を保護する法令等の施行や改正により、これらを配慮・遵守することが福利厚生の個々の施策の構築する際にも必要となってきています。なお、上記の②③の傾向については、法令の義務や遵守の視点が強く、福利厚生本来の目的とは異なるものと言えます。
 最後に、「総花型から目的達成型へ」は、従来は幅広い福利厚生メニューを設け、従業員のニーズに応えることが、企業側のメッセージを伝える上で効果的な面もありましたが、近年では、福利厚生制度の選択と集中という視点から、個々の企業で大きな課題となっている事項(例えば、メンタルヘルスや仕事と生活の調和など)に投資を行う面が見られます。

2 主要な統計からみる福利厚生の一般的な動向

 「就労条件等総合調査」(厚生労働省)や「福利厚生費調査」(日本経済団体連合会)などといった主要な統計からも福利厚生の流れを読み取ることができます。
 それぞれの調査で、従業員1人1カ月当たりの労働費用もしくは福利厚生費の観点から近年の福利厚生の動向を見ると、両者の共通点は、健康保険料・介護保険料、厚生年金保険料、児童手当拠出金の負担が増加傾向にあることです。
 ここ数年、現金給与総額は減少傾向にあるため、その報酬に定率で徴収される保険料(法定福利厚生費)そのものの額は低下しています。しかし、現金給与総額に対してそれらが占める割合は高まる傾向にあります。特に、段階的に引き上げられている厚生年金保険料をはじめ、健康保険・介護保険料は、高齢者医療等への負担金分も含まれていることから、それらの増加分が影響する結果となっています。
 その一方で、法定外福利厚生施策は、全体的に減少傾向にあり、特に「住宅」(社有社宅や独身寮など)や「医療・保健衛生施設」(病院、診療所等の施設経費など)、「給食」(直営給食施設運営費など)、文化・体育・レクリエーションにおける「施設・運営」(保養所などの自社保有施設など)は年々減少傾向がみられます。しかし、医療や健康費における「ヘルスケアサポート」(従業員の通院や健康増進に関する費用)、あるいは、「育児関連」や文化・体育・レクリエーションにおける「活動」の費用は増加傾向にあり、従業員の健康の保持増進や、次世代法による事業主行動計画書提出の義務づけも手伝って育児関連費用の増加が見られます。
 なお、個々の法定外福利厚生施策の近年の特徴についてまとめると、[図表]のとおりとなります。

[図表]  個々の法定外福利厚生施策の近年の特徴

執筆者プロフィール
[写真] 秋谷 貴洋秋谷 貴洋 あきや たかひろ

法政大学大学院 社会科学研究科修士課程修了 1989年に(社)産業労働研究所(現・企業福祉・共済総合研究所)入所。企業福祉や健康保険組合の実務に関する調査や情報収集・提供に関する業務に従事し、現在に至る。