使える!統計講座(49)
深瀬勝範 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士
この講座では、これまで、官公庁が実施している統計調査を紹介してきました。今回からは、人事業務を行う上で避けて通れないテーマや、世間で話題になっているテーマを取り上げて、それに関する情報を統計調査から入手する方法を説明していきます。今回のテーマは「高年齢者雇用」です。
1.高年齢者雇用の現状を捉える
希望者全員の定年後の継続雇用を事業主に義務付けた改正高年齢者雇用安定法が2013年4月から施行されます(注1)。
ところで、日本の高年齢者雇用の状況は、現在どのようになっているのでしょうか。
まず、総務省の「労働力調査」から、年齢階級ごとの労働力人口と完全失業率を見てみましょう([図表1]参照)。
2012年7~9月期の調査では、60~64歳の労働力人口は618万人であり、その下の年齢階級である55~59歳は624万人、50~54歳は646万人となっています。今後も、60歳以上の労働者数は、現在と同じ水準で推移するものと見込まれます。
一方、完全失業率を見ると、60~64歳は4.4%で、35歳以上のどの年齢層よりも高くなっています。雇用状況が厳しい中、高年齢の労働者は、現勤務先においてできるだけ長く働きたいという意向を強めるものと考えられます。
このような状況において、企業側にも高年齢者雇用を増やす努力が一層求められるようになり、今回の高年齢者雇用安定法の改正が行われたのです。
[図表1]年齢階級別 労働力人口・完全失業率
2.企業における高年齢者雇用の実態を調べる
次に、日本企業における高年齢者雇用の実態を調べてみましょう。
まず、「定年制」の実施・設定状況について、厚生労働省「就労条件総合調査」を使って調べます。この調査(2012年)によれば、「定年制を定めている企業」は全体の92.2%を占めており、一律定年制を定めている企業の82.7%が「60歳」を定年年齢としています。また、一律定年制を採用している企業の92.1%が継続雇用制度(勤務延長制度、または再雇用制度〔注2〕)を定めており、このうち「原則として希望者全員を継続雇用の適用対象としている」企業数割合は、勤務延長制度が49.1%、再雇用制度が39.9%となっています([図表2]参照)。
今でも多くの日本企業が「60歳定年制」を採用しており、そのほとんどにおいて定年退職者を継続雇用する仕組みがすでに導入されていますが、希望者全員を継続雇用制度の対象としている企業は、継続雇用制度を有している企業のうちの半分にも満たないということが高年齢者雇用の実態のようです。このデータを見ると、「今回の高年齢者雇用安定法の改正は、日本企業の高年齢者雇用に大きな影響を与えることになる」と、多くの人が捉えるでしょう。
[図表2]定年制、継続雇用制度の現状
しかし、本当にそうでしょうか。
そこで、定年退職者のうち、基準に満たなかったことにより継続雇用されなかった人がどれくらい存在するのか、調べてみましょう。
厚生労働省は、毎年6月1日における「高年齢者の雇用状況」の集計結果をインターネット等で公表しています。このデータを見ると、2011年6月1日から12年5月31日までの1年間で定年年齢に到達した人(約43万人)のうち、基準に該当しないこと等により離職した人は約6900人(定年到達者の1.6%)となっています。
このデータを見る限り、継続雇用の適用対象を限定する基準を定めている企業が多いとはいうものの、実際には、ほとんどの定年退職者が、その基準をクリアして継続雇用されているということになります。すなわち、実質的には、すでに「希望者全員」の継続雇用に近い状態になっており、その意味では、改正高年齢者雇用安定法が施行されたとしても、高年齢者雇用には大きな変化は生じないものと捉えられます(注3)。
3.継続雇用制度の運用状況を調べる
高年齢者雇用においては、継続雇用時の処遇や働き方をどうするのかということ(例えば、「継続雇用時の賃金は定年前の賃金の何割程度に設定するのか」「定年後もフルタイムで働いてもらうのか」等)が、しばしば問題になります。一般的には、継続雇用時の処遇は、どのようになっているのでしょうか。
厚生労働省の「高年齢者雇用実態調査」(2008年)には、継続雇用時の処遇等に関する具体的なデータが掲載されています([図表3]参照)。これを見ると、定年年齢に達しても退職せずに引き続き勤務する「勤務延長」の場合は、正社員のまま、賃金や労働時間を変えずに働くパターンが多くなっています。一方、定年到達時にいったん退職する「再雇用」の場合は、1年ごとに労働契約を締結する「嘱託・契約社員」となって、労働時間は定年前と変わらない(一般労働者として働く)ものの、賃金を定年前の6~7割に設定するパターンが多くなっています。
[図表3]継続雇用時の賃金・働き方
このように、統計調査を見れば、高年齢者雇用の現状から企業における具体的な取り組みまで、さまざまなことが分かります。これらを参考にして、自社の高年齢者雇用について見直してみるとよいでしょう。
※注1:施行前に労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主については、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められています。また、心身の故障のため業務に堪えられないと認められること、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由または退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができます。
※注2:「勤務延長制度」とは、定年年齢が設定されたまま、その定年年齢に到達した者を退職させることなく引き続き雇用する制度をいい、「再雇用制度」とは、定年年齢に到達した者をいったん退職させた後、再び雇用する制度をいいます。
※注3:「高年齢者の雇用状況」には、定年退職者の24.8%が継続雇用を希望しなかったというデータも示されています。2013年4月から、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が現在の「60歳」から段階的に引き上げられていくことに伴い、これからは、定年後の継続雇用を希望しない者は減少していくことが見込まれます。
《ここで使った統計調査》
・総務省「労働力調査」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm
・厚生労働省「就労条件総合調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/11-23.html
・厚生労働省「高年齢者の雇用状況」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002m9lq.html
・厚生労働省「高年齢者雇用実態調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/3-20.html
Profile
深瀬勝範(ふかせ・かつのり)
社会保険労務士
1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。