2012年08月01日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第42回 日本企業のグローバル化の状況を調べる ~海外事業活動基本調査~

使える!統計講座(42)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

 日本企業のグローバル化が進んでいます。今や、グローバル化について考えずに、会社の経営戦略やキャリアの方向性を定めることはできなくなりました。グローバル化の状況を把握したいときに、ぜひ見ていただきたい統計が経済産業省の「海外事業活動基本調査」です。

1.「海外事業活動基本調査」とは

 「海外事業活動基本調査」は、日本企業の海外事業活動の現状などを把握するために、経済産業省が毎年行っている調査です。
 この調査の対象は、「海外に現地法人を有する日本企業(金融業、保険業および不動産業を除く)」ですが、ここでいう「現地法人」とは、日本側出資比率が10%以上の外国法人(海外子会社)および、日本側出資比率が50%超の海外子会社が50%超の出資を行っている外国法人(海外孫会社)を指します。
 2012年5月に発表された「第41回 調査結果(2010年度実績)」では、次の事項が調査のポイントとして報告されています。

1. 現地法人分布の状況
2. 現地法人の撤退および進出の状況
3. 現地法人の雇用の状況
4. 現地法人の売上高の状況
5. 海外生産比率
6. 製造業現地法人の販売先の状況
7. 製造業現地法人の調達先の状況
8. 現地法人の収益の状況
9. 現地法人の利益処分の状況
10. 現地法人の研究開発費の状況
11. 現地法人の設備投資額の状況
12. 投資決定のポイントについて
13. 現地法人の日本側出資者向け支払いの状況
14. 現地法人からの配当金について

2.現地法人の企業数、従業者数の推移を見る

 それでは、「海外事業活動基本調査」から2001年度以降の海外現地法人の企業数および従業者数の推移を見てみましょう[図表1]。

[図表1]現地法人の企業数と常時従業者数の推移

 現地法人企業数は、2001年度の1万2476社から毎年増加を続け、2010年度には1万8599社となっています。また、2001年度には317万5396人だった現地法人の常時従業者数は、2010年度は499万3669人に達しています。現地法人企業数、従業者数ともに、この10年間で約1.5倍の規模に膨れあがっています。このデータを見ても、近年、日本企業が積極的に海外に進出していることが分かります。
 ところで、日本企業は、どの地域・国に進出しているのでしょうか[図表2]。

[図表2]地域・国別 日本企業の現地法人の企業数および構成比

 2001年度の時点では、日本企業の現地法人が最も多い国はアメリカでしたが、2004年度以降、中国がアメリカを抜いて第1位となっています。今や、中国には5565社の日本企業の現地法人があり、日本企業の海外現地法人の約30%が中国に集中しているのです。
 近年、海外進出先として話題にされるようになってきたインドやベトナムは、現地法人数で見ると、それぞれ267社、390社と、他のアジアの国々と比較すると少ないほうです。しかし、この10年間の増加率で見ると、2.45倍、3.25倍と大幅な増加を見せており、ここ数年、日本企業が両国に積極的に進出していることが分かります。

3.今後の海外戦略をつかむ

 海外事業活動基本調査では、日本企業の今後の海外戦略をつかむこともできます[図表3]。

[図表3]日本企業の今後の海外戦略

 今後、現地法人の新設など積極的な事業展開が図られそうな地域は、中国やASEAN(東南アジア諸国連合)などのアジア地域です。アメリカやヨーロッパについては、これまでに展開してきた事業を維持していくことが戦略の中心となりそうです。
 また、どの地域においても、事業体制の縮小を予定している企業はわずかです。したがって、当分の間、海外事業は拡大または現状維持の方向で進められていくものと考えられます。
 「海外事業活動基本調査」では、このほかにも、海外からの撤退の状況や現地法人の収益の状況についてもデータが掲載されています。日本企業のグローバル化の状況について調べたいときには、必ず目を通しておくべき統計といえるでしょう。

 なお、「グローバル化」を考えるときには、海外に現地法人などを設立することだけではなく、日本国内の事業所において外国人労働者を雇用することも捉えておかなければなりません。後者を調べたいときに、この統計講座の第37回「外国人雇用の現状を見る ~外国人雇用状況の届出状況~」を参考にしてください。

《関連リンク》

・経済産業省「海外事業活動基本調査」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/index.html

Profile

深瀬勝範(ふかせ・かつのり)

社会保険労務士

1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。