2012年07月19日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第4回 OJTはなぜうまくいかないのか

 


常見陽平  つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー

 今回は「OJT」について考えます。人材育成の基本だと言われつつも、適切に行われているでしょうか? 若手が本当に育つOJTについて考えてみます。

■放置プレイはOJTではない

 新卒採用の会社説明会で、よくこんなやり取りがあります。
学生:「御社では、人材育成はどのように行われていますか?」
採用担当者:「OJTですね。現場が基本ですから」
学生:「なるほど。OJTですか。分かりました」
 このやり取りを聞いていて、不思議に思いませんか? OJTという言葉は共通言語になっているようではありますが、「現場で何かやること」というように誤解されていますね。学生も採用担当者もOJTのことを分かっているのでしょうか?
 企業の多くがOJTを人材育成の手段として採用しています。厚生労働省が発表している『能力開発基本調査』の2011年度版を見ると、OJTとOFF-JTについてどちらを重視するかという設問に対して、「OJTを重視する」が25.6%、「OJTを重視するに近い」が50.8%となっており、約75%がOJT重視という結果になりました。また、正社員に対して、2010年度に計画的なOJTを実施した事業所は63.0%であり、過去最高になっています。
 このように、多くの企業で行われているOJTですが、果たして、その内容は適切なものになっているでしょうか? 前述したように、OJTとは何かという共通認識が、OJTを企画する側とOJTを受ける側との間でできていないことが気になります。実際は、単なる「放置プレイ」になっていることもよくありますよね。
 大手消費財メーカーに入社した男子学生は、営業に配属になりました。でも、1年目の仕事はOJTという名の丁稚(でっち)奉公。先輩たちの資料作成を山のように振られ、具体的なやり方も分からないまま、身を粉にして働く日々…。気づけば、身も心もボロボロになってしまいました。あるいは、いきなり仕事を振られ、放り出されることも…。
 これはOJTと言えるのでしょうか?

■「やってみせ、やらせてみせる」これがOJT

 ここで、OJTという言葉の意味をあらためて考えてみましょう。OJTとは、On the Job Trainingの略です。具体的な仕事を通じて学ぶわけですが、ここには、上司や先輩など教育担当の存在が必須です。彼らがやってみせ、やらせてみせること、さらには定着度を確認し、フォローすることが必要なのです。この時点で単なる放置プレイとは違うことは明らかですね。
 私はまさに、「OJT」をサービスとして行う、トヨタとリクルートグループの合弁会社、株式会社オージェイティー・ソリューションズに在籍していたことがあります。サービスの実施状況を見る機会が何度もあったのですが、そこで行われていたのは、「やってみせ、やらせてみせる」指導でした。トヨタ式の現場管理に使うツールの使い方、ビデオを使った作業解析のやり方など、まず先輩社員・上司が目の前でやってみせ、その次に一緒にやらせる、そしてできることが確認できたら、今度は自分だけでやってもらい、ところどころフォローしていたのです。
 このようなステップを繰り返して、基本動作をしっかり習得することで、将来的に現場で自律的に行動できる人材が育つのです。
 これはものづくり現場に限らず、事務系の職場でも同じです。よく、事務系の職場は業務が定型化できないという話になりますが、本当でしょうか。そこにも仕事の型のようなものはあるのです。

 

 例えば、営業でのOJTで有効なのは、営業同行です。先輩・上司が、どのように営業を「する」のかをしっかり見せるのです。若手社員に対しては、事前に商談の状況をインプットします。これをせずに営業同行させると効果は半減です。なぜならば、これまでのストーリーを理解しなければ、その日の商談というものを理解できないからです。
 商談同行の際は、ひたすらメモをとらせます。取引先の話だけではなく、上司・先輩の営業トークもメモさせるのがポイントです。単に「このトーク、使える!」など、テクニックを学んでもらうだけではありません。アポが終わった後に、それぞれの発言の意図を考えさせることがポイントなのです。これにより商談の極意を学ぶことができるのです。
 ここまでは「やってみせる」フェーズですが、「やらせてみせる」フェーズにおいても、初期段階では同行をし、ところどころサポートし、習熟度を上げていきます。同行しない場合でも商談の報告をさせ、ポイントを押さえられているかどうかを確認します。
 このように「やってみせ、やらせてみる」プロセスを踏まなければ、OJTとしては不十分なのです。

■実は指導者の育成こそ大事

 ここまで読んで気づいた人もいることでしょう。そう、日本においては「いい加減な放置プレイ」までをもOJTと呼んでしまっていることを。もちろん、放置から勝手に学ぶことも立派な勉強ではありますし、最近では採用においても「独習できる人材」が求められているという現実はありますが。
 そして、着目すべきは、「いい加減な放置プレイ」で育った若手社員が教育担当として若手を育てている現実です。「やってみせ、やらせてみる」ことを知らない(経験したことがない)教育担当に、いきなり本来の意味のOJTを主導しろというのは不可能です。結果、彼らが行ったOJTもどきも、いい加減に終わってしまう、負の連鎖になってしまいます。
 OJTを機能させるためには、教育担当の育成こそ大事です。若手が育たないことを嘆く気持ちは分かりますが、原因は教育担当にもあるのです(その真因は、特に事務系職場の仕事の仕方そのものが、目的に合わせた手順立てた形で洗練されていないことにもありますが)。
 若手社員教育は、実は教育する側にとっても大きな気づきに満ちています。まともなOJTをしつつ、仕事を洗練させましょう。

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)