常見陽平 つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
「研修を企画したけど、事業部から“また研修かよ”というクレームが…。喜んで参加してもらえる研修にするには、どうすればいいんだろう?」こんなことでお悩みの研修担当者の方、きっといらっしゃいますよね? 分かります。
研修の参加者はただでさえ忙しい中、研修に参加させられることで悩んでいるわけです。また、若手が対象の場合、現場としては集合研修などに時間を割くより、早く多くの業務経験を積んで、仕事に慣れ、力を伸ばしていってもらいたいという気持ちも強いことでしょう。
現場に嫌われない研修運営のポイント、教えます。
■ポイント1:ガス抜きヒアリングは人事の基本
なぜ、事業部門の人間は研修に協力的ではないのか? その理由はご存じですか?
「忙しい中、参加させられるのでキツイ」
「研修が面白くない」
「研修内容に対して使えるイメージがわかない」
こんな理由で反発する人はよくいます。
ここがポイントなのです。これは確かな理由でしょうか? 誰がそう言いましたか? まず、参加者が研修に不満を持つ理由を正確に把握しなければなりません。
「嫌われる理由はいつも一緒だよ」
そう言いたくなる人もいることでしょう。ちょっと待ってください。たとえ、理由が一緒だとしても、研修に不満を持つ理由を「聞く」という行為が大事。すぐに解決できないことも含めて、まずは不満を受け止めるのです。不満という意味で言うならば、現場の社員は「研修」そのものではなく「人事」について漠然とした不満を抱いているものです。この「ガス抜き」を行うことがポイントとなります。
研修の実施後にアンケートを採るのは当然です。こちらを集計した上で、差し支えのない部分は研修参加者にフィードバックし、至らない部分については「今後、改善します」と伝えると効果的です。
さらには、事業部門のトップや、人事・教育担当の方からのヒアリングの場を設けることも必要でしょう。この場で研修だけでなく人事に関する不満を吸い上げます。特に研修については、現在、現場で課題になっていることを聞くとよいでしょう。
「新任マネジャーのメンバーに対する人材育成力が課題」
「リーダークラスのプロジェクトマネジメント能力が課題」
「若手社員のモチベーションアップが課題」
など、具体的な課題をヒアリングしていきます。すべてが研修で解決できるものでもないですが、ここでは“ヒアリングしたという事実”が重要なのです。
その場では研修以外の不満も出るでしょう。例えば、人事制度など制度に関するもの、人事異動や新入社員の配属などに関するものです。もちろん、一人の研修担当者レベルでは、聞いてもすぐには対応できません。でも、ここでも聞くという姿勢、聞いたという事実、そして「聞きっぱなし」にしない対応が大事です。「必ず担当に伝える」と約束しましょう。
ある大手メーカーでは、現場サイドが人事部に対して非協力的だったのですが、新卒採用の振り返りランチを役員、事業部長クラスと毎年行うようにしてから、人事に対する誤解がとけ、協力的になっていったそうです。
現場の意見を聞く姿勢が、現場の協力を引き出すカギなのです。
■ポイント2:使える研修であることをアピールする
何より、研修が「使える!」「面白そう!」と思える内容でなければなりません。ここでは研修の魅力をいかに抽出するかにこだわってみましょう。
おすすめの本があります。『人が集まる!行列ができる!講座、イベントの作り方』(牟田静香 講談社+α新書)という本です。実はロングセラーで、私が持っているものは2010年5月の段階で12刷になっています。おそらく今も刷りを重ねていることでしょう。
ずばり、そのセミナー・研修に人気がないのはなぜか? どうやったら人が集まるか? その理由が分かります。端的に言うと、人気のない講座・イベントは、自分の都合で考えすぎていて、相手の本音をつかんでいないのです。この本で紹介されている事例もこの点が参考になります。プロフィールによると、この本の著者は出版当時大田区の男女平等推進センター「エセナおおた」の活動に関わっていた方。この施設では、数々の男女共同参画に関するセミナーを開催していたのですが、一生懸命頑張っているのに、集客が大ピンチということがよくあり、スタッフの間では「有料だからしょうがない」「時期が悪い」などのあきらめムードがあったとのこと。しかし、著者はそんなことを言っていたらいつまでもセミナーに人は集まらないと言い、具体的な対策を行いました。
中でも大事にしたのが「誰のためのセミナーか」「どうやったら伝わるか」ということでした。例えば、以前、「男性の家庭参画セミナー」というタイトルでセミナーを実施しました。中身は、実はそば打ちのセミナーです。家庭参画はまず料理からというわけです。一応、説明文には「そば打ちをする」と書かれていたのですが。
そこで、あえて「名人が教える手打ちそば作り」というタイトルにしたところ、会費を300円上げ、対象を「小学生以下のお子さんと男性の保護者」から「小学生と男性の保護者」に変更し、条件を厳しくしているのにも関わらず、申し込みが倍増したというのです。繰り返しになりますが、内容はほぼ同じで、タイトルを変えただけ。いかに、相手の視点で考えることが大事かがよく分かりますね。このような施策を何度もやり、彼女は講座申し込み率3.3倍を実現したそうです。
顧客の立場で考えると言いつつ、たいていの人は自分の立場で考えてしまいがちです。どういう研修だったら、現場の社員は参加したいと思うかを考えてみましょう。研修の内容もそうですが、伝え方にも工夫してみてはいかがでしょう。
■ポイント3:研修の前の動機付けが大事
研修に協力的になってもらうためには、事前の伝え方が大事です。まずは動機付けです。研修参加者の上司たちに、研修の意義や、なぜ研修に参加してもらうかなどの理由を伝え、参加者に上司の口から説明してもらいましょう。
それから、終了後は上司への報告をマストにしましょう。上司と研修とがつながることで、“実務に生かせる研修なのだ”という思いが生まれることが期待できます。とりわけ若手社員に関しては、研修を通じて何かを学び身に付けてきた、仕事の取り組みにいままでとは変化が現れた…という“変わった感”が得られることに、現場や上司は期待を寄せていると思います。レベルアップの有無や程度は別としても、「学んできたこと」をコミュニケーションすることは大事と言えるでしょう。
現場の理解を得られれば、研修は大きく変わります。そのためにも、参加者の気持ちというものを考えてみましょう。
常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)