人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(第2回)
太期 健三郎 だいご けんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表
人事担当者が業務を行うための必須スキルとは何でしょう?
労務行政研究所が2011年に行った「人事担当者の仕事に関するアンケート」によると、人事担当者が最低限身に付けておくべき基本能力・スキルとして、1位「コミュニケーション能力」、2位「トラブル対応能力」に続いて、3位が「情報収集力」となっています(五つまでの複数回答)。企業規模別集計を見ると、1000人以上の企業規模では「情報収集力」が2位となっています。皆さんも日々の業務で、情報収集力の重要性を感じているのではないでしょうか。
今回は、人事担当者に必須の「仮説検証型情報収集力」とその鍛え方を説明します。
仕事で情報を集めなければならない時、あなたはどのような方法でどこから情報を得ていますか?
現在、世の中には膨大な情報が溢れていますが、それらは玉石混交です。必要な情報をリーズナブルなコストでスピーディーに集める必要があります。情報収集のQCD、すなわち「Q(質)」「C(コスト)」「D(納期・スピード)」を高めることが求められているのです。
・「Q」(Quality):情報の質(内容、正確性、鮮度など)は目的達成のために十分か?
・「C」(Cost):情報収集に使うコスト(お金、労力、時間など)は適切か?
・「D」(Delivery):必要な期限(納期)に間に合ったか?
※QCDとはQuality、Cost、Deliveryの頭文字をつなげた略語で、仕事、商品・サービスなどを評価するビジネスフレームワークです。
■そもそも情報とは何か?
「情報」とは何でしょうか? 一般的に「情報」と呼ばれるものの中にも「データ」「情報」「知識」「知恵」「英知」などさまざまなものがあります。それらを整理したものが下の図です。
『仕事が10倍速くなる ビジネス思考が身につく本』(太期健三郎著 明日香出版社)より
■目的を明確にしてから情報収集を行う
取りあえずたくさんの情報を集めた後、一通り目を通して分析、整理する人がいます。私も以前はそうでした。これは時間がかかり、必要な情報を取りこぼす危険もある非効率な方法です。
まず「何のために情報を集めるのか?」「情報から何を知りたいのか?」――を明確にしてから収集に取り掛かりましょう。これは、前回のコラムで説明した「ゴールからの逆算思考」による情報収集です。
・事例:「自社の人事評価制度見直しのために情報収集を行う」
あなたが、自社の人事評価制度見直しのために情報収集を行うという事例で考えてみましょう。
やみくもに情報を集め始めてはいけません。情報収集の目的を具体的に考え、集めた情報から何を知りたいのか考えてみます。
「自社の人事評価制度見直しのため」では、まだ漠然としています。
「なぜ、見直しが必要なのか?」「(問題があるなら)問題はどこにあるのか?(人事制度なのか? 運用方法なのか? 管理職・評価者のスキルか? ――など)」「その問題を生む原因は何か?」などを具体的に考えてみましょう。
そして、「運用方法」に問題がある、という仮説を立てたら、その解決先を検討するためにどのような情報が必要となるかが明確になるはずです。これを私は「仮説検証型情報収集」と呼んでいます。
集める情報の例としては、「制度運用で失敗する主要な原因」「人事制度運用状況のアンケート調査」「上手に運用している企業事例」「評価制度運用の参考書籍」「人事制度運用のための企業セミナー」などでしょうか。
情報収集先は、書籍、インターネット、専門家・他社人事担当者へのヒアリングなど求める情報によって適切なものを選びます。
もし、あなたが上司から何か情報収集を指示されたら、「情報収集の目的」「必要な情報の種類と深さ」「情報収集に費やせるコスト」「期限」を確認しましょう。
■日頃から情報収集力を高めるために必要な三つのこと
情報が必要になってから慌てても、情報を的確に集めることはできません。
日頃から、次の三つを行い、情報収集力(情報リテラシーとも言います)を高めておきましょう。
1.情報収集力を強化する(know how)
2.どこにどんな情報があるか知っておく(know where)
3.誰がどのような情報を持っているか知っておく(know who)
1.情報収集力を強化する(know how)
基本は前述した「仮説検証型情報収集力」を強化しましょう。意識し、習慣として続けることです。また、初めてのテーマの情報を集める時の方法、サーチエンジンの応用検索スキル、人への質問・インタビュースキルなどテクニックを高めることも大切です。
2.どこにどんな情報があるか知っておく(know where)
頭の中に膨大な情報を入れる必要はありません。どこにどのような情報があるのか土地勘を持っておくことが大切です。
自分の仕事、業界に関するポータルサイト、書籍、雑誌などに目を通したり、専門図書館を訪れたりしておきましょう。雑誌は記事だけでなく掲載されている広告なども有効な情報になることが少なくありません。また良い書籍の巻末にある参考・推薦図書一覧に目を通しておくこともお勧めします。
※コラムの最後に、一度を覗(のぞ)いておくと良いお薦めサイトをいくつか紹介します。
3.誰がどのような情報を持っているか知っておく(know who)
具体的な、突っ込んだリアルな情報(データや知識ではなくナレッジ〔知恵〕と呼ばれる情報)をインターネットや書籍から得ることは難しいでしょう。その場合、人に直接話を聞くのが一番です。社内、社外で誰がどのような情報を持っているか把握しておきましょう。アンテナを張り、必要な時に話を聞ける関係性を持っておければベターです。
(参考)お薦めサイト | |
厚生労働省 | https://www.mhlw.go.jp/index.html |
労働基準監督署 | https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/location.html |
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JIL-PT) | https://www.jil.go.jp/ |
日本年金機構 | https://www.nenkin.go.jp/ |
労務行政研究所「WEB労政時報」 | https://www.rosei.jp/readers/trial_login(体験版) |
日本の人事部 | https://jinjibu.jp/ |
※時間に余裕がある時に上記サイトを一通り見ておき、どのような情報があるか把握しておくことをお薦めします。情報が必要な時は緊急の場合も多く、その時になって慌てることが減ります。
太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/