2013年01月09日掲載

使える!統計講座 【深瀬勝範】 - 第50回 有期契約労働の実態について調べよう ~改正労働契約法に対応するために~

使える!統計講座(50)
深瀬勝範
 ふかせかつのり
Fフロンティア代表取締役・社会保険労務士

 2013年4月から施行される改正労働契約法では、有期契約労働者の労働条件に関する新たなルールがいくつか定められています。法改正に適切に対応するために、統計データを使って世間における有期契約労働者の処遇の実態を調べてみましょう。

1.有期契約労働者の雇用状況を調べる

 「有期契約労働者」とは、期間を定めた労働契約を締結して雇用される労働者のことで、一般的には、パートタイマー、アルバイト、契約社員等が、これに該当します。
 これまで、日本企業は、(無期雇用契約である正社員と比べて)人数調整を容易に行うことができる労働力として、また、コストが安い労働力として、有期契約労働者を積極的に雇用してきました。[図表1]は、総務省「労働力調査」から2002~11年の雇用形態別労働者数のデータをとり、グラフ化したものです(ここでは「パート、アルバイト、契約社員・嘱託」を有期契約労働者として集計しています)。2011年の正規の職員・従業員の数は3352万人で、2002年(3489万人)と比べると、137万人の減少となっています。この間の正社員数の変化は、団塊世代の定年退職による影響も考えられますが、その一方、有期契約労働者は、2011年は1589万人で、2002年の1284万人から305万人も増えています。
 有期契約労働者は、今や労働者の32.2%を占めるようになりましたが、その処遇については、正社員と比べて制度的に未整備な部分が多く、賃金水準も低くなっています。それでは、有期契約労働者の処遇について統計データを使って調べてみましょう。

[図表1]雇用形態別労働者数の推移(2002年~11年)

2.有期契約労働者の処遇の実態を調べる

 有期契約労働者の処遇の実態は、厚生労働省「有期契約労働に関する実態調査」(2011年)で詳しく調査されています。
 まず、労働契約の締結、更新における勤続年数の上限を調べてみると、「別職務・同水準型」「軽易職務型」「事業所に正社員がいない場合」の3パターン※1については、有期労働契約について勤続年数の上限を設けていない事業所割合が90%を超えていますが、「正社員同様職務型」(81.1%)や「高度技能活用型」(73.4%)では、その割合は低くなっています[図表2]。
 労働契約法の改正により、2013年4月1日から、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、労働者の申し込みがあれば、会社は、無期労働契約に転換しなければなりません。この「無期転換ルール」の導入に伴い、今後は、有期契約労働者の勤務年数の上限を設定するケースが増えてくるものと考えられます。

[図表2]有期労働契約の勤続年数の上限の有無

 次に、有期契約労働者に対する退職金、賞与の支給状況を見ると[図表3]、「正社員同様職務型」であっても、退職金を支給している事業所数割合は14.6%、賞与のそれは54.6%となっています(退職金、賞与の支給水準が正社員と比べて低いケースも含みます)。
 改正労働契約法では、有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止しています。したがって、ここでいう「正社員同様職務型」あるいは「高度技能活用型」の有期契約労働者のうち、正社員と同等またはそれ以上の業務内容や責任を担っている者に対して、退職金や賞与を支給していない場合はそれらを支給すること、あるいは、正社員との相違を明確にすること等の対応を講じなければなりません。

[図表3]有期契約労働者に対する退職金、賞与の支給の実態

3.有期契約労働者の賃金水準を調べる

 賃金水準を調べるときには、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」が一般的に使われています。この調査では、常用労働者を「一般労働者」と「短時間労働者」に区分けし、さらに、それぞれの「雇用形態」の項では「雇用期間の定めの有無」で区分けしてデータを集計しています。※2
 [図表4]は、「一般労働者・無期契約」と「一般労働者・有期契約」「短時間労働者・有期契約」の年間賃金の水準(所定内給与の12カ月分と賞与等を加えたもので、時間外手当を含まない)を比較したグラフです。有期契約労働者は、無期契約労働者と比べると、年齢が上昇しても賃金があまり増えず、賃金水準も低くなっています(有期契約労働の場合、一般労働者で280万円前後、短時間労働者で120万円前後が、賃金の上限額となっています)。

[図表4]年間賃金の水準比較

 ただし、有期契約労働者の賃金は、採用時の相場に大きく影響を受ける(特に軽易職務型の場合)、あるいは、従事する職務内容に応じて個別に決まる(特に高度技能活用型の場合)等の特徴があります。実際の賃金の決定においては、統計データを参考にしながら、その労働者が従事する職務内容や近隣地域の直近の賃金水準等を確認するようにしましょう。
 このように統計データを見れば、有期契約労働者の処遇の実態を調べることができます。2013年4月の改正労働契約法の施行に向けて、自社の有期契約労働者の処遇について見直すときには、これらの統計データを参考にするとよいでしょう。

※1:「有期契約労働に関する実態調査」(2011年)では、有期契約労働者を、従事する職務(正社員との対比による職務内容)に応じて、次の五つに分類している。
①正社員同様職務型(正社員と同様の職務に従事している有期契約労働者)
②高度技能活用型(正社員よりも高度な内容の職務に従事している有期契約労働者 )
③別職務・同水準型(正社員とは別の職務であるが高度でも軽易でもない職務に従事している有期契約労働者)
④軽易職務型(正社員よりも軽易な職務に従事している有期契約労働者)
⑤事業所に正社員がいない場合

※2:「賃金構造基本統計調査」における「一般労働者」とは、短時間労働者以外の労働者をいう。また、「短時間労働者」とは、1日の所定労働時間が一般の労働者よりも短い、または1日の所定労働時間が一般の労働者と同じでも1週の所定労働日数が一般の労働者よりも少ない労働者をいう。
 したがって、通常の所定労働時間勤務する有期契約労働者(契約社員等)の賃金水準は「一般労働者・雇用期間の定め有り」のデータを、所定労働時間が短い有期契約労働者(パートタイマー等)のそれは「短時間労働者・雇用期間の定め有り」のデータを見れば、それぞれ調べることができる。

《ここで使った統計調査》

・総務省「労働力調査」
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm

・厚生労働省「有期契約労働に関する実態調査」(2011年)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/156.html

・厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450091&tstat=000001011429

Profile

深瀬勝範(ふかせ・かつのり)

社会保険労務士

1962年神奈川県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、大手電機メーカー、金融機関系コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て、2001年より現職。営利企業、社会福祉法人、学校法人等を対象に人事制度の設計、事業計画の策定等のコンサルティングを実施中。