2012年03月01日掲載

人事担当者のための「福利厚生」の基礎知識 - 6.慶弔災害見舞金関係施策

 

一般社団法人 企業福祉・共済総合研究所
主任研究員 秋谷 貴洋

1 慶弔災害見舞金関係施策の目的

 慶弔災害見舞金関係施策の目的は、事業主等の従業員に対する恩恵や謝意として給付される面をはじめ、従業員本人(その者親族を含む場合もある)の負傷、疾病、障害、死亡、など生活に予期できない事故が生じた場合の経済的な減退や喪失に対して、経済的な支援を行う制度を設けることで、従業員の生活不安を軽減することが目的と言えます。
 法定外福利厚生制度の中でも慶弔見舞金関係の施策は、企業規模を問わず多くの企業で行われています。
 少しデータは古くなりますが、厚生労働省の「平成19年就労条件総合調査結果の概況」をみても、「慶弔・災害見舞金」は福利厚生制度がある企業の94.5%で実施されており、企業規模別にみてもいずれも90%を超える実施率になっています。
 慶弔見舞金関係施策の展開は、わが国の福利厚生制度の中でもその成立は古く、日本で最初の社会保険となる健康保険法が成立する以前の明治期には、現在の社会保障制度を代替する形で、従業員に対する恩恵や慰労、あるいは心情的な配慮、経済的支援や稼得能力時の所得保障として、事業主が任意に現物や現金での給付制度を設けていたことも記録されています。また、明治初期においては鉱山労働者に対して、傷病時の見舞として現物給付(米などの食料)を行っていた例も記録されています。
 このような給付の目的は、労働者の職場定着(離職防止)や採用効果をねらった同業他社との差別化、労使関係の安定化、従業員の士気力維持、などさまざまです。
 その後、健康保険法の成立を期に、それまでの任意給付(業務上外の傷病医療や所得の保障など)に類するものが社会保障制度として法整備され、社会保障制度の給付を補完する形で法定外福利厚生制度としての慶弔見舞金関係施策が形成されてきたといえます。

2 慶弔見舞金規程の留意点

 今日において、各社で展開されている慶弔見舞金関係施策は、一般的に従業員の入社から退職まで(一部退職後も含む)のライフサイクルをモデルに、その中で生じる生活イベント(結婚、出産、育児、介護など)や、予期できない事故(負傷、疾病、障害、死亡など)が生じた場合に給付を行う施策が設けられています。
 具体的には、結婚祝金、出産祝金、子女入学祝金、子女成人祝金、永年勤続祝金、定年退職祝金、死亡弔慰金(本人、一定範囲の親族を対象)、傷病見舞金、災害見舞金(全壊、半壊、一部壊)などの金銭的な給付が中心となります。
 これらの給付は、事業主、企業内共済会(以下単に「共済会」)、あるいは労働組合がそれぞれに行う場合と、それぞれの機関が行っていたものを共済会に一元化して行う場合など、各社によってさまざまです。
 給付に際しては、あらかじめ給付規程(目的や支給要件、給付額、給付限度、申請給付手続き、など)を設け、各条文の規定にしたがって給付を行います。
 このような規定を設ける際の留意事項としては、近年の大規模災害の発生結果を踏まえて、①遺族給付については死亡の推定規定の可否や被災従業員の支給対象親族の範囲や優先順位を明確にすること、②災害見舞金では損壊区分の判断基準の明確化、自治体ごとに異なる罹災証明書の精度と判定の基準、想定以上に給付が生じた場合の財源の確保――などが挙げられます。
 さらに、共済会の慶弔見舞金給付では、保険業法や保険法に遵守する必要が生じており、給付対象親族の範囲(配偶者ならびに二親等以内の血族および姻族)の再点検(保険業法施行令1条の2第1項)や、団体保険活用による給付については、消滅時効(保険給付を請求する権利など3年間。保険法95条)の規定を整備する必要が生じています。

3 慶弔見舞金関係施策の給付水準

 慶弔見舞金関係施策の給付金額の水準は、事業主あるいは共済会等の実施主体によって異なりますが、主な類型としては次のようなものがあります。

  • ①世間相場型:他企業等の事例を参考にする方法
  • ②トップ単独型:企業経営トップまたは担当部門の責任者が独断で決定する方法
  • ③算定基準設定型:各給付項目の合理的算定基準を設ける方法
  • ④社内慣行型:事業主もしくは共済会等が各々独立して、あるいは、事業主と共済会等との給付が共同して、給付額を決定する方法
  • ⑤段階的累進型:福利厚生プラン等で望ましい目標水準を設定して企業の経営状況や財政状況などを観察しながら、段階的にその目標額に近付けていく方法

 一般的には、従業員本人を対象とした祝金は数万~10万円の範囲、親族に対するものは数千~数万円の範囲に落ち着きます。また、弔慰金は、平均的な香典の水準(数万円)から生活保障に値する水準(数百万円)のものまで幅広く、これを長期給付(遺族遺児育英年金など)によって行う例も見られます。災害見舞金については、損壊区分(全壊、半壊、一部懐)などの区分に応じてその費用の一部を補てんする例が多く見られます。
 なお、祝金等や見舞金等は、所得税法上において特殊な給与として所得税基本通達(以下「所基通」)などにその取り扱いが示されており、慶弔見舞金等規程を作成するに当たっては、以下のような点に留意しながら、給付額や支給要件を規定する例もみられます。

  • ①結婚祝金品等の雇用契約等に基づいて支給される結婚、出産等の祝金品は、その金額が支給を受ける役員又は使用人の地位などに照らして社会通念上相当と認められるものであれば課税しなくて差し支えない(所基通28-5)
  • ②葬祭料、香典、見舞金等(葬祭料や香典、災害等見舞金)は、その金額が社会通念上相当と認められるものについては課税しない(所基通9-23、所基令第30条)。
  • ③永年勤続の記念としての旅行や観劇等の招待、記念品(現物に代えて支給する金銭は除く)を支給する場合には、その役員や従業員の勤続年数等に照らして社会通念上相当と認められ、表彰がおおむね10年以上の勤続年数の者を対象に2回以上表彰を受ける者について5年以上の間隔を置いて行われる場合には課税しなくて差し支えない(所基通36-21)

 これらの通達に示された「社会通念上相当」とは、定量的に示されているわけではなく、権限を有する税務職員等の合理的な判断に委ねられています。
 裁決例においては、「一般に、慶弔、禍福に際し支払われる金品に要する費用の額は、地域性及びその法人の営む業種、規模により影響されると判断される」(平14.6.13裁決、裁決事例集No.63 309頁)と示されています。
 また、同裁決例では、「法人税法上、福利厚生費としての見舞金が損金の額に算入されるか否かは、当該見舞金の額が社会通念上相当であるか否かにより判断されるものであり、会社規定に従って支払われたものかどうか及び保険金の原資のいかん並びに会社規定の作成過程及び保険契約の締結過程のいかんによって左右されるものではない」とも示されています。
 なお、金融庁の「少額短期保険業者向けの監督指針」(平成23年9月)では、事業の全部または一部が保険業に該当するか否かは、保険業法第2条第1項の適用除外規定に併せて留意する事項を挙げており、それによると一定の人的・社会的関係に基づき、慶弔見舞金等の給付を行うことが社会慣行として広く一般に認められているもので、社会通念上その給付金額が妥当なもの(10万円以下)は保険業には含まれないとしています。

執筆者プロフィール
[写真] 秋谷 貴洋秋谷 貴洋 あきや たかひろ

法政大学大学院 社会科学研究科修士課程修了 1989年に(社)産業労働研究所(現・企業福祉・共済総合研究所)入所。企業福祉や健康保険組合の実務に関する調査や情報収集・提供に関する業務に従事し、現在に至る。