2012年09月12日掲載

人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク - 第10回 MECE的思考法を使うと、問題解決力が強化され、仕事の精度とスピードが飛躍的に高まる!

人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(第10回)
太期 健三郎 だいご けんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

 ロジカルシンキングを行う上での重要な考え方の一つとして、「MECE」という言葉があります。物事を洗い出したり、整理したりするときに「モレなくダブりなく」と意識して考える思考法です。
 仕事を進める際に、モレやダブりを減らすことはとても大切です。重要な視点、項目でモレ(洩れ、欠落)があると致命的な問題が発生する可能性があります。ダブり(重複)があると無駄、非効率が生まれます。
 MECE的思考を使う最大のメリットは、物事の全体を構造的に捉え、優先順位をつけて選択、決定、行動できることです。MECEで考える習慣を身に付けて、仕事の精度とスピードを高めましょう。

■MECEとは?

 MECEの考え方を図と具体例で説明しましょう。
 MECEとは、Mutually Exclusive Collectively Exhaustiveの頭文字をとったもので、ミッシーもしくはミーシーと言います。日本語に直訳すると「それぞれが重複することなく(ME)、全体としてはモレがない(CE)」(つまり「ダブりなくモレなく」)という意味です。
 前述したとおり、仕事でモレ(洩れ、欠落)があると大きな問題を生む可能性がありますし、ダブり(重複)は無駄、非効率を生みます。

[図表1]「集合の図で示したMECEの概念」

 企業で働く社員の分類で、上記図の①~④を説明しましょう。

モレなし、ダブりなし
 男性社員、女性社員と二つのグループに分けると、モレもダブりもありません。

モレなし、ダブりあり
 年齢別に10代~20代、30代~40代、50代以上、若手社員、と四つのグループにすると、モレはありませんが、ダブりが発生してしまいます。

モレあり、ダブりなし
 「正社員」と「パート・アルバイト」の二つのグループに分けると、ダブりはありませんが、契約社員、派遣社員、嘱託社員などのモレが発生します。

モレあり、ダブりあり
 「正社員」と「本社勤務の社員」という二つのグループに分けると、本社以外(支社、工場など)で働く非正社員(契約社員、派遣社員など)はモレて、本社勤務の正社員はダブってしまいます。これは複数の切り口が混在しているからです。

■MECEで考えるコツ

 MECEで考えると言っても、最初は少し難しいかもしれません。そこで、MECEを使いこなす五つのコツを紹介します。

①既存のフレームワークを使う(※下記[参考]参照)

 ビジネスで使われるものに限らず、多くのフレームワークはMECEとなっています。これらを利用しない手はありません。代表的なものを下記[参考]に載せておきますので、活用のヒントにしてください。

②ダブりよりもモレに注意する

 ダブりは後からくくる(まとめる)ことができますが、モレは見つけにくいものです。またモレは視点の欠落であり大きな問題を生む恐れがあります。ダブりよりもモレがないように注意しましょう。

③階層に気をつける

 例えば、スーパーで扱っている生鮮食品を整理する際、野菜、果物、肉……の後に「サンマ」とすると階層が異なり変ですよね? ここは、サンマではなく魚介類などになるはずです。一つの階層でMECEに整理してから下の階層へというように「階層」を意識します。
 階層に関するもう一つのポイントは、いきなり細かく分類しない、ということです。出版物をMECEで考えるならば、ビジネス書、ミステリー小説、ファッション雑誌……などと考えていくよりも、「雑誌」と「書籍」というように最初は大きく分類し、その後に「雑誌」を季刊誌、月刊誌、週刊誌、その他……と次第に細かくしていくとよいでしょう。

④違う切り口を混在させない

 人を分類する際、性別、年齢、職業などさまざまな切り口があります。しかし、「10代、20代、学生、主婦、会社員……」ではMECEにはなっていません。異なる切り口が混在しないように注意してください。

⑤最初は神経質に考え過ぎない

 MECEに考えることは手段であり目的ではありませんので、最初はあまり神経質になり過ぎないようにします。特に階層が下になって細かくなる程、MECEにするのは難しくなりますので、「ほぼMECE」くらいで考えればよいでしょう。

【参考】代表的なフレームワークを示しますので、参考にしてご活用ください。

1.ビジネスで使われるMECEの例

・ヒト、モノ、カネ、情報→四つの経営資源

・3C(Customers:市場、Competitor:競合、Company:自社)→事業分析の要素

・4P(Product:製品、Price:価格、Place:流通、Promotion:プロモーション)→マーケティング・ミックス

・固定費、変動費→費用の分類(1)、直接費、間接費→費用の分類(2)  など

2.ビジネス以外で使われるMECEの例

・5W1H(When、Where、Who、What、Why、How)→文章を構成する要素。ビジネスでも重宝します

・衣食住→生活の3要素

・喜怒哀楽→人間の感情

・起承転結→文章や物事の展開を表す要素

・春夏秋冬→季節、四季  など

■(ケーススタディ1)人事業務をMECEで考えてみる

 それでは、人事パーソンの業務を例にMECEを説明しましょう。人事業務は非常に多岐にわたります。

ルーチン業務/非ルーチン業務、企画業務/運用業務、人事/労務、など整理・分類する切り口はいくつかありますが、下表は社員の入社から退社までのプロセスで整理したものです。

[図表2]人材マネジメントを「入社」から「退職」までの流れで整理

 そして、「採用」「教育・育成」などの下の階層で具体的に展開していくのです。自分の仕事、部内の業務を整理することなどありましたら、参考にしてみてください。この一連の流れで捉えると、どのプロセス・機能で人材マネジメントの強化すべきか?――を考えやすくなると思います。

■(ケーススタディ2)人事の問題を「7Sモデル」を使って考える

 また人事パーソンが解決すべき問題はさまざまな原因が複雑に絡み合って発生します。
 例えば「人事評価制度が機能しない」という問題を生み出す原因は、制度自体、評価基準、運用ルール、評価者のスキル・意識……などさまざまです。
 同様に「人材が育たない」という問題も複数の原因によります。
 問題を解決するためには、まず問題を発生させている原因をモレなくダブりなく洗い出し、整理することが必要です。
 そこで、人事の問題や原因を整理するのに最適なMECEのフレームワークが「7Sモデル」というものです。7Sモデルは組織の七つの構成要素で組織の整合性を見るチェックリストで、企業の構造に関係する三つの「ハードのS」と、人に関わる四つの「ソフトのS」で構成されます。
 7Sモデルで考えると全体の整合性、関係性を見ながら人材マネジメントの問題を生み出している原因とその解決策を考えることができます。

[図表3]「7Sモデル」

■練習問題

 最後にMECE的に考える練習問題を載せます。「習うより慣れろ」です。ぜひチャレンジしてみてください。

①コンビニエンスストアで取り扱っている商品、サービスをMECEで大分類→中分類→小分類と整理してください。

②人事パーソンに必要なコンピテンシー(※)をスキル、知識、マインドという分類を使って洗い出して、自分が強化すべきものを三つ考えてください。

※コンピテンシーとは、高い成果をコンスタントに出す人の行動特性、考え方です。

③現在の業務に関わる問題の原因をMECEで洗い出してください(部門業務の問題でも、個人の仕事の問題でも)。

 MECEを使って物事をモレなくダブりなく、構造的に捉えると問題解決力が強化され、仕事の精度とスピードが飛躍的に高まります。日々の仕事や生活でMECEを意識して、ぜひ習得してください。

太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/