2012年04月18日掲載

人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク - 第1回 まずゴールを明確にしよう! 目の前の現象や手段にとらわれず、ゴールから逆算して考える

[新連載]人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(第1回)
太期 健三郎 だいご けんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

 人事の仕事をしているとさまざまな悩み、問題が発生するでしょう。そんな時に役立つツールがビジネスフレームワークです。ビジネスフレームワークは仕事の質と効率を高める便利なものです。この連載では、多くの人事担当者が出会う仕事の問題や悩みを事例にしてビジネスフレームワークの考え方、使い方を説明していきます。
 連載第1回では「ゴールからの逆算思考」をメインテーマに、問題解決技法についても説明します。デキる人事パーソンはビジネスフレームワークを使いこなしています。あなたもぜひマスターしてください!

■ビジネスフレームワークとは

 ビジネスフレームワークは複雑な仕事や問題に取り組む時に、それらを整理して考え、解決策を見つけやすくしてくれる便利なツールです。数学でいえば「公式」、語学でいえば「文法」、武道でいえば「型」のようなものです。ビジネスフレームワークを使うと速く効率的に仕事を行え、同時に、成果の質が上がります。仕事のコスト・パフォーマンスが高まる、とてもうれしいものなのです。

■ゴールからの逆算思考とは

 今回は、代表的なビジネスフレームワークの一つ「ゴールからの逆算思考」を説明しましょう。
 日々の仕事の中でさまざまな問題や悩みに遭遇すると思います。
例えば「初めて社員研修の企画を指示されたが何から考えればよいか分からない……」「中途社員の採用がうまく進まない……」。そのような時、方法や手段にばかり捕らわれてしまうことはありませんか? 初めての仕事に取り組む時や、忙しくて余裕がない時には特にそうなってしまうのではないでしょうか。
 研修では講師、日程、会場の手配ばかりに気をとられてしまい、採用では募集媒体や選考方法の見直しに目が行ってしまうことが往々にしてあります。しかし、それらはあくまで方法や手段で、最終的な目標へ至るための本質的なステップとは別の問題でしかないのです。
 
 問題が発生すると、悩み、焦ることもあります。でも、そういう時こそ立ち止まって、「ゴール」(取り組んでいることの目的、成果)を考えてみましょう。そして、ゴール達成のために行うべき手段、方法、スケジュールなどを決める。それが「ゴールからの逆算思考」です。

■「ゴールからの逆算思考」と「積み上げ思考」

 「ゴールからの逆算思考」と対照的な考え方が「積み上げ思考」です。この二つの思考法は、どのように違うのでしょうか? 二人の女性(A子さんとB子さん)が「休日に友人と遊びに行くので、東京駅で12時に待ち合わせをしている」という日常生活の場面を使って説明します。

・待ち合わせで、いつも余裕のあるA子さんと、いつも慌てるB子さんの例

 A子さんは待ち合わせ時間から逆算して外出の準備をします。「東京駅に12時に到着」(ゴール)→「自宅最寄り駅から東京駅まで50分」→「自宅から最寄り駅まで徒歩15分」→「洋服選び、お化粧に30分」。電車の遅れなどに備えて余裕を持って10時には外出の支度を始めました。A子さんは「ゴールからの逆算思考」の人です。
 それとは対照的なB子さんは待ち合わせ時間から逆算することなどせず、「あ、そろそろ出掛ける準備をしなきゃ!」と気がつき、慌てて外出準備、洋服選び、お化粧をしていたら家を出なければいけない時間を過ぎていました。駅まで走って、電車に駆け込み、電車から「ゴメン、約束の時間より20分くらい遅れそう」というようなメールを送るのは日常茶飯事です。かかった時間を積み上げた合計が到着時間となります。慌てて準備をするので、忘れ物をしたり、大幅に遅れたりすることも珍しくありません。B子さんは「積み上げ思考」の人です。

■ゴールを明確にすることは「あるべき姿」を描くこと

 ゴールとは取り組むべきことの目的、目標、そして成果です。ゴールを描くというのは、目的が達成された状態を明確にイメージすることです。あいまいではなく、できるだけ具体的に描くようにしましょう。

・実務でのケース:研修企画に初めて携わる人事担当者

 前述の「研修企画」の例で説明しましょう。昨年の4月に異動してきた2年目の人事担当者が「新任管理職を対象とする評価者研修の企画」を上司から指示されました。しかし、この担当者は、研修の運営は行ってきましたが企画設計は初めてで、何から考えていけばよいか分かりません。

 当たり前のことですが、最初からベテランの人事パーソンはいません。配属された当初は、人事の仕事の「右も左も分からない」状態ですが、試行錯誤しながら一つひとつ仕事を覚えていき一人前となっていくのでしょう。

研修の企画の経験が浅いと、つい具体的な項目にとらわれがちになります。
 大まかなプログラムを考えたら、すぐに日程、会場、講師の手配などの検討を始めてしまいます。
しかし、立ち止まって考えてみてください。研修の目的は何か? 新任管理職に不足しているものは何か? 研修を受けた後で管理職が何を身につけ、どのように意識や行動が変われば研修の目的は達成されるのか? ――これらが「研修のゴール」です。
 それが明確になれば、そのために必要なカリキュラム、研修の進め方(講義形式、ワークショップ形式、など)や適切な講師の要件などは決めやすくなるでしょう。そして、講師選定、スケジュール決定、会場手配などの準備はゴールから逆算して進めていくべきなのです。
 このようにゴールを描くことなく、手段、方法などを決めると、研修を開催すること自体が目的になってしまいます。研修は、参加者の育成を目的とした手段に過ぎません。開催が目的になると、スケジュールどおりに滞りなく行うことばかりに意識が向いてしまいます。
 すると、一見無難な研修を行うことができたとしても、あまり研修効果が高くないものになってしまうことも少なくありません。受講者からの不満や上司からの悪い評価が発生する可能性だってあるでしょう。

※ちなみに、代表的なビジネスフレームワークに問題解決技法(プロブレム・ソルビング:problem solving)があります。問題解決での「問題」とは「「あるべき姿」と「現状」とのギャップ(差異)」で、このギャップを解消することが問題解決です。「ゴールからの逆算思考」は「あるべき姿」(=ゴール)を描いてから仕事を進める問題解決技法のファーストステップなのです。

■始めは面倒でも、繰り返し行うと無意識にできるようになる

 ここまで読んで、「分かっているけれど、日々の業務に追われて忙しい中、いちいちそこまで考えて仕事をしていられない」と思う方もいるかもしれません。
 しかし「急がば回れ」です。最初にゴールを明確にして、そこから逆算して仕事をすれば、最終的には効率的に質の高い仕事を行うことができます。
 始めは、ゴールを明確にすることに時間がかかるかもしれませんが、それを習慣として続けていくと、無意識にできるようになります。
 すると、驚くほどスムーズに成果の高い仕事を行えるようになります。未経験の仕事を任されても戸惑うことが少なくなるでしょう。
 仕事の目的を考え、そのための最適な手段を考え、実行するという思考プロセスが体得されるからです。そして、そのスキルは人事の仕事に限らず、どの仕事をするにも応用できるあなたの貴重な財産となるでしょう。
 デキル人事パーソンは皆、ビジネスフレームワークを使って仕事をしています。あなたもこの連載を読んでぜひマスターしてください!

太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/