2012年10月26日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第47回 商業、サービス産業の動きを把握する ~商業動態統計調査など~

使える!統計講座(47)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

 小売業やサービス産業の売上高は、景気を表す「鏡」と言えるものであり、ビジネスパーソンであれば、常にその動きをつかんでおきたいものです。そこで、ぜひチェックしていただきたい統計が、経済産業省が毎月公表する「商業動態統計調査」「特定サービス産業動態統計調査」です。

1.「商業動態統計調査」と「特定サービス産業動態統計調査」

 この講座で紹介した「商業統計」(本連載 第45回 参照)と「特定サービス産業実態調査」(同 第46回 参照)は、商業またはサービス産業の従業員構成や販売効率などの実態を調べることを目的としています。このような構造面を調べる調査は、さまざまなデータを集計する大掛かりな調査となるため、調査実施から結果公表までに相当の時間が必要とされ、各産業の状況をリアルタイムでつかむことには向いていません。
 直近の状況を調べる場合には、卸売業・小売業であれば「商業動態統計調査」を、サービス業であれば「特定サービス産業動態統計調査」を見るとよいでしょう。これらは、各産業の毎月の販売額(売上高)を集計する調査で、各月の調査結果は翌々月中旬までにインターネット等を通じて公表されます。

2.小売業の販売額の推移を見る

 モノがよく売れる状況が続けば、製造業や農林水産業の生産活動は活発になり、労働者の雇用や収入が安定してくるため、そこから、さらなる消費拡大が実現します。逆に、モノが売れない状況が続けば、生産活動も低調になり、消費者心理が冷え込んで、さらなる小売業販売額の減少が引き起こされてしまいます。このように、小売業の販売額の動きは、経済状況を捉えるうえで、重要な意味を持っています。
 [図表1]は、「商業動態統計調査」から、小売業の販売額、およびその前年同月比増減率の月次の推移をグラフ化したものです。

[図表1]小売業販売額の推移(2009年1月~2012年8月)

 2009年の小売業販売額は、すべての月で前年同月比マイナスとなり、個人消費が冷え込んだ1年間でした。2010年になると、その傾向に歯止めがかかり、販売額の前年同月比はプラスが続きました。ところが、2011年3月に発生した東日本大震災の影響で、小売業販売額は大きく落ち込み、前年同月比は再びマイナスに転じました。その年の12月になると、個人消費は回復し、2011年12月から2012年6月までは、震災前の2009年から2010年における同月をそれぞれ上回る販売額になりました。
 このように、昨年末から小売業販売額は持ち直してきていたのですが、直近の7、8月は、両月ともに2010年の販売額を下回っており、その勢いが弱まる動きが出てきています。「このまま、小売業の販売額は落ち込んでいくのか。それとも増えていくのか」――これからの数カ月間は、小売業界の今後の動きを見極める上で、重要な時期にあると言えるでしょう。

3.売上が伸びているサービス産業は何か

 「商業実態統計調査」や「特定サービス産業動態調査」では、業種・業態別に集計したデータも表示されます。
 例えば、小売業については、「織物・衣服・身の回り品、飲食料品、自動車」などの業種別に、また「百貨店、スーパー、コンビニエンスストア」などの業態別に集計したデータも表示されています。サービス産業についても、「対事業所サービス」として「物品賃貸業(リース・レンタル)、情報サービス業、広告業」など16業種、「対個人サービス」では「映画館、ゴルフ場、葬儀業、カルチャーセンター」など13業種に分類してデータが表示されています。
 「特定サービス産業動態統計調査」から、2012年6~8月の3カ月間における売上高の前年同月比増減率を業種ごとに見てみましょう([図表2]参照)。

[図表2]サービス業の売上高前年同月比増減率の推移(2012年6~8月)

 対事業所サービス業の中では、「物品賃貸(リース)業」や「インターネット付随・サービス業」は、3カ月間連続して売上高が前年同月比5%以上となっており、安定した成長を見せています。一方、「エンジニアリング業」の売上高の前年同月比は、月ごとの増減が大きく、不安定な動きを見せています。なお、エンジニアリング業における8月の売上高の前年同月比の減少は、「国外」の受注減(前年同月比で69.8%の減)、プラント・施設別受注高を見ると「貯蔵・輸送システム」(同68.1%の減)、「電力プラントシステム」の受注減(同58.2%の減)――が大きく影響しています。

 対個人サービス業の中では、「パチンコホール」や「フィットネスクラブ」が3カ月間連続で売上高前年同月比を1.0%以上増加させており、事業が安定しているように見えます。ただし、「パチンコホール」の売上高増加は、主に事業所数の増加(8月は前年同月比2.3%増)によるもので、1事業所当たりの売上高は前年同月比1.0%の減少となっています。したがって、パチンコ業界全体としては売上高を増やしているものの、業界内の競争は激化し、各事業所の経営は厳しさを増しているものと推測されます。
 このように「商業実態統計調査」や「特定サービス産業動態調査」を見れば、商業やサービス産業の状況を、業種別にリアルタイムで把握することができます。

 なお、商業、サービス産業以外に「電気・ガス・熱供給・水道業」や「運輸業、郵便業」なども加えた第3次産業全体の動向を把握するための指標として、経済産業省が「第3次産業活動指数」を毎月公表しています。
 次回は、この指標について解説します。

《関連リンク》

・経済産業省「商業動態統計調査」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/index.html

・経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/tokusabido/index.html

Profile

深瀬勝範(ふかせ・かつのり)

社会保険労務士

1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。