常見陽平 つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員
今回も現場レベルでの人材育成について考えます。若手社員を育てる「プチ無理難題」をご紹介しましょう。
■若手社員を甘やかしていませんか?
突然ですが、あなたの会社は若手社員を甘やかしていませんか? 「甘やかす」と聞くと、ルールやマナーに関することを想像することでしょう。取引先と接していると、その面においても甘いなと感じることはあります。若手の女性営業担当者が課長と一緒にやってきたときに「ぶっちゃけ申し上げまして」と言い出したときはひっくり返りそうになりました。
でも、今日、お伝えしたいのはその件ではありません。やりがいのある、難しい仕事をちゃんと任せていますか? ――このことを問いかけたいのです。
採用し、配属された際は、「よくぞわが社を選んでくれた」「すごい若者がやってきたぞ」と思っていた若手が伸び悩んでいたり、突然「辞めたい」と言い出すことはないでしょうか。優秀だと言われる若手の退職理由は、実は「仕事が簡単だから」です。難易度が高くて、チャレンジのしがいのある仕事を、若手に任せているでしょうか? 「プチ無理難題」を若手に任せることが離職率の低下と、若手の育成につながるのです。
有名な事例はサイバーエージェントです。サイバーエージェントには多数の関連会社がありますが、若手をどんどん関連会社社長や役員に抜擢(ばってき)しています。次世代リーダーの育成という目的のほか、優秀な若手を辞めさせないようにするという意図もあります。私の古巣リクルートでも、20代の関連会社社長、役員が登場しています。
関連会社社長、役員への抜擢というのはさすがにハードルが高いですが、優秀な若手にやりがいのある重いミッションを与える、新規事業の担当部門に配属するなどの取り組みは各社で行われています。
難易度の高い、やりがいのある仕事が早期離職を防ぐとともに、若手を育てるのです。
■難しい営業課題に立ち向かわせる
前の項目で触れた内容は、昇進・昇格、配属などを伴いますのでやや難易度が高いのですが、今度は現場レベルで取り組むことができることをご紹介します。
まず、営業系です。ここでは、「プチ難しい営業課題」に立ち向かわせることをオススメします。いきなり社運がかかっているような案件でなくて構いません。「プチ難しい」ことが大事なのです。
例えば、新規開拓営業なら、歴代営業マンが受注に失敗してきた難攻不落の取引先の開拓を任せることなどは、オススメできるプチ無理難題です。これは実は理にかなっています。というのも、今まで難攻不落だった取引先というのは、古くからその会社にいるタイプの人を嫌っているものです。その点、若手社員はフレッシュで、これまでのその会社のイメージとはまるで違うわけです。若手ならではの、今までとは違う発想の提案や、熱心な対応が顧客の琴線に触れ、大型受注につながることも。
もう一つ、営業系で言うならば、“売りにくいものを売る”ことを課題にするのも手です。ある消費財メーカーでは、営業成績が良いことで有名なチームのリーダーは、新商品の中で明らかに売れそうにないものを、当初の目標数だけ売ることに、毎月ゲーム的に取り組んでいます。もちろん、気合いと根性だけでは売れませんから、提案を工夫しなければなりません。例えば、売り場作りを提案する、他の商品と一緒に提案する、などです。これにより、より高い提案力が身につきます。
このように、営業はプチ無理難題との親和性が高いのです。
■新しいニーズを掘り起こす
また、営業担当にしろ、企画担当にしろ、新しいニーズを掘り起こす担当に若手を抜擢するのも手です。
例えば、先日お邪魔した、カジュアルダイアリーなどの手帳や文具、インポート雑貨の企画・製造・販売を行っている株式会社マークスは、就活生向けの手帳の企画担当に新人を抜擢しました。最近まで就活をしていた経験を生かせる環境というわけです。ほかにも競合がひしめく中、新人ならではのセンスを発揮してくれることを期待し、この会社にとっては新しい取り組みである就活手帳を任せているのです。
また、リクルートの情報誌『ケイコとマナブ』では、今までになかったニーズとして、就活生向けのスクール紹介という新企画に取り組んでいます。在学中に目的意識がはっきりしないままで就活するのではなく、卒業後にスクールなどで手に職をつけてから、自分のやりたい仕事に就いてもらおうという企画です。企画を推進しているのは、やはり若手の女性営業担当です。
このような、新たなニーズの開拓というのもプチ無理難題といえるでしょう。
もちろん、たんなるムチャぶりになってはいけません。サポートは必要です。このサポートを通じて、管理職、教育担当も成長するのです。
プチ無理難題で、若手を、いや組織を成長させましょう。
常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)『「意識高い系」という病』(ベスト新書)『女子と就活』(白河桃子氏との共著 中公新書ラクレ)『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)