使える!統計講座(40)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
今後の生産計画を考えたり、あるいは採用の計画を立てるに当たって、現在の景気の状況――「今、景気は改善に向かっているのか? それとも、これから悪化していくのか?」――が気になる人も多いでしょう。
ある時期における景気の状況を「景況」といいますが、それについて調べる統計が内閣府・財務省の「法人企業景気予測調査」です。これを見ると、最大6カ月先の景況変化を見通すことができます。
1.「法人企業景気予測調査」とは
「法人企業景気予測調査」は、経済の現状および今後の見通しに関する基礎資料を得ることを目的として、資本金1000万円以上の法人を対象に、内閣府と財務省が共管で実施している調査です。年4回実施されており、調査結果は、6月、9月、12月、3月に、インターネット等を通じて公表されます。
調査項目は、[図表1]のとおりです。
[図表1]法人企業景気予測調査の調査項目
この調査において「前四半期と比較した変化方向」を捉えるときには、「BSI(Business Survey Index)」という指標が用いられます。これは、前期と比べて「上昇(増加、改善)」と回答した企業の構成比から、「下降(減少、悪化)」と回答した企業の構成比を差し引いた数値を見ることにより、先行きの変化の方向を予測する方法です。
調査項目や調査方法を見ると、この連載の第25回で取り上げた「日銀短観」と似ているところがあります(日銀短観では、「良い」と回答した企業数割合から「悪い」と回答した企業数割合を引いた数値である「DI〔ディフュージョン・インデックス〕」という指標が採用されています)。
「法人企業景気予測調査」と「日銀短観」の主な違いは、次の点にあります。
(1)基本的に、「法人企業景気予測調査」のBSIは、各指標について「変化の方向(上昇、改善など)」を捉えるもので、「日銀短観」のDIは、各指標の「水準・レベル感(良い、過剰など)」を捉えるものです。
ただし、「法人企業景気予測調査」の「製(商)品在庫」「原材料在庫」「生産・販売などのための設備」「従業員数」の4項目は「四半期末時点での水準」を、「日銀短観」の「借入金利水準判断」「販売価格判断」「仕入価格判断」の3項目は「その時点での変化の方向」を、それぞれ示します。
(2)「法人企業景気予測調査」では、景況判断の決定要因を調べる項目が含まれていますが、「日銀短観」では、そのような調査項目はありません。
「なぜ、そのような景況判断がなされたのか」という要因まで分析したいときには、「法人企業景気予測調査」を用いるとよいでしょう。
2.企業業績の変化を予測する
法人企業景気予測調査の「BSI」は、回答者の実感や判断を基に、今後の景況変化の方向を予測するものですが、それは、現実の動きと本当に一致するのでしょうか。
[図表2]は、「売上高判断BSI」と実際の売上高の前期比の推移を示したものです。これを見ると、「売上高判断BSI」から捉えられる変化の方向(増加するか、減少するか)が、実際の変化とほぼ一致していること分かります。
すなわち、今後の景況変化の方向(増加するか、減少するか)については、法人企業景気予測調査の「判断調査項目」を見れば、ほぼ捉えられるということです。「BSI」は、翌々期分まで示されていますから、最大6カ月先の景況変化の方向を見通すことができます。
[図表2]売上高判断BSIと売上高(前期比)の推移
ただし、判断BSIは、あくまでも「予測」にすぎませんから、不測の事態が発生すれば、それは実際の変化と一致しないものとなってしまいます。
[図表2]を見ると、2008年10~12月期は「翌期(2008年8月時点での予測)」と「翌々期(2008年5月時点での予測)」のBSIが「増加」を示しているのに対して、実際の変化は「減少」となっています。同様に、2009年1~3月期は「翌々期(2008年8月時点での予測)」のBSIが「増加」を示しているのに対して、実際の売上高は「減少」しています。2008年10~12月期以降の3期にわたる売上高の減少は、2008年10月に発生したリーマン・ショックなどが大きく影響しているものと考えられますが、このような突発的な出来事により引き起こされた変化は、前期(2008年8月時点調査)や前々期(2008年5月時点調査)の時点では予測できなかったということです。
3.今後の景況はどうなるのか
不測の事態によりハズれることがあるとはいっても、3カ月・6カ月先の変化の方向の予測は、生産計画を策定する、従業員の採用を増やすかどうかを判断するなど、さまざまな場面で活用することができます。
[図表3]は、先日(2012年6月)に発表された法人企業景気予測調査の「景況判断BSI」です。これからの6カ月間、全体的には景況が改善するとの予測が出ていますが、業種としては「不動産業」や「リース業」、規模としては「中小企業」は、年内は厳しい状況が続くものと見込まれます。
[図表3]景況判断BSI(今後6カ月間の景況の見込み:2012年6月時点)
前述したとおり、調査結果は、6月、9月、12月、3月にインターネット上で公表されますから、それに目を通して、今後半年間の仕事をどのような形で進めるとよいか、考えてみるのもよいでしょう。
《関連リンク》
・内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」(財務省サイト)
https://www.mof.go.jp/pri/reference/bos/index.htm
《関連記事》
・第25回 経済動向を調べる(3)~「3カ月後」の先行きの見通しをつかめる日銀短観~
https://www.rosei.jp/readers/article/55342
Profile
深瀬勝範(ふかせ・かつのり)
社会保険労務士
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。