2012年03月01日掲載

人事担当者のための「福利厚生」の基礎知識 - 5.出産育児介護、両立支援施策

 

一般社団法人 企業福祉・共済総合研究所
主任研究員 秋谷 貴洋

1 出産育児介護、両立支援施策の目的

 福利厚生制度として行う出産育児介護、両立支援施策(以下では併せて「両立支援施策」と略)の目的は、性別を問わず従業員本人あるいはその者の配偶者の出産、子の育児、親族が要介護状態になった場合などに、事業主がその従業員の稼得能力が急激に減退しないように、仕事と育児や介護などの両立ができる雇用環境を整えることにあります。
 両立支援施策がわが国の企業に普及するきっかけとなった時期は1990年代前期と2000年代前期であり、この背景には、平成3年(1991年)5月に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児、介護休業法」)が成立したことや、時限立法として平成15年(2003年)7月に「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」)が成立した影響が大きいと言えます。
 特に次世代法によって、当初常時雇用する労働者が301人(現101人)以上の事業主に対して「一般事業主行動計画」の策定と厚生労働大臣(都道府県労働局長)に届け出の義務規定が設けられたことが両立支援施策の普及を加速させたと言えます。このような法整備が行われた背景には、少子高齢化による労働力人口の急速な減少傾向が挙げられます。
 平成17年(2005年)に合計特殊出生率が過去最低の1.25となってわが国の少子化がさらに進行し、将来の労働力人口の減少への影響にも関心が寄せられました。総務省や厚生労働省の調査結果においても、労働力人口の実績値や将来推計は、「15~29歳」や「30~59歳」の層においては減少の一途をたどっています。特に、団塊の世代(昭和22~24年生まれ)が定年退職を迎えた平成19年(2007年)以降、各企業では、将来も持続可能な経営を考える上で、生産活動が維持できる従業員の定着や確保に対する危機感も実感されました。
 新たな労働力として、自社の退職者はもちろんのこと女性や若年層の労働力の確保が課題となり、「ファミリー・フレンドリー」(仕事と家庭の両立)はもとより、「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と家庭の調和)に対する関心が高まったと言えます。

2 両立支援施策の位置づけと主な施策

 両立支援施策は、ファミリー・フレンドリーの領域に属する要素が高いと言えます。
 ワーク・ライフ・バランスは、政府の憲章において「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義されており、労働者であることや性別にとらわれず、人のライフサイクル全般での幅広い視点に立っています。
 しかし、ファミリー・フレンドリーは、労働者を主たる対象に、親族に年少者や児童あるいは要介護者を有する場合に、仕事と育児や介護との両立を支援することに重点が置かれ、その対象者は比較的に女性労働者が中心となる傾向にあります([図表1]を参照)。
 具体的な両立支援施策としては、出産や育児、親族介護と仕事との両立が図れるような労働条件などの配慮(フレックスタイム、短時間勤務、休憩や休日、勤務地域限定、全部一部在宅勤務、休業者への職場情報提供、代替要員の確保など)が中心となります。法定外福利厚生制度での取り組みは、事業所内保育所の設置、事業外保育所等の利用支援、育児介護に関する情報提供(子育てネット、自治体の福祉制度情報、介護情報など)や相談、育児介護休業期間中の法定外所得保障(共済会による育児介護休業中の金銭給付など)、育児介護関連費用補助(親族介護転居費用、法定外費用負担など)や金銭貸付などがみられます([図表2]を参照)。
 これらの施策には、労働基準法(産前産後休業)、雇用保険法(育児介護休業中の所得保障)、男女雇用機会均等法(妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置)、育児、介護休業法(育児介護休業や時間的配慮の確保など)、健康保険法(出産や産前産後の所得保障、育児休業中の保険料免除)、厚生年金保険法(育児休業中の保険料免除)、など、法令により労働者の育児介護時の制度が整備されている面もあり、これらで達成できない支援事項について、事業主や共済会などを通じて両立支援施策が整備されているといえます。
 なお、ファミリー・フレンドリーは、次世代法の一般事業主行動計画の策定などといった法令遵守的な要素も含まれていることから、この行動計画を実行する上でも両立支援施策は重要な役割を担っています。

[図表1] ファミリー・フレンドリーとワーク・ライフ・バランスとの関係

[図表2]  ワークライフバランスの位置づけ

3 両立支援施策の社内での実施

 平成23年(2011年)4月から一般事業主行動計画の策定を義務付けられている「常時雇用する労働者101人以上から300人以下の企業」では、費用負担等の面から両立支援施策を容易に展開できない例もみられますが、このような場合には、中小企業をサポートする公的あるいは民間の福利厚生支援組織を活用することも考えられます。
 また、両立支援施策を取り組む事業主を支援する公的補助金(「事業所内保育施設設置・運営等支援助成金」や「両立支援助成金」と「中小企業両立支援助成金」など)や税制優遇制度などの恩典を把握し、それを活用して目標を達成することも考えられます。
 税制優遇措置については、平成23年4月1日から平成26年3月31日までの期間内に次世代法の認定を受け(過去に認定を受けたことのある事業主はこの期間内に新たに認定を受けた場合には対象となる)、次世代認定マーク(くるみん)を取得した事業主には、税制優遇制度として建物等の割増償却制度(普通償却限度額の32%の割増償却)が創設されています。
 なお、共済会を設立している事業所においては、社会保障制度などからの給付の調整事項を把握しておく必要があります。
 例えば、雇用保険の育児休業給付金や介護休業給付金については、その休業期間中に事業主から賃金(労働の対償)が支払われた場合には減額調整が生じます。ただし、会社に税法上の「人格のない社団」に当たる共済会が設立されている場合には、その共済会からの金銭給付は労働の対償とはならず、法定給付への上積みが可能となります。健康保険からの給付である出産手当金や傷病手当金なども同様の取り扱いとなります。
 このように、実施主体(事業主もしくは共済会など)によって、事業主もしくは従業員のいずれかにとってメリットが生じることもありますので、複数の福利厚生関連機関を設立している企業において両立支援施策を展開する際には、労務管理の視点からの必要性にあわせて、どの実施主体で行うのかを十分に検討する必要があります。

執筆者プロフィール
【写真】秋谷 貴洋秋谷 貴洋 あきや たかひろ

法政大学大学院 社会科学研究科修士課程修了 1989年に(社)産業労働研究所(現・企業福祉・共済総合研究所)入所。企業福祉や健康保険組合の実務に関する調査や情報収集・提供に関する業務に従事し、現在に至る。