人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(第3回)
太期 健三郎 だいご けんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表
コミュニケーションスキルは、多くのビジネスパーソンにとって仕事をしていく上で最も重要なスキルの一つです。「人」を対象とする人事の仕事では、その重要性は一層高いものとなります。コミュニケーションを間違えば、仕事はスムーズに進みません。時には話がこじれてその処理に追われたり、大きなストレスを生んだりすることになります。逆に、コミュニケーションスキルを高めれば、仕事は効率的に流れ、生産性を飛躍的に上げることができるでしょう。
今回から2回にわたって、人事担当者のための高度なコミュニケーションスキルを解説します。
■そもそも、コミュニケーションとは何?
ビジネスでは、打ち合わせ、商談、報告・連絡・相談、メールや文書作成、プレゼンテーション、交渉……など、さまざまな場面でコミュニケーションを行います。
コミュニケーションを制するものはビジネスを制す、と言っても過言ではありません。
では、コミュニケーションとは何でしょう?
コミュニケーションは情報や感情のキャッチボールです。一方的に投げるものでも、受けるものでもありません。受け手を意識せず自分本位で行えばキャッチボールではなくドッジボールになってしまいます。
[図表1]コミュニケーションは情報・感情のキャッチボール
コミュニケーションは「伝える」「受ける」の相互作用です。正しく伝えるコツは、よく「聞く・聴く」ことです。
営業マンでしゃべりすぎてしまう人が時々います。商品をアピールしたいがために「話す=8」:「聞く・聴く=2」の割合になったとすれば、お客さんのニーズという情報を少ししか入手できないことになります。すると、ニーズを満たす商品を伝えることもできません。話し上手は聞き上手なのです。
ここで、「Why(目的)」「What(内容)」「How(方法)」という、コミュニケーションを上手に行うための三つの視点で説明していきましょう。
[図表2]コミュニケーションを上手に行うための三つの視点
Why | 伝える目的は何か? | ・そのコミュニケーションを何のために行うのか? |
What | 伝える内容は何か? | ・目的を達成するために伝える項目は何か? ・受信者の立場で伝える内容のレベルは? |
How | 適切な手段は何か? |
・どのように伝えるか?(対面、電話、メールなど) ・伝えるタイミング/場所 ・伝え方(話し方、言葉の選び方など) |
■発信者としてコミュニケーションの目的(Why)を考える
コミュニケーションそれ自体は、目的ではなく手段です。相手に何らかの「行動」を促すためにコミュニケーションは行われます。そのため、最初に「そのコミュニケーションは何のために行うのか?」を考えることが大切です。コミュニケーションの目的(Why)を考えるのです。
例えば、社内研修の案内を受講者に行うとします。研修の案内をする目的は何でしょうか? どのようなコミュニケーションをすれば目的、成果が達成されたのかを考えます。
開催場所に受講者が時間通りに集合し、研修が無事に行われる。これは「研修の案内」の最低限の目的です。それだけならば、研修の概要(研修の内容、開催日時、場所、持ち物、事前課題など)を伝えればよいです。
しかし、「研修の案内」の目的はそれだけでしょうか。最低限のものではなく、もう一つ上を目指すコミュニケーションを行いたいものです。
「研修の案内」の最大の目的は「研修が無事に滞りなく行われること」だけではなく、「研修開催の目的が期待通り達成されること」にあるのではないでしょうか。つまり、研修によって受講者が期待通りにスキルを習得したり、意識が高まったりすることです。
それが目的だとすれば、対象者に伝えるべき内容(What)はおのずと明確になってきます。
「研修開催の目的、狙い」「受講者に期待すること」「事前課題の目的と推薦参考図書」「事前課題に取り組んで悩んだこと、疑問点の整理」などを分かりやすく盛り込むとよいでしょう。
受講者が迷いや不安なくベストのコンディション、モチベーションで研修に臨み、研修効果を最大化することで研修効果は高まります。受講対象者は「社員」であり、人事部の「お客様」と考えると、過不足なく適切なコミュニケーションを行えるでしょう。
■最適な伝え方(How)を選ぶ
次に、伝え方(How)を説明します。最適な伝え方を選ぶには、「(1)伝達情報」と「(2)コミュニケーション手段」についてそれぞれの種類・特色を知っておくとよいでしょう。
(1)一つ目の伝達情報を説明します。
コミュニケーションは「言語」だけで行うものではありません。
電話なら相手の声の調子(口調、大きさ、テンポなど)で感情などが分かることがあります。これは耳から入る「聴覚情報」です。対面(フェイス・トゥ・フェイス)で話す場合は、表情や身ぶり手ぶりなどで細かいニュアンスや感情などが分かることがあります。これは目から入る「視覚情報」です。
また、「言語情報」に該当する文字であっても、メールよりも手紙やファックスのほうが、筆跡、筆圧などにより伝わる情報量は増えます。
以下に、伝達情報の種類と適したコミュニケーション手段の関係を図示します。
[図表3]伝達情報の種類とコミュニケーション手段の関係
(2)次に、コミュニケーション手段の種類と特色を説明します。
eメールが普及したことは、私たちにさまざまなメリットを与えてくれました。しかし、メールがいくら普及しても、電話や手紙という手段がなくなることはないでしょうし、複雑なことやデリケートな問題では直接会って話す方が適しています。
eメールは、多くのメリットを持ち便利な半面、「文字だけの情報によって生まれる誤解」が原因でトラブルを生んだり、ニュアンスを伝えにくい―――などデメリットもあります。送信したメールで、自分自身は「そんなつもりで書いたのではないのに」という誤解をした相手が怒ってしまった―――という経験したことはありませんか? 会って話せばすぐに済むことなのに、メールで伝えたために余計に手間と時間がかかる場合もあります。
それぞれの手段には長所短所があります。ビジネスの場、特に人事担当者の仕事ではコミュニケーション手段の特質を理解し、目的、相手、状況などに応じた使い分けが大切です。手段別の特性と適した利用シーンを整理したので、参考にしてみてください。
[図表4]コミュニケーション手段の特性と適したシーン
特 徴 | 適した利用シーン | |
メール |
・相手の状態を問わず、発信できる ・低コストで大量に同時に発信できる |
・要件、情報のみを伝えたいとき ・複数人に同一の内容を送るとき |
ファックス |
・手軽に文章を送ることができる ・細かい文字がつぶれてしまう |
・急ぎで送りたいとき ・手書きの文書を送りたいとき |
郵便/宅配便 |
・大量の文書、モノを送ることができる ・相手に届くまでに時間がかかる |
・契約書など正式な文書を送るとき ・お礼状 ・文書と品物を送るとき |
電話 |
・相手の状況に左右される ・直接、双方向で話ができる |
・急ぎの連絡をしたいとき ・返答をすぐに聞きたいとき |
対面 |
・相手の細かい反応、状況を見ながら話すことができる |
・込み入った話、デリケートな問題について話をするとき |
次回は、「人事部から社内への一斉告知」「採用面接」「評価者面談」「部下への仕事の指示」など人事担当者の具体的なビジネスシーンを取り上げて、上手にコミュニケーションを行うヒントを解説します。どうぞご期待ください。
太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/