2012年10月05日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第46回 サービス産業の実態を把握する ~特定サービス産業実態調査~

使える!統計講座(46)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

 近年、パソコンの普及に伴い、ソフトウェア業やインターネット付随サービス業が大きく成長しました。この例から分かるとおり、サービス産業の変化は社会の動きを如実に表す一面を持っています。経済産業省の「特定サービス産業実態調査」を見るとサービス産業の変化や事業の実態を把握することできます。

1.「特定サービス産業実態調査」とは

 「特定サービス産業実態調査」とは、サービス産業の活動状況や経営の現状を明らかにすることを目的として、経済産業省が毎年実施する調査です。調査対象は、日常生活や企業活動と関わりが深い28業種(2010年調査)で、それぞれの業種について、事業所数、従業者数、年間売上高、その他事業運営に関するさまざまなデータが集計されています。


[図表1]特定サービス産業実態調査の対象業種(2006年調査以降)

 この調査は、1973年に始まったものですが、スタート時の調査対象は「物品賃貸業、情報サービス業、広告業、デザイン業、コンサルタント業」の5業種のみでした。その後、調査対象業種の拡大や調査周期の見直し等が何度か行われました。過去には、「貸自転車業」や「トレーディングスタンプ業」[注]などが調査対象となったこともあります。調査対象業種の変遷を見るだけでも、日本におけるサービス産業の移り変わりを捉えることができそうです。

[注]トレーディングスタンプ業:販売促進のために、商品を購入した顧客に対して購入額に応じて配布するクーポンで、一定量集めると商品などと交換することができる「トレーディングスタンプ」を利用した販売促進サービス業。現在のポイントカードサービスの草分け的存在。

 2006年から母集団名簿をアクティビティベース(業界団体名簿)から日本標準産業分類ベース(事業所・企業統計調査名簿)に変更し、定められた業種について毎年調査を行う形式になって現在に至っています。
 なお、2011年は、この調査は実施されず、「2012年経済センサス‐活動調査」[注]の中でサービス業の活動を把握することになっています。

[注]経済センサス:我が国における包括的な産業構造を明らかにするとともに、事業所・企業を対象とする各種統計調査の実施のための母集団情報を整備することを目的として総務省統計局が実施する調査。

2.ソフトウェア業の事業所数、従業者数、売上高の推移を見る

 [図表2]は、特定サービス産業実態調査から「ソフトウェア業」の事業所数、従業者数、年間売上高の推移をまとめたものです。


[図表2]ソフトウェア業の事業所数、従業者数、年間売上高

 ソフトウェア業は、2010年において、従業者数64万人、年間売上高は13兆2101億円の規模に達するまで成長しています。ただし、その推移を見ると、事業所数、従業者数、年間売上高の3項目とも2007年から2009年までは増加傾向にあったものの、2010年には減少に転じています。特に、2010年の年間売上高は、前年比でマイナス12.3%と大幅な減少を示しており、2006年以降、最低の売上高となってしまいました。
 1事業所当たりの年間売上高を見ると、2010年(9億2200万円)はピーク時(2007年、13億6100万円)の68%にまで低下していますから、事業運営が厳しくなってきた会社が出てきているものと考えられます。売上高の減少が続くのか、それとも、再び増加に転じるのか。ソフトウェア業にとっては、これからの数年間が正念場と言えるでしょう。

 ――このように、特定サービス産業実態調査を見ると、それぞれの業種の状況を大まかに把握することができます。

3.学習塾の営業費用の実態をつかむ

 特定サービス産業実態調査には、各業種の従業員構成(性別、雇用形態別)や営業費用の内訳等に関するデータも掲載されています。これらのデータは、その業種の事業の実態をつかむうえで、とても参考になります。
 [図表3]は、学習塾(事業従事者5人以上)の年間営業費用の内訳です。


[図表3]学習塾の営業費用

 これを見ると、学習塾の営業費用は、講師等に支払う報酬である「給与支給総額」以外にも、教室などの賃借料、教材の購入費用、広告費など、さまざまな費用が掛かっていることが分かります。学習塾を経営されている人、あるいは、これから学習塾を開業しようと思っている人は、このデータを参考にしながら事業計画を策定するとよいでしょう。

4.小学生の学習塾利用率が高い県はどこか

 特定サービス産業実態調査には、「学習塾受講生数」が公表されていますが、この数値を文部科学省「学校基本調査」が公表している「児童数・生徒数」で割れば、「学習塾利用率」を算出することができます。
 [図表4]は、各都道府県の小学生の学習塾利用率を算出してグラフ化したものです。これを見ると、愛知県、佐賀県、東京都、兵庫県、沖縄県の利用率が高くなっています。小学生の学習塾利用率は、私立中学受験希望者の数だけではなく、核家族化の進行度合いや共働き世帯の多さ等、さまざまな要素が関係してくるもので、必ずしも、首都圏だから高い(逆に、首都圏ではないから低い)というわけではないことが分かります。


[図表4]都道府県別 学習塾利用率

 このように、官公庁の統計データを組み合わせてみると、新たな発見をすることもあります。皆さんも、自分が興味を持っているテーマの統計データを集めて、いろいろ組み合わせて分析してみてはいかがでしょうか。

《関連リンク》

・経済産業省「特定サービス産業実態調査」
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabizi/index.html

・文部科学省「学校基本調査」
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

Profile

深瀬勝範(ふかせ・かつのり)

社会保険労務士

1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。