組織活性の源泉
左京泰明 さきょう やすあき 特定非営利活動法人シブヤ大学 学長 1979年、福岡県出身。早稲田大学卒業後、住友商事株式会社に入社。2005年に退社後、特定非営利活動法人グリーンバードを経て、2006年9月、特定非営利活動法人シブヤ大学を設立、現在に至る。著書に『シブヤ大学の教科書』(シブヤ大学=編 講談社)、『働かないひと。』(弘文堂)がある。 |
雇用契約や金銭的対価のないボランティアが活躍する非営利組織の人材マネジメントにおいては、「人はなぜ動くのか?」という問いに向き合わざるを得ない。本稿では、今夏サンフランシスコで出会った二人の人物との会話を中心に、その問いを考える手掛かりを紹介したい。
「モチベーションの源泉」
「ここにいる人間に共通するのは、それぞれの目的意識が明快なことです。さらに言えば、その奥にある、自分自身の『モチベーションの源泉』みたいなものを、はっきりと認識していると感じます」
パロアルトの住宅街にあるカジュアルな中華レストラン。大手外資系コンサルティング会社の東京オフィスに籍を置き、現在スタンフォード大学に留学中の、いかにも秀才の雰囲気漂う20代後半の彼は、自らの言葉を確かめるように、ゆっくりと語った。先は「こちらで学ばれていていかがですか?」という投げかけへの返答。誠実な人柄を表す短い沈黙のあと、彼から出てきたのは、文字通り世界中から集い、それぞれの分野で事をなさんとする、共に学ぶ人間たちについての考察だった。
目的意識とは「今、私がスタンフォード大学で○○を学ぶ理由」。例えば「私は以前、カンボジアの農村で子どもの教育を支援するNGOで働いていたが、政府とのプロジェクトが始まるため、非営利組織と公的機関の連携について、体系的に学びたい」という類いのもの。それに対し、「モチベーションの源泉」とは、「そもそもなぜ、私はカンボジアで子ども達の教育支援をするのか?」という問いに対する、答えに当たる部分である。
「モチベーション」という言葉は特段目新しいものではないし、「モチベーションの高め方」などといった使われ方も一般的だ。しかし「モチベーションの源泉」という考え方は新鮮だった。モチベーションが湧き出る“みなもと”。モチベーションは理由なくそこにあるのではなく、湧いてくる根拠が自らの内に存在するのではないかという考え方は、「モチベーション」という概念を理解するための一つの有効な補助線と思われた。
「Self-Identification(自己認識)」
サンフランシスコ出身、本人いわく決して裕福ではない家庭に育つも、家族の後押しもあり最終学歴はUC Berkeley。現在、日本で国際弁護士として働く傍ら、教育NPOのマネジメントのサポートにも携わるアメリカ人の彼は、「アメリカの子どもに比べ、日本の子どもは自分に自信がない」と言う。「大人に比べ、経験の少ない子どもは、おのずと自信がなくても仕方がないのでは?」ノー、原因は経験の多寡ではないと言う。
「Self-Identification(自己認識)」の欠落。彼の考える原因はここにある。そしてそれは、子どもに限ったことではない、と続く。一般に日本人に「あなたは誰?」と問えば、一番に返ってくるのは「勤め先の会社」、そうでなければ「出身大学」、さらには「家族や家柄」みたいな話になる。要は、自己の認識が、自らが所属する(した)集団に重なっており、自分自身に対する認識が欠けている。もしそれがアメリカであれば、質問の答えは百人百色であり、その根っこには確たる自己認識がある。
なぜか。原因は「学校」と「家庭」、二つの教育環境にある。教室では常に自分の考えが求められる。内容の正誤ではなく“あなた自身がどう感じたか、どう考えたか”“それをどのように他人に伝えるか”に重きが置かれる。家庭では、子どもが親に何かをやってみたいと言えば「いいわね!やってみなさい!」が基本の態度。「自分の“タレント”を見つけなさい。そうすればあなたは成功できると思うし、きっと幸せになれるわ」。彼自身、幼い頃から母親にそんなふうに言われていたのだという。「あなたの母親は特別では?」と尋ねると、もちろん多様な価値観はあるが、アメリカ人の子育ての姿勢として一定の共通部分だと言う。
そんな幼い頃からの環境のなかで、内なる自分とのコミュニケーションを重ね、自分がいま何を感じ、どう考えているかなど、徐々に捉えることができていく。これが「Self-Identification」を形成し“自分への自信”につながる、というのが彼の主張である。
“内なる自分をよく知ることが、いまの自分をよく生かす”
「モチベーションの源泉」「Self-Identification」、二つの話に共通するのは、“内なる自分をよく知ることが、いまの自分をよく生かす”ということだろう。そんな個人の活性化こそが組織の活性化の基礎であるならば、“組織活性の源泉は、一人ひとりの内なる源泉にある。”そんな前提を基にした、人材のマネジメントが求められているのかもしれない。