「女性の活躍」成功のカギは
男性の家庭進出
パク・スックチャ ぱく・すっくちゃ アパショナータ, Inc.代表 ダイバーシティ(多様性)&ワークライフ・コンサルタント 日本生まれ、韓国籍。米国ペンシルバニア大学経済学部MBA(学士)、シカゴ大学MBA(経営学修士)取得。米国と日本で米国系企業に勤務後、日本で最初にワークライフバランスを推進するコンサルタントとして独立。同時に、米国とアジアに精通したグローバルな経験を活かし、ダイバーシティ(多様な人材活用)の推進に力を注ぐ。著書に「アジアで稼ぐ『アジア人材』になれ」(朝日新聞出版)など。 |
定着進む女性の力をどう活用するか
昨年、安倍内閣が「女性の活躍」を成長戦略の中核として打ち出して以来、「女性の活躍推進」への関心が急速に高まってきました。
女性が仕事を継続する上で不可欠な仕事と家庭の両立に関して、企業は2006年頃から両立支援を拡充しています。特に大手企業では、2~3年間の育児休業や、子供が小学3年生や6年生になるまで利用できる時短勤務制度を提供する企業が大きく増加しました。
企業が両立支援に力を入れる主な理由は「女性従業員の出産に伴う離職率を低下させること」、そして「女性活用を推進すること」。企業努力の結果、厚生労働省の調査によれば2005年72.3%だった女性の育児休業取得率は、2011年に87.8%、従業員数500人以上の企業では91.4%と、出産や育児を機に離職する正社員女性はぐっと減り、同時に復帰後の時短勤務者が急増しています。
ただ、女性の定着は大きく改善したものの、育休取得者や時短勤務者が増えても職場のチームに求められる仕事量は変わらないため、他のメンバーへしわ寄せがいくなど、仕事へ支障が出る職場が増えてきました。
また上司は、時短勤務者に責任の重い仕事を与えず、時短勤務者の担う仕事の幅や質が長期間限定されてしまっているケースも多々見受けられます。
私は長期の育休や時短勤務はセーフティーネットとしては適切だと感じますが、そうでない場合はあまり賛成ではありません。なぜなら、妻の長期にわたる育休や時短勤務は、夫の家庭責任の免除期間を長期化し、男女の役割分担を強化させてしまうからです。
そして、妻は「夫の家庭責任を肩代わりするために自分のキャリアをあきらめ、時短勤務を活用してソコソコに働く」というパターンに陥ってしまうのです。
残念ながら、このような状態では当然、女性の活躍は期待できません。
もし妻が、育休を終えて早々にフルタイムで復帰すれば、必然的に夫は働き方を変え、家庭責任をシェアするきっかけになるのですが…。
政府と企業は「女性活躍推進のため」両立支援の充実を進めていますが、定着と活用は別もの。むしろ、定着するようになった女性たちの活用に力を注ぐべきで、現状では目的と施策が矛盾していることを認識すべきです。
家事分担の比率が女性の活躍度を左右する
日本の育児休業や短時間勤務期間は海外と比較してはるかに長いことをご存知でしょうか。
米国の出産休暇は基本的に12週間で無給。香港やシンガポールなど主なアジア諸国は10~16週間。そして、その直後にフルタイムで職場復帰することが当たり前。なぜならば、長期の休業や時短勤務はキャリアのスローダウン期間を長期化し、仕事での能力発揮が困難になるからです。
本来、企業戦略としての両立支援の目的は、「能力をフルに発揮するためにその障害となるものを取り除く」ためのもの。単に「仕事と家庭の両立をしやすくする」ためではありません。
共働きであれば、夫婦で仕事と家庭の責任をシェアすべきです。しかし、実際に仕事をしながら家事・育児を担うために両立支援を活用する人の大半は女性なのです。
「仕事・家事・育児」の三つをどのように分担するかは、世界の共働き夫婦にとっての普遍的な課題で、その分担比率がその国の女性の活躍度に大きく影響します。仕事に力を注ぐには家事・育児に割く労力と時間を減らさなくてはいけません。
米国とアジア諸国では「フルタイム同士の共働き夫婦」が圧倒的に多いのですが、では彼らは時短勤務を利用せず、どのように仕事と家庭を両立しているのでしょうか?
アジアでは手頃な価格で家政婦さんを雇うことができるため、妻は家事・育児を一切せず、仕事に集中することができます。
一方、家政婦さんの人件費が高い欧米では夫が家事・育児の家庭責任を妻とシェアしながら、両立しているため、欧米男性の家事・育児時間は長い。
そして、そのおかげで多くの女性が職場で活躍できている。女性管理職比率が高い国は総じて男性の家事時間が長いのです。日本のように、共働きにもかかわらず、夫や家政婦のサポートが得られず、妻だけに「仕事」「育児」「家事」の三重苦がのしかかることが、日本で女性が職場で活躍する上で最大の障害になっていることを理解して頂けたでしょうか。
仕事と家庭の両立と女性活躍推進の成功のカギは、女性の家事負担を減らす「夫」か「家政婦さん」の活用にあり、決して、妻が家事・育児のすべてを担いながらバリバリ仕事をするスーパーウーマンになることではないことを、海外のワーキングマザーのやり方をみて感じます。
「妻の社会進出」とともに「夫の家庭進出」を
もちろん、人々の価値観はそれぞれですから、みんなが昇進を目指すべきだとは思いません。ただ、人口減少により日本経済が縮小し、終身雇用を守ることが難しくなる今後、経済的に妻も働き続けることが不可欠になるでしょう。
一昔前は日本よりも専業主婦率が高かった欧米で働く妻が増えた最初の要因は、「女性たちがキャリアで成功したい」からではなく、「経済的な理由」からでした。不確実な時代は、専業主婦になりたい女性たちも現実問題としてなれないため、夫婦で経済的責任と家庭責任をシェアすることがお互いにとって望ましい策ではないでしょうか。
今日本で求められているのは、「妻の社会進出」と同時に「夫の家庭進出」なのです。
そして、夫が家庭進出することにより、計り知れないメリットがもたらされます。妻が夫に感謝し妻から夫への愛情が強くなり、父親が子供と過ごす時間が長くなるので、父子の絆が強くなる。そうすると家族関係が良くなり、社会全体が健全化する、というように、誰にとってもWin-Winになるのです。
男性の読者の皆さんはぜひ、今日から少しでも家庭進出を実践して、家族関係の向上を実感してみてはどうでしょう。