2012年05月22日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第2回 スキルが定着する研修、しない研修


常見陽平  つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー

 「研修などやっても無駄だ」「また、研修に拘束されるのか。意味をまったく感じないんだけど…」研修の参加者、現場の管理職などからこんな声を聞きませんか?
 今回は「スキルが定着する研修、しない研修」について考えてみましょう。もちろん、研修にもスキルアップ、マインドアップ、社内の活性化、意識改革などさまざまな種類と目的がありますが、ここでは「どうやったら研修で学んだことが定着するか」ということに絞って考えます。

■研修で得たものは、現場でつぶされていく

 まず、私の若手社員時代の経験をお伝えしましょう。勤務先では、年次や役職別の研修だけでなく、「マーケティング」「ファイナンス」などテーマ別の研修も用意されていました。年に何度か実施され、希望者が受講できるようになっていました。最近では、より自由にプログラムを選ぶことができる「カフェテリア形式」の研修プログラムも増えているようですね。
 私は、「ファシリテーション研修」を受講しました。会議などを運営する機会が増え、参加者の意見を引き出しつつ、まとめるスキルを付けたかったのです。外部講師によって行われたこの研修は、配布されたテキストも、もちろん当日の中身もいちいち参考になったことを覚えています。グループワークも実践的なもので、「これなら現場で使える」と確信したものです。一刻も早く職場に戻って、このスキルを試してみたいと思い、ワクワクしました。

 しかし、現実はそんなに甘くありませんでした。早速、営業リーダーたちとの会議を仕切ることになりました。研修で学んだ通り、アジェンダを作成し、会議の順番を示し、進めていったのですが、まったくうまくしきれないのです。明らかに参加者はイライラしている様子。しまいには、参加者である営業リーダーがファシリテーターとなって会議を仕切りだす始末。まったく出る幕がない状態でした…。
 これはあまりにも強烈なトラウマ体験だったのですが、研修が終わった後も現場での仕事はバタバタとしており、いつしか私は、研修で学んだことをまったく生かさない人になってしまいました…。
 
 では、なぜ「これは実践的!」と感激し、研修内容もよかったのに現場で生かせなかったのでしょうか? おそらく私自身、現場で実践するためのイメージがわいていなかったのでしょう。また、責任転嫁するわけではないですが、現場ではいつもの仕事の進め方があるので、私が研修で学んだことなどどうでもよく、そんなことよりもいつもどおりに仕事が進めることが求められたからだとも言えるでしょう。そして、忙しさにかまけてだんだん、研修で学んだことを生かすのが面倒臭くなっていったのでした。

 若い頃の思い出話ではありますが、皆さんにもこのようなことはないでしょうか? あるいは、研修を企画したところで、参加者がこんな状態になっていないでしょうか?

■研修はなぜ定着しないのか?

 では、なぜこうなってしまったのでしょう? 検証したいポイントは次の点です。

・研修の内容は実務と合っていたか?
→その会社の実務とあまりにも違っているなら、腑(ふ)に落ちませんし、現場で使ってみようという気にもなりません。講師が「こうやったら現場で使える」という気づきを与えることも、受講者が「どうやったら仕事で使えるだろう?」と考えることも必要です。

・研修の中身は、上司や同僚に共有されていたか?
→どんな研修を受けるのか(受けたのか)、理解していれば普段の接し方も代わります。

・研修内容を定着させるための工夫をしていたのか?
→定着するための機会を用意していたのかどうかは気になるところです。

 また、あくまで自分の感覚でしかないですが、私は今回の研修にやる気満々で参加したつもりではあります。ただ、参加者やその上司が研修に何も期待していなければ成果など生まれるわけがありません。

 このように、研修が成功、定着しやすくするにはどうすればいいかを考えなくてはなりません。

■研修を定着しやすくする技

 では、どうすればいいでしょうか? ここでは、今すぐ使える「研修を定着しやすくする技」をご紹介したいと思います。
(1)研修内容と現場での仕事との接続
 研修会社さん、講師との事前打ち合わせが肝です。受講者が担当する業務の内容、受講させる目的などをしっかり伝え、得たスキルを職場で続けることができるように、研修の中でヒントについて言及してもらいましょう。

(2)動機づけをしっかりと
 ここは研修の告知の段階から勝負が始まっています。どんな研修で誰に参加してもらいたいのか、得られるものは何かなどを伝え、やる気をアップさせましょう。参加させる上司にも、気持ちよく送り出してもらいたいところです。また、研修当日の事務局や講師からの最初のあいさつもポイントです。研修への期待を高めましょう。

(3)報告の機会を設ける
 最近の研修で増えているパターンです。どんな研修を受けて、何を得たのかを上司や、部署内で報告するのです。これにより、何を学んだのかの整理ができますし、部門内での共有も進みます。

(4)学んだことを使う機会を意識的につくる
 (3)と関係しますが、学んだスキルを職場内で使う機会を意識的につくると、定着は進みます。学んだことを使っているかどうかをチェックするわけです。

(5)試験をするのも手
 これは大手メーカーなどに見られる手法ですね。試験をすることによって、定着したかどうかを確認します。

 もちろん、研修の意味はスキルアップだけではありません。また、研修の中身がお粗末だと、定着を目指したところで意味がなくなりますが。
 若手社員にとって、一つひとつの研修は通常の業務から離れることもあり、いちいち刺激的に感じ、それなりに熱心に取り組み、達成感を持つものです。ただ、その研修がどんな意味を持つのかまではイメージできないということもあるでしょう。だから、研修を一つのステップにし、それを機会にそのスキルが使えるような仕事にチャレンジさせたり、そのスキルについて熟達した先輩と一緒に仕事をさせることにより、研修の意味について気づかせるのも一つの手です。研修で学んだことを生かし、先輩たちを目標に自分からさらに腕を磨こうという意識付けにつながります。チームのメンバーや、より若いメンバーに研修で学んだことについて伝えてもらうのも一つの手です。学んだことは「教える」という行為によってより定着するからです。

 やりっぱなしにならないよう、定着させる工夫をしましょう。

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)