2012年04月23日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第1回 研修会社との上手な付き合い方


常見陽平  つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー

■はじめに

 ここ数年、企業の悩みの種といえば、若手社員です。指示したことを理解して率先して行動してくれる、自ら成長してくれる、そんな若手社員と出会えず、また若手がそのように育たず、困っています。そこで、この連載では、自ら考え、行動し、先輩社員を圧倒するような、「すごい若手」の育て方について考えます。

 いつもこの手の問題は「最近の若者は…」と、若者のせいになってしまいがちなのですが、本当に彼らだけが悪いのでしょうか? 問題は現状の上司や先輩にもあります。採用抑制などの影響から部下や後輩を持つ機会が減ったため、指導経験の少ない上司や先輩が増えているのは明らかです。正社員に任される仕事はより責任のあるものとなりました。忙しくなり、気づけば部下や後輩を育てる時間が足りないということも多いでしょう。仕事の進め方も変化してきています。これらの変化がありながら、単純に若者に責任転嫁するのはまったく意味がありません。

 では、若手人材育成のために、いま取り組むべきことは何なのか? 全10回にわたり人材育成担当者が今すぐ参考に出来る情報に振り切ってお伝えします。
 第1回目は、今、取り組んでいる研修の意味の再確認、そのための研修会社との上手な付き合い方について考えていきましょう。

■そういえば、なぜウチはこの研修をやっているのか?

 「なぜ、こんな研修をやっているのだろう?」

 こんなことを感じたことはないでしょうか? 私自身が企業の一社員だった頃も、現在のように企業の人事部の方と意見交換する立場になってからも、そんな疑問がよくわきます。

 コスト削減にうるさい世の中なのですが、その割にメスがあまり入れられていないのが研修です。「なぜこの研修をやるのか」という理由を、受ける側も、企画する人事部もまったくわかっていないということはないでしょうか? 実はこれは、日本の研修の現場でよくあることです。「人事部が企画する研修は、現場の事情をまったくわかっていない」「人事部の研修は使えない」「なぜ、忙しい中、研修に出なければならないのか?」そういう話になります。こうして、現場からは研修に対する不信感が高まっていくのです。

 各社ともコストを最適化することは、間違いなく至上命題であるはずです。特にリーマンショック後、研修会社各社の業績を見ていても研修の見直しが行われたことは明らかで、若手向け研修や管理職研修などの必要な研修以外は減りました。とはいえ、その後も企業には「これは必要か?」という研修がよくあるのは事実です。過去に大きな実績がある「お爺ちゃん」の講話をひたすら聞く研修、およそ普段の営業の仕事に結びつきにくい感動プレゼン研修、見た目の面白さや話題性からとりあえず入れたアスレチック研修など、企業には残念な研修、現場から不信感がわく研修がいっぱいです。もちろん、導入した当初には意図があったはずなのですが――。

 ちなみに、これは大学の就職課だってそうです。それこそ、大学の就職課にも研修会社が入り込んでいて、就活対策講座が年中行われているのですが、「なぜ、この講座が行われているのか?」は、やはり明確に答えられないものです。実施することが目的化しているのです。それでも当初は意図があったはずですが、それが忘れられていた、実際の研修が当初の意図とは違うものになっているわけです。企業の研修とまったく同じことが起こっています。

 新年度が始まり、新入社員や初任管理者の研修などで人事部は大忙しかと思いますが、これまでの研修とは何だったのか、見直す必要があるのではないでしょうか。

■研修会社と上手に付き合う

 どの研修を残し、どれをやめるか。これは各社の人材育成戦略と大きくリンクしてくるところだと思います。ここで一つ考えたいのが、研修会社との上手な付き合い方です。皆さんご存知だと思いますが、人材ビジネス業界の企業はとにかく一生懸命に営業をするものです。最大手であり、影響力のあるリクルートのマネジメント方法を真似した企業が多数であることも一因です。実際、人材ビジネス業界は同社のOBだらけです。結果として、昔のリクルートの競争の風土を表面的に真似した、ゴリゴリと営業する企業が多数であることもまた事実です。そして、猛烈に営業するものですから、ついつい買ってしまったという企業も少なくないのではないでしょうか?

 また、この研修会社なのですが、営業やトレーナーのスキルによって成果は大きく異なります。だから、研修を成功させるためには、彼らとの付き合い方について考えなくてはならないのです。
研修会社に限らず、就職情報会社も含め、人材ビジネス企業と付き合うコツは次の10点に集約されます。

人材ビジネス企業との付き合い方10箇条
1.自社の戦略、方針を明確にする
 何をやりたいかをできるだけ明確にしなければ、相手も提案ができません。まずは、自社の方で、あるべき人材の姿は何なのか、それに対して現状の課題は何なのか、どんな手段で育てようと思っているのか、などを考えなくてはなりません。

2.各社の特徴、強みを理解する
 その企業と、そのサービスは何が得意で何が苦手かを理解しておきましょう。万能のサービスというものは、なかなかありません。自社の状況から考えて最もフィットするのものはどの企業のサービスか、考えてみましょう。

3.営業担当者のタイプ、スキルを理解し、育成する
 人材ビジネス企業の営業担当者に完璧を求めてはいけません。それこそ彼らを育成する、伸ばすくらいの勢いで臨むべきです。

4.積極的な情報提供を求める
 人材ビジネス企業は、数々のデータを独自に集めているものです。最近のトレンド、トピックス、気になるデータなど、情報提供を依頼しましょう。どんな情報をおさえているか、それをどう解釈しているかによってその企業の姿勢や、営業担当者のスキルが分かるものです。

5.積極的に情報開示をする
 営業担当者は、本来お医者さんのような存在であるべきです。お医者さんの問診がそうであるように、できるだけ具体的に病状を伝えないと、的確な治療はできません。正しい弱みをさらけ出した方が、よい提案を受けることはできます。

6.「偉い人」同士の接点をつくる
 もし、営業担当者のスキルがいまいちだとしても、その上司ともなると、それなりに高いスキルは持っているはずです。上の立場の人同士の接点をつくると、いい加減な提案はしてこないようになります。また、普段、一緒に仕事をしている自分の上司も、上の立場ならではの視点で課題を発信してくれるようになります。年に数回はこのような場面をつくるとよいでしょう。

7.常に新しい提案を求める
 「昨年と同じで…」としてしまうのは怠慢です。環境は常に変化し続けています。常に課題を伝え、新しい提案を引き出しましょう。

8.商品・サービスに対して「健全な無理難題」を言う
 前述しましたが、完璧な商品というのはなかなかないものです。「もっとこうしてほしい…」という健全な無理難題はぜひ伝えるべきです。それによって提案がブラッシュアップされていきます。

9.目標と測定指標を明確にし、一緒に振り返りをする
 もちろんすべては指標に落とせませんが、効果測定のポイントを明確にしておくとその研修が少なくとも短期的に良かったのか、否かは明らかになります。効果測定の指標を明確にしておきましょう。

10.価格に対する成果・価値が適正か評価する
 費用対効果の検証をします。導入した当初の意図と実際の成果をみて、今後も継続するべきかどうかなどを考えましょう。

 「この研修、なんでやっているのだろう?」
 誰も答えられない状態を脱するためにも、新年度、まずは人材ビジネス会社との付き合い方を変えるところから始めましょう。

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)