人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(第8回)
太期 健三郎 だいご けんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表
人事評価の一環として、多くの企業では目標管理制度を導入しています。目標管理では期初に目標設定、期中に進捗(しんちょく)管理、期末に目標達成度の評価を行います。このプロセスはまさにPDCAサイクルそのものです。
しかし、目標管理の場合、PLAN(目標設定&計画)とDO(実行)に比べてCHECK(評価&進捗管理)の重要性は見落とされがちで、十分に行われていないことが少なくありません。
今回は、PDCAサイクルの視点から、個人や組織のパフォーマンスを高める人事評価、目標管理制度の運用ポイントを解説します。
■PDCAサイクルで考える人事評価、目標管理制度のプロセス
前回はPDCAサイクル(※)のP(目標設定、計画)の重要性を説明しました。今回はC(チェック)について説明します。
※PDCAサイクルとは、PLAN(計画)→DO(実行)→CHECK(評価)→ACTION(修正)の頭文字をとったもので、経営、事業、業務をスムーズに進めるためのマネジメントサイクルです。
[図表1]PDCAサイクルにおける「振り返り・評価」
冒頭で述べたように、計画(P)、実行(D)に比べて、振り返り・評価(C)については、十分に行われない傾向があります。大きく分けると、「猪突(ちょとつ)猛進」と「やりっ放し」という二つのタイプがあります。
一つ目の「猪突猛進」タイプの場合は、目標を設定した後は計画通り進まなくても、ひたすら実行し続けます。根性でガムシャラに頑張り続ける熱血営業マンをイメージすると分かりやすいかもしれません。PDCAで言えば、PLAN→DO→DO→DO……といった具合で、評価(C)、修正・改善(A)がありません。
目標に向かって一心不乱に向かうことは大切ですが、思うように進まなければ立ち止まって原因を考えたり、軌道修正したりすることが必要でしょう。
二つ目の「やりっ放し」タイプについては、目標を達成しても達成しなくても終わった後は活動を振り返らないという、文字通り「やりっ放し」にすることです。結果に一喜一憂することはあっても、振り返って活動を評価したり反省したりすることがないので、経験や学びをその後の活動に生かすことができません。とてももったいないことです。
■人事評価の目的は昇給・賞与のための「査定」ではない
さて、人事評価と目標管理制度で「C」(振り返り、評価)を考えていきましょう。
そもそも人事評価とは何のために行うのでしょうか? 活動、業務の結果だけを評価するなら、昇給・賞与を決める単なる「査定」です。
人事評価は「未来のために、過去を振り返り評価する活動」、まさしくPDCAサイクルのC(チェック)なのです。
人事評価は「業務の達成度」「業務のプロセス」「業務遂行能力」などを測定し、上司から本人へフィードバックし、両者で話し合うことで、今後の仕事へのモチベーションアップや、人材育成・自己啓発のための材料にします。
また、評価結果を昇進や異動配置などへ組織的に活用することも人事評価の重要な役割です。
(注)目標管理制度
Management By Objectivesと言い、頭文字をとってMBOと略されます。直訳すると「目標による管理」となりますが、日本では「目標」「管理」という言葉が強調され、これが誤って運用される原因の一つになっています。「目標による管理」ではなく「目標を管理する」となれば単なるノルマ管理です。
■(事例)営業マンへの目標管理制度運用
営業マンの目標管理制度運用の流れをPDCAサイクルでとらえてチェック(振り返り、評価)がいかに重要なものかを説明します。
(1)PLAN(プラン:計画)
営業マンは期初に上司と面談をして営業目標を設定し、それを達成するための計画を策定します。→前回のコラムで目標設定のポイント「SMARTの原則」を詳しく説明しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
(2)DO(実行)
期が始まると計画を基に営業活動を進めます。
期中には結果とプロセスを振り返り、評価します。前述しましたが、計画通りに進んでいない状況で、立ち止まって振り返ることなく「猪突猛進」で同じ活動を続けてはいけません。計画を阻害している要因、それを解消する対策などを考えるのです。時には、計画の変更や目標自体の見直しなど大幅な軌道修正が必要になることもあるでしょう。
上司は目標を与えた後は「任せっ放し」とせず、活動状況を把握し適時適切に進捗を管理します。と言っても「数字が上がっていないぞ!」「もっとガンガン営業しろ!顧客訪問数を増やせ!」と叱咤(しった)激励するだけではいけません。
部下と一緒になって問題の原因や解決策を考え、それを実行するためのサポートやアドバイスを行うのが上司としての重要な役割の一つです。
また、目標、計画通りに進んでいればチェックは不要というものではありません。特に営業的数値には「想定外のラッキーな受注で数字だけは順調そうに見える」ということがあるからです。これを見過ごしていたら「結果オーライ」となり、改善にも成長にもつながりません。
(4)ACTION(修正、改善して実行)
CHECKの結果を受けて、必要に応じて修正、改善して活動を継続します。実際には、修正、改善した後に、振り返り・評価を行いさらなる改善を繰り返します。
PDCAサイクルの各ステップは以上のとおりです。
猪突猛進型のP→D→D→D……と、正しくP→D→C→Aとサイクルを廻(まわ)すのとでは、長い視点で見た個人と組織の成長は雲泥の違いとなるでしょう。
目標設定後、年度がスタートしたら期末まで目標管理シートを机の中にしまい込んだままにするというのは、チェックを行わない営業マンと上司の典型です。
ここまで説明した人事評価、目標管理制度、人事評価をPDCAサイクルの流れで整理したものが次の図表です。
図表2 PDCAサイクルの流れで整理した目標管理制度
部下と上司の意識だけに任せていては、PDCAのCを徹底させることはできません。人事部門としては、Cが実行される企業風土の醸成、評価者研修の実施、マニュアル作成、期中面談の実施状況把握、各種環境整備・サポートなどをあわせて地道に・愚直に行うことです。
■まとめ
冒頭でも書きましたが、人事評価、目標管理制度の肝はPDCAのC(CHECK)にあります。
Cを徹底するということは、言わば「急がば回れ」「早く目的地に着くために立ち止まる勇気を持て」ということです。
目標を達成するために、途中で立ち止まり、謙虚に冷静に進捗を振り返る。個人としてはそのような習慣を、企業としてはそれを促す風土を持ち続けることが、目標を達成する最短距離であり、「王道」なのです。
◆関連リンク
・第5回 そもそも、人材マネジメントとは?:人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク
・第7回 良い目標は「SMARTな目標」:人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク
太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/