使える!統計講座(45)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
近年、大規模なショッピングセンターの相次ぐ出店やインターネット・ショッピングの普及など、商業の形態が大きく変化しています。私たちのライフスタイルにも大きな影響を与える、これらの商業の変化を捉えるときには、経済産業省の「商業統計」を見るとよいでしょう。
1.「商業統計」とは
「商業統計」とは、商業を営む事業所について、業種別、従業者規模別、地域別等に事業所数、従業者数、年間商品販売額等を把握することを目的として、経済産業省が実施する調査です。日本標準産業分類の「卸売業、小売業」に属する全事業所を対象とした大規模な調査で、本調査は5年おきに、簡易調査は本調査の2年後に、それぞれ実施されます。
商業統計の調査事項は、次のとおりです。
(1)卸売業、小売業に共通する調査事項
・事業所数(法人・個人別)
・従業者数(性別、雇用形態別)
・年間商品販売額、商品手持額など
(2)小売業に限っての調査事項
・小売販売額の商品販売形態別割合(店頭販売・訪問販売・通信・カタログ販売など)
・セルフサービス方式採用の有無
・売場面積、営業時間、来客用駐車場の有無および収容台数など
・チェーン組織への加盟の有無
なお、2009年に行われるはずだった簡易調査は、「経済センサス」の実施に伴い、中止になりました(その代わりに、2012年2月に実施された「経済センサス-活動調査」の中で商業に関する調査が行われています)。したがって、2012年9月時点で入手できる最新の商業統計は、2007年に実施された本調査のデータとなっています。
[注]経済センサス:我が国における包括的な産業構造を明らかにするとともに、事業所・企業を対象とする各種統計調査の実施のための母集団情報を整備することを目的として総務省統計局が実施する調査。
2.年間販売額、事業所数、従業者数の推移を見る
それでは、商業統計のデータを実際に見てみましょう。
[図表1]は、卸売業・小売業の年間商品販売額の推移を示したグラフです。卸売業、小売業ともに、1970年、80年代に販売額を大きく伸ばしていますが、卸売業は1991年の572兆円をピークに、また小売業は1997年の148兆円をピークに、減少に転じています。2007年の年間販売額は、卸売業が414兆円でピーク時の72%、小売業が135兆円でピーク時の91%となっています。
[図表1]年間商品販売額の推移
次に、事業所数、従業者数の推移を見てみましょう([図表2]参照)。
卸売業の事業所数、従業者数は、年間商品販売額と同様に、1991年までは増加し、その後、減少に転じています。2007年の事業所数(33万4799所)、従業者数(352万6000人)はピーク時(1991年)の73~75%であり、年間商品販売額と事業所数、従業者数とは、ほぼ連動していることが分かります。
一方、小売業は、年間販売額が1997年まで増加傾向にあったにも関わらず、事業所数は、1982年の時点で減少に転じています。また、1982年以降、事業所数は、一貫して減少していますが、従業員数は1999年まで増加傾向を続けました。これらの動きは、1982年以降、規模の小さい事業所(個人商店など)が数を減らし、スーパーや量販店などの大型店が増えてきたことから生じたものと考えられます。
[図表2]卸売業、小売業の事業所数、従業者数の推移
このことを検証するために、小売業の売場面積の推移を見てみましょう([図表3]参照)。1982年以降、事業所数が減少しているにも関わらず、売場面積は(1982年から1985年までの期間を除いて)、一貫して増加しています。このことから、小売業では、規模の小さい店が廃業し、大型店が新設されていった状況がうかがえます。
[図表3]小売業の売場面積の推移
3.無店舗販売の状況をつかむ
近年、インターネットを通じた商品販売も盛んに行われるようになってきました。商業統計では、このような無店舗販売についての調査も行われており、その実態を大まかにつかむことができます。
[図表4]は、小売業の年間商品販売額の販売形態別割合を示したものです。
[図表4]年間商品販売額の販売形態別割合
インターネット販売を含む通信・カタログ販売が急速に普及してきた感がありますが、実際には、その販売額は小売全体の3.0%程度と、まだ、大きな割合を占めるに至ってはいません。ただし、2002年から2007年までの5年間で、通信・カタログ販売は、事業所数は約1.4倍(2002年:4万5000事業所→2007年:6万1000事業所)、年間販売額は約1.3倍(2002年:3兆875億円→2007年4兆168億円)の大きな伸びを示しています。
今後、私たちのライフスタイルの変化にあわせて、インターネットを通じた販売額がますます伸びていくことになるでしょう。商業統計を見れば、このような消費行動の変化を捉えることもできるのです。
4.販売効率や正社員比率の参考資料として使う
商業統計には、「食料・飲料卸売業」などの細分化された業種ごとに年間販売額と従業者数、売場面積などが公表されますので、ここから「就業者1人当たり販売額」や「売場面積1平方メートル当たり販売額」などの指標を算出することができます。また、従業者数も雇用形態別(正社員、パートタイマーなどの区分ごと)に表示されていますので、正社員比率(常勤従業者に占める正社員の非率)も分かります。
これらの指標について、自社と統計データを比較すれば、販売効率の分析を行うことができます。商業を営む事業所は、ぜひ、「商業統計」を使った販売効率の分析にチャレンジしてみてください。
[図表5]主な業種の販売効率および正社員比率
《関連リンク》
・経済産業省「商業統計」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syougyo/index.html
Profile
深瀬勝範(ふかせ・かつのり)
社会保険労務士
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。