2012年03月01日掲載

人事担当者のための「福利厚生」の基礎知識 - 3.住宅支援施策

 

一般社団法人 企業福祉・共済総合研究所
主任研究員 秋谷 貴洋

1 企業が住宅支援を行う目的

 人々の生活の最も基礎となる条件として「衣食住」があります。また、「衣食住」は人々が生きていくために、最低限必要な生理的欲求を満たす上でも重要であり、この欲求がある程度満たされなければ、生活全般において前向きな行動への意思も減退することが考えられます。
 特に近年の経済情勢の中で、「衣食住」が満たされずに家計が破たんする例が散見されることを考えれば、この点は重要であることが分かります。
 労働者にとり、このうちの「住」は、職場生活の空間とは異なり、家族との団欒や個人の癒し、あるいはくつろぎを得るなど、私生活を自分のペースで楽しむ場となります。また、このような場があることは、労働者に安心感をもたらし生理的にも満たされ、それが結果的に生活不安の軽減につながれば、職業生活を営む上でも原動力になるといえます。
 このように、企業が従業員に対して住宅支援を行う目的は、従業員の生理的欲求を少しでも満たす環境を整えることで、従業員の労働の意思と能力をできる限り発揮させることにあります。
 なお、企業の従業員に対する主な住宅支援制度には、大きくは[図表]のように、給与住宅、転勤者住宅、住宅関連費用補助、持家取得支援、住宅相談などの総合的な施策の体系があり、最終的には従業員の持家取得支援を目指していると言えます。

[図表] 主な住宅支援施策

2 わが国の企業の福利厚生における住宅

 わが国の企業の福利厚生における特徴の一つとして、寮・社宅関係費が法定外福利厚生費の約半分を占めていることが挙げられます。
 日本経済団体連合会が平成24年1月に発表した「第55回 福利厚生費調査結果報告」をみても、従業員1人1カ月当たりの法定外福利厚生費(2万5583円)に対して「住宅(世帯用住宅、単身者用住宅、持家援助など)」の占める割合は47.2%となっています。
 このようなことから、法定外福利厚生費の適正化を図るために、大規模企業を中心に寮・社宅の再構築が行われ、近年では業務上寮・社宅を中心に集約化が図られています。
 企業が従業員に対して行う住宅支援制度の取り組みは古く、明治時代や大正時代には山間僻地対策や労働力の確保や定着、めずらしいところでは、嫁入り前のしつけ教育などを目的に寄宿舎などが設置されていた例が見られます。その後、第二次世界大戦などの戦後を経て、昭和30年代後半ごろから、持家取得を最終目標とした、寮・社宅対策、転勤者住宅対策、持家資金取得支援、住宅相談・情報提供、などの総合的な施策が展開されるに変化してきています。
 今日では、社会基盤も充実し、過去に比べ賃貸物件の増加や注文住宅等の低価格化、あるいは低金利傾向などにより、企業の住宅支援施策においても、福利厚生寮・社宅や社内住宅融資などの見直しを迫られる例も見られます。
 また、寮や社宅の管理を専門的に受託する外部サービスも増え、自社管理運営型から全部または一部を外部委託型に切り替える例も生じています。
 その一方で、新たな課題として、若年労働者を中心に、給与総額減少傾向の中で、住宅費用の負担感から、福利厚生寮・社宅への入居希望者が増えているといった事例も生じています。
 このようなことから、新たに入居可能期間や退去年齢を設定する例も見られますが、これに併せて、若年期からの財産形成支援を行うことの必要性がますます高まってきているといえます。

執筆者プロフィール
[写真] 秋谷 貴洋秋谷 貴洋 あきや たかひろ

法政大学大学院 社会科学研究科修士課程修了 1989年に(社)産業労働研究所(現・企業福祉・共済総合研究所)入所。企業福祉や健康保険組合の実務に関する調査や情報収集・提供に関する業務に従事し、現在に至る。