2012年09月26日掲載

人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク - 第11回・完 これからの時代、人事パーソンにビジネスフレームワークが求められる理由と、習得するコツ

人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(第11回・完)
太期 健三郎 だいご けんざぶろう
ワークデザイン研究所 代表

 本コラムも早いもので11回目を迎え、今回が最終回となります。
 最終回の今回は、「人事パーソンにビジネスフレームワークに必要性がますます高まる理由」と「ビジネスフレームワークを使いこなすメリット、習得するコツ」について、おさらいを兼ねて再確認し、連載の総括としたいと思います。

■人事担当者を取り巻く環境変化、求められる役割の変化

 ビジネス環境は大きく変化し、厳しさを増しています。人事部門に求められる役割、機能も変化していくでしょう。
 人事担当者の仕事も、これからは人事制度の運用に関わるルーチン業務や手続き業務に加え、経営戦略を推進するための人材マネジメント業務の比率が高まってくるでしょう。“人事のスペシャリスト”から“経営パートナーとしてのプロフェッショナルな人事パーソン”へ進化することが求められるのです。その時に役立つ有効な武器がビジネスフレームワークです。
 連載第1回でも説明しましたが、ビジネスフレームワークとは、仕事の質と効率を高めてくれるとても強力なツールです。囲碁・将棋の「定石」、数学の「公式」、武道の「型」のようなものです。

■大きく二つに分類されるビジネスフレームワーク

 ビジネスフレームワークは大きく二つに分けられます。一つが企業経営、事業を考えるフレームワーク、もう一つがビジネススキルに関わるものです。

(1)経営、事業を考えるフレームワーク

【代表的なもの】
・7Sモデル(組織の七つの構成要素)
・経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)
・3C(事業分析の要素)
・4P(マーケティング・ミックス)
・PDCAサイクル
・リスクマネジメント など

 これらのビジネスフレームワークがなぜ人事担当者に必要となるのでしょうか?
 前述しましたが、人事部門は経営戦略を推進するための人材マネジメントを行う比率が高まります。そのためには、自社の経営戦略・事業戦略の理解など経営的視点を持って業務に取り組む必要が出てきます。
 例えば、採用、人材育成の業務を行うにも、事業を推進するための人材像を明確に描いた上で採用基準、選考方法を考え、中長期的な視点でOFF-JTとOJTの組み合わせを考えることが必要になるでしょう。海外展開を行っていれば、抽象的な表現ではなく自社としての「グローバル人材」の要件を具体化しなければなりません。
 経営、事業を捉えるビジネスフレームワークを理解していれば、それらを行うことが容易になります。

(2)ビジネススキルに関わるフレームワーク

【代表的なもの】
・問題発見&解決力
・ロジカルシンキング(論理的思考)
・クリエイティブシンキング(創造的思考)
・ゴールからの逆算思考
・高度なコミュニケーションスキル
・情報収集力 など

 人事パーソンとしてこれらをマスターすることが必要な理由を考えていきましょう。
 これから、新たに高度な役割が期待されるようになると、初めて遭遇する未知の仕事に取り組む場面や、課題が提示されるのではなく自ら課題を見つけ解決しなければならない機会が増えてくるでしょう。すると、過去の経験・知識を利用したり、前例を踏襲するだけでは対応が難しくなります。
 仕事の難易度、複雑さ、そして求められるスピードもますます高まるはずです。
 そのような場合、さまざまな仕事、課題に汎用(はんよう)性のあるビジネスフレームワークが強力な武器となるのです。

■その他にもたくさんあるビジネスフレームワークをマスターするメリット

 ビジネス環境の変化による「必要性」を中心に説明してきましたが、それ以外にもビジネスフレームワークをマスターすることにはさまざまなメリットがあります。
 一つ目は、フレームワークを使って系統立てて仕事に取り組むため、仕事のプロセスから多くの学びを得ることができます。フレームワーク(考える枠組み、手順)に沿って取り組んだ仕事は、その成否に関わらず学びを与えてくれます。それは経験、ナレッジという貴重な財産となり、自己成長を加速させます。
 次のメリットは、仕事が面白く、楽しくなることです。未経験の困難な仕事を行う時には苦しみが伴います。しかし、ビジネスフレームワークを使って取り組むと、効率的に行えて苦しみが軽減されるだけでなく、時には楽しくなります。パズルを解くような面白さを感じることがあります。
 最後に、ビジネスフレームワークは業種、業界を超えた汎用性があるスキルだということです。一度習得してしまえば、人事部門から異動して他部署に行っても、あるいは転職をして他社や他業界に移っても使える有効な武器、強みとなります。ビジネスパーソンとしての自分の価値を高めてくれるのです。

■マスターするコツ

 ビジネスフレームワークは複雑で難しいものと考える方もいると思いますが、そんなことはありません。どれも考え方自体はとてもシンプルなものです。
 マスターするコツは、まず基本を理解し(ぜひ、本コラムをブックマークに追加して、バックナンバーを繰り返しご覧ください)、その上で、使い続けることです。特に、ビジネススキル系のフレームワークは仕事だけでなく生活の場面でも使えるものが多いです。
 「分かるできるは違う」という言葉があります。「知識として理解すること」と「実際に使いこなせること」とは違うのです。ぜひ、使い続けてマスターしてください。

 読者の皆さんが、ビジネスフレームワークをマスターして、お仕事でますますご活躍されることを心から祈念いたします。当コラムがその一助となれば執筆者としてこれに勝る喜びはありません。

 今までご愛読ありがとうございました。

◆関連リンク

まずゴールを明確にしよう! 目の前の現象や手段にとらわれず、ゴールから逆算して考える~人事パーソンのための実践!ビジネスフレームワーク(1)

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太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/