使える!統計講座(39)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
就業状態を調べるときには、一般的に「労働力調査」を使いますが、細かい分析を行いたいときには「就業構造基本調査」を見たほうがよいでしょう。「就業構造基本調査」は5年ごとに行われる統計調査で、今年が、その実施年に当たります。
1.「就業構造基本調査」とは
「就業構造基本調査」は、国民の就業・不就業の状態を把握することを目的として、総務省統計局が5年ごとに実施する調査です。毎月実施される「労働力調査」と比較すると、「就業構造基本調査」は、即時性には欠けるものの、調査事項が多く、さまざまな角度から細かい分析ができるという長所があります。
2012年は「就業構造基本調査」の実施年に当たっており、10月に調査が行われ、その結果は、2013年7月頃に公表されます。前回調査(2007年調査)の実施から5年が経過し、その間、リーマン・ショックや東日本大震災などのさまざまな事態が発生しました。「これらの環境変化が、わが国の就業状態にどのような影響を与えたのか」という観点から、今回の就業構造基本調査の結果は、世間から注目されることになるでしょう。
[図表1]就業構造基本調査と労働力調査
2.転職希望の状況を見る
「就業構造基本調査」から、この20年間の年齢別転職希望者数の推移を見てみましょう。
1987年には599万9000人(有業者数の9.9%)だった転職希望者数は、2007年には773万3000人(同11.7%)に増加しました。特に「25~29歳」と「30~34歳」の年齢層で転職希望者が増えていることが分かります。
「20~24歳」の転職希望者は、2007年において111万1000人で、1987年の111万5000人とほぼ同数ですが、1997年の145万9000人と比べれば、むしろ大幅に減っています。これだけ見ると、若年層の転職希望に歯止めがかかってきたようにも見えますが、本当にそうでしょうか。
実は「20~24歳」の有業者数は、1987年は596万人、1997年は680万7000人、2007年は485万2000人と推移しており、転職希望者数の増減は、主に有業者数の推移によって生じたものと考えられます。有業者数に占める転職希望者数の割合は、1987年19.4%、1997年21.4%に対して、2007年は22.9%となっており、こうした点を踏まえると、若年層の転職希望に歯止めがかかったとは捉えることはできません。
[図表2]年齢別 転職希望者数の推移(1987年~2007年) 資料出所:総務省「就業構造基本調査」
また、ここでは、転職希望の理由に関する調査も行われています。
転職希望理由は、25歳以上のすべての年齢層において「収入が少ないから」が最も多く、次いで「時間的・肉体的に負担が大きい」となっており、この二つの理由で全体の50~60%を占めています。一方、「知識や技能を生かしたい」という理由は、どの年齢層においても10%前後となっています。
このような転職希望理由を見ると、従業員にとって労働条件や職場環境が厳しくなっている状況がうかがえます。
なお、「20~24歳」の年齢層では「一時的についた仕事だから」という理由も多くなっています。「学校卒業に当たり就職はしたものの、自分が希望する会社ではなかった」、「正社員として採用されなかった」など、不本意な形で採用された若年労働者は、その就職を「一時的なもの」と捉えてしまい、入社後も転職希望を抱き続ける傾向が見て取れます。
[図表3]理由別転職希望者数の割合(2007年) 資料出所:総務省「就業構造基本調査」
「就業構造基本調査」には、この他にも「若年無業者」(15~34歳で家事も通学もしていない無業者のうち、就業を希望しているが求職活動をしていない者、または、就業を希望していない者)や「起業者」(現在の事業を自ら起こした者)に関する調査など、就業構造に関するさまざまなデータが掲載されています。
転職、あるいは起業を考えている人にとって参考になるデータもありますから、ぜひ、閲覧してみてください。
3.「無業者」と「完全失業者」は違うのか
「就業構造基本調査」も「労働力調査」も、総務省統計局が行うものですが、前者は「有業者・無業者」という言葉を、後者は「就業者・完全失業者」という言葉が使われています。両者の違いは何でしょうか。
「就業構造基本調査」における「無業者」は、就業を希望するかどうかを問わないため、「労働力調査」における「完全失業者」と「非労働力人口」を合わせたものに近くなります。「無業者」と「完全失業者」の違いとしては、まず、この点を踏まえておくことが必要です([図表4]参照)。
また、[図表1]でも示したとおり、「就業構造基本調査」では、「ふだん仕事をしているか」という観点から有業者と無業者を区分けし、一方、「労働力調査」の場合は、「調査対象期間(月末1週間)中に収入を伴う仕事を1時間以上したかどうか」という観点から「従業者」と「完全失業者」を区分けします。つまり、ふだんは仕事をしていないものの、月末1週間にたまたま臨時的な仕事を1時間した人は、「就業構造基本調査」では「無業者」として、「労働力調査」では「就業者」として扱われることになります。
同じような言葉を使い分けていることには、それなりの意味があるのです。「就業構造基本調査」を見るときには、「労働力調査」で使われている用語との違いにも注意してください。
[図表4]就業状態の区分
《関連リンク》
・総務省統計局「就業構造基本調査」
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
・総務省統計局「労働力調査」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm
Profile
深瀬勝範(ふかせ・かつのり)
社会保険労務士
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。