2012年03月01日掲載

人事担当者のための「福利厚生」の基礎知識 - 7.財産形成支援施策

 

一般社団法人 企業福祉・共済総合研究所
主任研究員 秋谷 貴洋

1 財産形成支援施策の目的と現状

 財産形成支援施策は、従業員が自発的に財産の形成に取り組むことを支援し、その結果として従業員の経済的な不安の軽減を図ることで、職業生活の安定を促進することが目的となります。
 従業員の財産の範囲は、有形財産(貨幣、動産、不動産、商品など)や無形財産(知識や技術など)と幅広く存在しますが、福利厚生制度が主な対象とするのは前者の経済的な財産形成支援が中心となります。
 法定外福利厚生において、弔慰金や災害見舞金は従業員の予期せぬ事故に対する一時的なあるいは長期的な経済減退に対して数万円から数百万円の金銭給付や貸付を行う傾向であるのに対し、財産形成支援施策は、将来の生活予定の中で経済的な負担や減退が想定できる事項の備えとして貯蓄などの支援を行うことが中心となり、対象金額も数百万円から数千万円までと高額になる点に特徴があります。
 福利厚生制度における財産形成には、[図表1]のように、大きくは財形貯蓄制度、持株援助制度、住宅資金融資制度、社内保険援助(法定給付の補完などを目的とした民間保険の団体保険へ加入)、このほか普及率は高くないもののストックオプション制度なども挙げられます。主には事業主が行っていますが、社内保険援助の一部(労働者任意加入生命保険)は企業内共済会(以下「共済会」)が民間保険会社と団体契約を結んで行っています。

[図表1] 労働者の資産形成に関する援助制度の種類別の状況

 厚生労働省の「平成19年就労条件総合調査結果の概況」をみると、福利厚生制度として行われる「財形貯蓄制度」や「社内預金、持株会」「個人年金など(従業員拠出)への補助」といった財産形成支援施策は、企業規模が大規模になるにつれて実施率が高まる傾向にあります。
 同じく平成21年の同調査の結果をみると、労働者の資産形成に関する援助制度の種類別実施割合(複数回答)は、「財形貯蓄制度」51.2%、「持株援助制度」9.6%、「ストックオプション制度」2.5%、「住宅資金融資制度」6.9%、「社内保険援助制度」36.8%となっており、財形貯蓄制度が主流といえます。
 しかし、近年では、ストックオプション制度を除いては、いずれの制度も経年的にみていくと少しずつ減少傾向にあります([図表2]を参照)。この背景には、各制度への魅力の低下や手続き面での課題に加え、個人で外部資源を活用して財産形成に取り組める環境が整ってきたことも一つの理由として挙げられます。

[図表2] 福利厚生制度における主な財産形成制度

2 ライフプランの重要性と法令遵守

 財産形成支援施策の基盤は、ライフプランあるいは中長期的な従業員自身の生活目標の設定と言えます。
 従業員自身が、将来の生活の中で経済的な負担を伴う場面を想定し、ライフサイクルの中で生じるイベントや、不測の事態に見舞われた際に生じる最低限必要な費用の目標を立てて、それに対する財産形成を自発的に取り組む姿勢が必要となります。
 ライフプランは、従業員自身で描く方法もありますが、職業生活の財産となるキャリア形成に併せて、事業主などがライフプランセミナーなどを通じて支援を行う例もあります。
 従業員自身が描いたライフプランの中で、現実的に必要は費用を確保するための手法が、財産形成支援施策ということになります。
 この財産形成支援施策では金融商品の活用が多いことから、労働者に特別に認められた法令や、一般消費者を対象とした金融取引の関連法令に基づいて、施策が構築される傾向にあります([図表2]を参照)。
 また、一般消費者を保護するための法令(個人情報の保護に関する法律、貸金業法、保険業法、保険法、など)の適用も受ける場合があります。例えば、労働者に特別に認められた法令によるものであれば、社内預金制度や勤労者財産形成促進法などがあります。
 社内預金制度は、労働基準法18条(強制貯金)で容認された条件や、賃金の支払いの確保等に関する法律(3条)などに基づいて、事業主が労働者の委託を受けて貯蓄金を管理する制度となっています。また、財形貯蓄制度については、使途を問わない貯蓄として「勤労者財産形成貯蓄(一般財形貯蓄)」、従業員が60歳以降5年以上の期間にわたり年金を受けることを目的とした「勤労者財産形成年金貯蓄(財形年金貯蓄)」、持家取得などを目的とした「勤労者財産形成住宅貯蓄(財形住宅貯蓄)」の3種類があります。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄については、一定の条件をもとに労働者の自助努力を促進するために所得税法に利子の非課税措置(原則元本550万円。ただし、民間保険等は払込額で385万円など)を設けるなどの法整備が見られます。
 さらに、一般消費者を保護するための法令の適用を受ける一例としては、社内保険援助制度があり、企業や共済会などが団体保険契約を行う際にも、保険業法の適用除外規定(2条1項)や、保険法の消滅時効規定(95条)に準じた取り扱いとなっているかなどに留意することが必要となっています。

執筆者プロフィール
[写真] 秋谷 貴洋秋谷 貴洋 あきや たかひろ

法政大学大学院 社会科学研究科修士課程修了 1989年に(社)産業労働研究所(現・企業福祉・共済総合研究所)入所。企業福祉や健康保険組合の実務に関する調査や情報収集・提供に関する業務に従事し、現在に至る。