使える!統計講座(38)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
人事戦略や採用計画の社内資料を作成する際に、取り組みを行う背景として、最近の景気や雇用情勢を簡便に(しかし的確に)まとめなければならない――こうした状況に頭を悩ませたことがある担当者も多いかと思います。新聞に目を通すような感じで、各月の経済や労働経済の動向を把握することはできないでしょうか。こういうときには、インターネットを使って、厚生労働省の「月例労働経済報告」を閲覧するとよいでしょう。
【編集部 注】
月例労働経済報告は、平成28年6月公表分までで廃止となりましたのでご留意ください。
なお、厚生労働省ホームページでは、平成25年1月~28年6月公表分までを閲覧することができます。
1.「月例労働経済報告」とは
厚生労働省は、さまざまな経済指標を取りまとめて、労働経済の動向を示す「月例労働経済報告」を、毎月、公表しています。この報告では、次の項目が簡潔な文章と統計データによって示されており、一般経済の動向および労働経済の現状を網羅的に把握することができます。
[1]概況
・一般経済の概況
・労働経済の概況
[2]一般経済
・鉱工業生産・出荷・在庫の動き
・最終需要の動向(個人消費、設備投資、住宅建設、公共投資、輸出入)
・物価(国内企業物価、消費者物価)
・企業収益、企業の業況判断、倒産件数
・実質国内総生産(GDP)成長率
[3]雇用・失業
・就業者数、完全失業率、求職理由別離職失業者数、労働力人口など
・有効求人倍率、新規求人倍率など
・産業別就業者数など
・雇用に先行して動くと考えられる指標
(所定外労働時間、雇用人員判断D.I.、雇用調整を実施した事業所割合など)
[4]賃金・労働時間
・現金給与総額(所定内給与、所定外給与など)
・総実労働時間(所定内労働時間、所定外労働時間など)
[注]D.I.(ディフュージョン・インデックス):「過剰」と回答した事業所割合から「不足」と回答した事業者割合を差し引いた数値
内閣府の「月例経済報告」も同様のデータが公表されていますが、「月例労働経済報告」のほうが、掲載されているデータが労働経済に関するものに絞り込まれているため、雇用や労働市場の動きを捉えるのに適しています。
2.「概況」で使われている表現を参考にする
[図表1]は、この10年間(各年4月)に「一般経済の概況」で使われた表現を抽出したものです。「回復」「持ち直し」は景気が上向きの状況、「足踏み」「横ばい」は変わらない状況、「弱い動き」「悪化」は下向きの状況を示しています。
景気は、2003年から2007年まで回復期にありましたが、2008年にピークを迎えると、同年秋に発生したリーマン・ショックなどの影響を受けて、2009年には急激に落ち込みました。その後、景気は回復を見せ始めたものの、2011年3月に発生した東日本大震災の影響により、回復にブレーキがかかりました。「月例労働経済報告」の「概況」は、このような景気の動きを簡潔に表現しています。
[図表1]「月例労働経済報告」の一般経済の概況の表現
人事戦略や採用計画の書き出し部分で景気や雇用情勢に触れようとするときには、「月例労働経済報告」の表現を参考として使うとよいでしょう。例えば、2012年4月の一般経済の概況の表現を参考にすれば、「景気は依然として厳しい状況にあるものの、一部に回復の兆しが見えてきている。そこで、当社は……」などの書き出し文を簡単に作成することができます。
3.掲載されている統計データを活用する
「月例労働経済報告」のウェブサイトからは、GDP成長率、鉱工業生産指数、設備投資額、消費支出額、現金給与総額、完全失業率、求人倍率など、経済や雇用に関わる指標のデータをダウンロードすることができます。これらの調査を実施している各省庁のホームページをそれぞれ閲覧しなくても済むので、資料作りに必要なデータをまとめて入手したいときには、大変便利です。
[図表2]は、「月例労働経済報告」に掲載されているデータを使って、2011年2月から2012年2月までの1年間の製造業の企業活動や雇用の動きを図示したものです。
[図表2]鉱工業生産指数、常用雇用指数、所定外労働時間の推移
鉱工業生産指数は、東日本大震災の影響を受けて2011年3月に大きく落ち込み、その後、少しずつ回復してきており、所定外労働時間も、このような生産活動の動きにあわせて変動しています。ところが、常用雇用指数については、ほとんど変化が見られません。すなわち、多くの企業(製造業)は、この1年間の生産変動について、労働時間の調整によって対応し、人員調整をあまり実施してこなかったことが分かります。これは、多くの経営者が「大震災などが生産活動に与える影響は一時的なものであり、常用労働者の雇用は確保しておきたい」と考えたことの表れでしょう。
このように「月例労働経済報告」を使えば、異なる省庁が実施している統計調査の結果を簡単に組み合わせることができるので、より綿密な現状分析を行うことが可能になります。
4.毎月、新聞を読むような感覚で閲覧してみよう
ここで紹介したような「凝った」使い方をしなくても、「月例労働経済報告」は、「ポイント」に目を通すだけで、その時点の労働経済の概況をつかむことができるという意味で、十分に「使える」ものです。
「月例労働経済報告」は、毎月中旬、インターネット上で公表されます。新聞を見るような感覚で、気軽に閲覧してみることをお薦めします。
《関連リンク》
・厚生労働省「月例労働経済報告」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouzenpan/roudoukeizai/index.html
・内閣府「月例経済報告」
https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/getsurei-index.html
Profile
深瀬勝範(ふかせ・かつのり)
社会保険労務士
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。