2013年08月30日掲載

Point of view - 第2回 深澤真紀 ―草食男子名付け親が語る イマドキ若者との付き合い方

草食男子名付け親が語る
イマドキ若者との付き合い方

深澤真紀 ふかさわ まき
コラムニスト・編集者 企画会社タクト・プランニング代表取締役社長
1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。在学中に「私たちの就職手帖」副編集長をつとめる。いくつかの出版社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役社長に就任。2006年に名付けた「草食男子」で、2009年新語・流行語大賞トップテン受賞。著書に『ニュースの裏を読む技術』(PHPビジネス新書)、『ダメをみがく』(津村記久子との対談集、紀伊國屋書店)など。

 

実はイマドキの若者を褒めた「草食男子」

 草食男子の名付け親というと、「確かにイマドキの若者は情けないよね」とよく言われるのだが、実はイマドキの若者を褒める言葉として名付けたのだ。
 私自身はバブル世代だが、イマドキの若者は上の世代よりもいいところが多いと思っていて、「もてないわけではないが、恋愛やセックスにがっつかず、女性とも友情関係が持てる男性」という意味で、2006年に名付けた。
 当初は「そんな男はいない」と言われていたのだが、2007年に女性誌から「女性がもてないのは草食男子のせい?」と取り上げられ、さらに2008年のリーマンショックで、「車が売れない」ことなどの“犯人”扱いされて一気に流行し、国外でも話題になった。
 名付け親の意図とは逆の意味で流行し、“若者叩(たた)き”に使われるようになってしまったのは、若者たちに申し訳ないと思っている。

少子化は草食男子のせいか?

 「でも、イマドキの若者は、消費や恋愛に興味がないのでは」と思うかもしれない。しかし彼らは、上の世代のような「見栄消費」をしないだけで、「応援消費」や「実質消費」が好きなのだ。
 そして社会貢献やエコロジーなど“誰かの役に立つこと”にはとても興味があるので、車が売れないといってもエコカーなら欲しい、あるいは自転車で十分だと思っている。
 そもそも少子高齢化によって、“若者人口”はどんどん減っているわけで(戦後の若者人口は総人口の6割を超えていたが、今では3割を切っている)、“若者に物が売れない”のは当たり前なのだが。
 また恋愛においても、“誰かに見せびらかすデート”をしたり、自慢できる恋人をつくる「見栄恋愛」をせず、「ワリカン恋愛」「平熱恋愛」が増えているので、“若者が恋愛している姿”が見えにくくなっているだけなのだ。
 実際に、厚労省の調査では、「恋人として交際している異性がいる」男性は、バブル期の1987年には19.4%で、2010年(22.8%)のほうが多い。そして「性経験あり」も、1987年よりも2010年のほうが、男性は53.0%→60.2%に、女性は30.2%→55.3%に増えている。
 「少子化は草食男子のせい」と思われがちだが、それも違う。なぜならば、日本以外で少子化が進んでいる国には、イタリアや韓国もある。“女性に積極的な男性”が多そうなこれらの国でも、少子化は進んでいるのだ。そして日本も含めて、これらの国の少子化の理由の一つは、“女性が働かないこと”だ。男性一人の稼ぎでは、子どもの養育費や教育費が十分ではないということで、子づくりや2人目を諦めてしまうわけだ。
 “女性が働けば、少子化による労働力や納税や年金の問題も改善される”ということを、あらためて申し上げておきたい。

若者は留学に興味がない?

 一方では、“会社に対する信用は薄く、出世欲もあまりない”というのも確かだ。しかし、「ゼネラリスト」になるよりも「スペシャリスト(職人)」になりたいと思い、「威張られる」のも「威張る」のも嫌いで、「褒める」のも「褒められる」のも好きな彼らは、“島耕作”型ではなく“釣りバカ日誌”型の働き方を好んでいる。
 “家族や友人を大事”にし、“地元が大好き”なのも、彼らの特徴だろう。
 また、“最近の若者は海外に興味がない”と言われるが、これも違う。90年代には全留学生の75%がアメリカに留学していたのが、37%ほどに減っているだけだ。アメリカだけでなく、さまざまな国に留学するようになっただけで、そのほうがよっぽどグローバルだろう。
 実際、留学生の数は、バブル期の1980年代後半で1万5000人程度しかいなかったのだが、2010年は6万人程度と4倍に増えている。

貧困率が上がっても犯罪率は減っている

 また、若者による犯罪や交通事故なども、減っている。“若者の貧困率が上がっているのに、若者の犯罪が減っているのは日本だけ”と言われるくらいだが、その代わりに先進国で若者の死因の1位が自殺なのは日本だけで(他の国の死因の1位は事故)、大きな問題である。
 そもそも、どんな時代でも“若者とは評判が悪いもの”で、団塊の世代やバブル世代もそうだった。経済状況が悪いことで、「今の日本やイマドキの若者は最悪だ」と、上の世代も若者も、絶望的に思い込んでしまっているだけで、その“絶望”こそが問題なのだ。
 まず、私たち上の世代が“絶望的な考え方”ではなく、自分たちを否定せず、肯定するような“生産的な生き方”を見せることが大事だ。若者は、本当は上の世代を尊敬したいと思っているのだから。
 そして、自分の過去の成功体験を自慢せず、“自分たちの技術や失敗”を伝えて、若者に自分たちをうまく使ってもらうことだ。
 “若者を信じて、若者に頼る”ことが、日本や自分たちのためになるのだ。